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4.2.35


 オレ達は、テントの前に陣取っている。


 東のゲートからは金属音と怒号。

 ゲートはまだ、破られていない。


 ゲートの周囲は、松明や、焚火の炎が揺らめいており暗くは無い。

 その灯りに照らされる守備隊とおぼしき男達が十数人。

 守備隊の中央で、ウィリアムが、大声で指揮を執っている。


 女性も含めた残りは、土手から塀の上に登り、外に向けて魔法や弓を放っている。

 現時点で、どれだけ撃ち倒したのか、塀の外の様子は確認できない。


 ゲートは丸太を組んだだけの簡易的なものだった。

 外から斧で砕かれ、斬り込みが入っている。

 長くは、持ちそうも無い。

 増え続ける裂け目から見えるのは、無表情なヒトの顔。

 ウィルコープスだ。

 守備隊がその隙間から剣を突き出し、ウィルコープスの数を減らしている。


 やがて、塀の上、魔法を撃ち続けていた術師の勢いが無くなっていく。

 もう、撃ち疲れてしまったのだろうか。

 やはり、攻撃魔法というものは燃費が悪いようだ。

 最初と比べて、迎撃の手数が明らかに減っている。


 そして、ゲートが……破られた。

 ゲートを蹴破った数体が抜けてくる。

 待ち構えていた守備隊が、それを即座に斬り倒す。

 続けざまに雪崩れ込んでくる。

 後列の守備兵が、侵入してくるウィルコープスに斬りかかる。

 ゲートが破られると、瞬く間に乱戦となった。


 手に負えない数のウィルコープスが、次々とゲートを抜けて来る。

 10体……20体……数えきれない。


 それでも、守備隊は、良く持ちこたえている。

 しかし、抑え切れないウィルコープスが、塀の土手を駆けあがっていく。


 弓を構えていた男がそれを投げ捨て、手斧を抜いて迎え撃つ。

 疲弊した術師たちの元へも、ウィルコープスが、襲い掛かる。

 術師たちは、武器を持っていない者が多かった。

 ウィルコープスが振り上げた剣、それがただ振り下ろされるだけ。

 思わず、目を逸らす。

 もう一度目を向けると、先ほどまで立っていた幾人かの女性のが地面に倒れていた。


「ソフィア。3体か……4体でいい。ここに誘導できるか? 沢山誘い込む必要は無い」


「オーケィ」


 ソフィアが、地面の砂を掴む。

 手を広げて、目を閉じ……砂に、息を吹きかけた。


 砂が光を放ち、ゲートの方へと飛んでいく。

 砂の光が見えなくなると、手前に居たウィルコープス4体が、こちらを振り向く。

 そのまま、こちらに向かってくる。


 横に居たリュウジが、匕首を抜く。

 母オオカミが、一層強く唸る。


「ソフィア。ある程度間隔を開けて、次の3~4体も頼む」

「オーケィ。まかせて」


 距離を詰めるウィルコープスが、間合いに入る前。

 その足が、ソフィアの蒔いた灰を踏んだ。

 すると、僅かな灰が舞い上がり、ウィルコープスの目を覆った。


 普通の人間だったら、目を開けていられず、目頭を押さえて動けなくなるだろう。

 しかし、ウィルコープスは、痛みや痒み、不快感などは感じないようだ。

 眼球に灰をまぶしたまま、まばたきもせずに向かってくる。

 だが、目は見えていないようだ。

 剣を振り上げることもなく、ただこちらに近づいてくるだけ。


 オレは、右、左と、サンダーソニアを降り抜き、2体の首を斬り飛ばした。

 リュウジは、襟首を掴み、短い匕首でウィルコープスの喉を掻き斬った。

 地面に鮮血が飛び散る。


 残り1体の右腕に、母オオカミが噛みつく。

 そのまま地面に引きずり倒す。

 リュウジが、心臓のあたりに匕首を突き刺す。

 リュウジの羽織るベストに、ウィルコープスが口から血を噴き飛ばした。


「ちっ……きったねぇなぁおい」


 リュウジが、血塗れになったベストを脱ぎ捨てる。

 そこに現れたのは、ヤクザのお約束。

 和彫りの看板だった。


 ハラには、サラシ。

 胸板の両端から肩へと絵がかれた、鮮やかな入れ墨。

 右肩には、真っ赤な緋鯉。

 左肩には、牙を生やした、首の細い龍。

 意識と記憶しか持ち込めない世界に、リュウジが持ち込んだ現実世界のアイデンティティ。

 どっからどう見ても……リュウジはヤクザだった。


 この男は、いったいどんなヤクザで……

 そんなヤクザが、なぜ、こんな訳の分からない世界に参加しているのか。

 


 生きるか死ぬかも分からないこの状況で。

 オレは、その理由が知りたくて堪らなかった。




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