4.2.36
ソフィアが4体ずつ誘導し、目を潰して始末していく。
それも4回までだった。
ゲート前が崩壊しかけている。
守備隊の手に負えないほどの数のウィルコープス。
囲まれるのを防ぐためか、守備隊は、方々に散り始め、集団戦から個人戦に切り替えたようだ。
ソフィアが誘導せずとも、溢れたウィルコープスがこちらへ駆け寄って来る。
外からも、まだウィルコープスが流れ込んでくる。
ウィルコープスは、移動が遅い。
守備隊は、密集して囲まれるよりも、距離を取り安全に倒すのを選んだのだろうか。
そして、ここを目指しているウィルコープスは、十数体。
そしてオレ達は……オレはここを動けない。
未希とストームを担いで逃げるにしても難しい。
基地に雪崩れ込むウィルコープスが多すぎる。
想像以上だった。
ゲート前は、ウィルコープスで埋め尽くされていた。
近付いてきたウィルコープスを、リュウジが体当たりで弾き倒す。
その隣の1体の左胸に匕首を突き立て、そいつもそのまま突き飛ばす。
倒れ込んだ1体に、オオカミが覆いかぶさり、喉元を噛みちぎる。
オレの前にも2体。
地面の残った灰が、自動で舞い上がり、ウィルコープスの眼球を覆い、動きが緩慢になる。
もう1体は、灰が無くなった地面をすり抜け、オレの左胸に剣を突き出す。
半身を捻って、突きを躱し、腕を切り落とす。
そのまま、刃を寝かせ、胴を薙ぐ。
倒れ込もうとするウィルコープスを蹴り飛ばし、灰で視界を潰された1体の首を跳ね飛ばす。
「少し前へ出る。援護してくれソフィア」
「オーケイ」
テントの前は、すでにウィルコープスの死体が複数散らばっている。
足の踏み場が少なくなっていた。
複数体のウィルコープスを迎え打つ。
ソフィアが、砂を撒き散らす。
向かってくるウィルコープスの大半の視界が奪われた。
優先すべきは、視力を奪えなかったウィルコープス。
まずは手斧のウィルコープス。
いつものフェイントをしかけたが、引っかからなかった。
オレの袈裟切りが躱される。
斧頭で、左側頭部を殴られる。
仰け反りそうなのを堪えて、左脚を踏み込み、ハラを薙ぐ。
次の相手は、細い刺突剣。
オレの首元を狙って剣先が飛ぶ。重心は右前に掛かっていたが、首だけ逸らしてギリギリ躱す。
そのまま、右下にカラダを沈みこませて、左腕でサンダーソニアを振るう。
あいかわらず、斬った感触が無い。
切れ味抜群だ。
次のウィルコープスは両手剣の大男。
力任せに突進し、左上から剣を振り下ろして来る。
コレは簡単そうだ。
その一撃を、サンダーソニアで右下に受け流し、伸びた両腕を切り落とす。
そのまま刃を寝かせて、ハラを斬り裂く。
腕からハラへの連続斬りだけは得意だ。
足元のウィルコープスが更に増えていく。
少し下がる。
駆け寄ってきた2体のウィルコープスが、死体に躓き、前のめりに転ぶ。
先に起き上がろうとしたウィルコープスの背中を踏みつけて、首筋を突き刺す。
起き上がりかけて膝立ちのウィルコープスの首を跳ね飛ばす。
見渡すと、斬り掛かってくるのは、今ので最後だった。
基地のあちこちから、怒号が聞こえる。
守備隊がそこかしこで戦っている。
その時、少し離れたテントから、真っ白い光の玉が、上空に飛んだ。
白色の玉。明るい。
基地全体が、ナイター球場のように明るく照らされた。
誰の魔法か、すぐに分かった。
シャルマだ。
オレの右肩の痛みを消してくれたあの魔法と同じ感覚が、夜空から伝わる。
その光りで、見渡せる範囲のウィルコープスの群れが照らされた。
塀のあたりから、いくつかの魔法のようなものが放たれ、何体かのウィルコープスが薙ぎ倒される。
まだまだ多いが、だいぶ減っていると思う。
少しは戦意も上がりそうだ。
それでも、オレ達のテントを目指して、10体を軽く超えるウィルコープスが駆け寄ってくる。
距離はまだ少しある。
呼吸を整えながら、少し下がる。
ソフィアが、短い短剣を構えて、視界を潰されたウィルコープスを処理していた。
どこかからリュウジの怒号。
どこにいるんだろうか。探す余裕もない。
オオカミの唸り声も、どこかから聞こえる。
テントの前は、夥しい数の死体の山。
オレの顔の左頬。
温かい液体が流れ落ちている。
さっき、殴られたところだろうか。
痛みは感じない。
一度、ソフィアの所へ戻り、ソフィアを手伝う。
「まだ、いけるか?」
「……他に選択肢ある?」
ソフィアが、手を広げる。
その手には、すでに砂が載っている。
その砂が、向かってくるウィルコープスの眼球に降り注ぐ。
目を潰されたウィルコープス達が、テント前に転がる死体に足を取られ、次々と転倒していく。
オレは、目を潰し損ねた数体のウィルコープスに斬りかかる。
やることは同じだ。
1体、また1体。
ときどき、反撃を受ける。
腕や、足。背中。
左手の指にも、衝撃を感じた。
しかし、痛みは感じない。
少し殴られただけだろう。
それとも、アドレナリンか。
暗闇の先すらも、良く見える。
振り向いて、腕を斬り飛ばし、その反動のまま、次のウィルコープスの首をまた斬り飛ばす。
他の場所は、どうなっているのか、わからない。
ただ、眼前のウィルコープスを、どうやって斬り伏せるかのか。
考えるのはそれだけ。
気付くと、燃え上がるウィルコープスが、武器も持たずに歩いていた。
焚火の上を歩いたのだろうか。
そのウィルコープスが、転がってるウィルコープスに躓き、転がる。
その火が瞬く間に、テント前に積み重なる死体に引火していく。
塩味の効いた焼き鳥屋の匂い。
食欲は、まるでそそられない。
しばらく肉も、軟骨も食べられそうにない。
燃え広がるウィルコープスから、小さな火の粉が飛んでいる。
テントを焦がしている。いつ燃え移るか分からない。
「ソフィア!」
ソフィアの顔が青い。
魔法の使い過ぎか。
いや、今はそれどころじゃない。
未希と、ストームをテントから運び出さないと。
「リュウジ! どこだ!」
「おぅ! 裏だ!」
良かった。
リュウジも、まだ生きている……
「手を貸してくれ!」




