4.2.34
オレとソフィアは、まだ焚火の近くに座ったままだった。
「とても嫌な音ね……襲撃かしら?」
ソフィアが、鐘の音のする方を眺めている。
基地の中は、異様な雰囲気に包まれていた。
周囲の男達が、武器を手に、東のゲートへと終結している。
「なにかが攻めてきたのか」
「……みんな慌ててるわね」
まずいな……
未希とストームはログアウトしたばかり。
あと5時間は、動けない。
背負って逃げるか。
「おぅ、ソウジっ、戻ってたのか」
声のする方を向く。
リュウジが歩いて来ていた。
母オオカミは、遠くのバラックの前。
群れていた男達が走り去った後も、扉の前に留まっている。
リュウジに問う。
「なにが起きた?」
「見てきたわけじゃねぇが、
鐘の合図で分かる。
最初の2回は、敵の種類。
次の4回と2回は数。
獣以外の接近、推定400。
北東からだ」
「400……? 獣以外って、ウィルコープスか?」
「プレイヤー400人じゃねぇとしたら、たぶんそうだろう」
「ソウジ? なんて言ってるの?」
ソフィアが英語で、会話に割り込む。
オレとリュウジは、日本語で話していた。
ソフィアには伝わっていない。
簡単に英語で伝える。
「400…冗談でしょ?」
リュウジに視線を戻す。
ソフィアにも分かるように、英語で話を再開した。
「リュウジ、この基地は、400体のウィルコープスに対抗できるのか」
「ギリギリだな。
基地に居るのは30人だが……
30人でも厳しいってのに、10人近くがケガしてる」
「オレ達だけで逃げられるか?」
「南西側は、厳しいな。
オオカミが縄張りを作ったみてぇでよ。
夜は、なおさら、やべぇ。
少人数で出歩くなんて、
喰われに行くようなもんだ。
オオカミから身を隠して、南西を抜けるのは無理だな」
留まればウィルコープスの大群。
逃げれば暗闇の先にオオカミ。
「なにか策は無いか……?」
…………
3人とも、押し黙る。
時間が過ぎていく。
鐘が鳴り響いている。
東のゲートと、北側の塀の辺りに、武器を持った住人が終結していた。
ケガ人を含む、二十数人。
ウィルコープスは、20倍。
「そういや、ミキのお嬢ちゃんはどうした?」
「テントでログアウト中だ」
「かぁ~っ……間がわりぃなぁちくしょう」
ソフィアに視線を戻す。
「魔法でどうにかできないか?」
「私は、ストームや、未希みたいに、器用じゃないのよ。扱える魔法も限られてる」
話してると、北東の塀の上から弓や、魔法が放たれる音が聞こえた。
内側は斜面になっていて、塀の上に昇れるようになっている。
「……ここの連中は、基地を防衛するんだな」
「俺も含めて、その為の人員だからなぁ。
これでエレメント・コアに近いのも確定だ。
放棄は出来ねぇだろうな」
「なら、オレ達もそれに賭けるか」
「それがいいな」
リュウジが、バラックの方へ視線を向けた。
「じゃ、ちょっと待ってろ。カミさんとリュウタ連れてくっからよ」
言い残して、リュウジは、バラックの方へと駆けていった。
その後ろ姿を見るソフィアが言った。
「誰?」
「絶滅危惧種の日本のヤクザだ」
「YAKUZA! クールだわ!」
「オレ達も防衛に参加するが、守るのは基地では無く、このテントだ。ソフィアも手を貸してくれるか?」
「もちろん。ミキとストームを守りましょう」
リュウジは、母オオカミを連れて、すぐに戻った。
両手には、子オオカミを抱えていた。
「ソウジ、リュウタもテントに入れさせて貰うぜ」
「ああ。オレ達でテントを守ろう」
リュウジがテントの入り口をめくる。
テントの中央。
未希とストームが、身を寄せ合い、死んだように眠っている。
その2人の真ん中に、子オオカミのリュウタを降ろす。
リュウタはしばらく、顔を振り回して、匂いを嗅いでいた。
未希の匂いに安心したのか、未希のお腹の辺りにヨロヨロと摺り寄り、体を丸めた。
その光景を見下ろすリュウジが言った。
「頼んだぜ、リュウタ。嬢ちゃんたちを、守ってくれよ」
母オオカミは、テントに入らず、入り口に佇んでいた。
オレ達と目を合わせることもなく、子オオカミを眺めている。
テントから出ると、ソフィアが焚火の灰を蒔いていた。
テントを中心に、5メートルほど離れた場所に円形に。
オレの視線に気が付いたソフィアが言った。
「私の武器は、こういうのしかないからね」
東のゲートから喧噪が上がる。
ウィルコープスが、ゲートを破壊しようとしているのだろうか。
ここから、100メートルも無い。
テントの入り口を陣取った母オオカミが、ゲートを向いて、唸り声を上げている。
もう、幾ばくも持ちそうにない。
オレは、腰の剣。サンダーソニアを引き抜いた。
クロスガードのチューチップが、少し、じめっとして、機嫌が悪そうに見える。
そういや、今夜は……剣の手入れをしてなかったな。




