4.2.32
翌朝。
太陽が昇り出した直後に、棒きれを確認する。
東から昇る朝陽に照らされ、その影は、西南西の方角を指し示していた。
焚火越しに、棒きれの先に見える景色。
遙か彼方に見える、山の形を覚えておく。
徐々に朝陽が昇り出し、未希とソフィアが目を覚ます。
シャルマは瞑想してる。
「顔洗いたい……水筒のお水使っていい?」
「ダメだ」
貴重な飲み水だ。
そんなことには使えない。
目を覚ましたストームに、影の方向と、行先の景色を伝えた。
ストームが、枝で、地面に数字を書いて、なにやら計算を始める。
陽が昇り、周囲が明るくなってきたころ。
森の外縁で、ベリーを摘んでいたソフィアと未希が、大声を上げた。
見ると、森の奥。
疎らだが、多くの人影。
20体か、それ以上のウィルコープスの群れだった。
速度は、歩くよりも少し遅いペース。
まだ距離はあるが、こんな森の外縁にまで来ていた。
オレ達5人で相手にできる数ではない。
すぐに荷物をまとめ、その場を離れた。
正午の少し前。
昨夜の魔法が功を奏し、オレ達は、行くときに通った記憶のある場所に辿り着く。
あとは、記憶を頼りに、進むだけでいい。
振り返ると、オレ達が抜けて来た森は、遠くの丘に隠れて見えない。
ウィルコープスの姿も、どこにも無い。
そして、正午を少し過ぎた頃。
オレ達は、前哨基地に辿り着いた。
中に入ると、異様な喧噪。
なにがあったのかと聞く。
食糧調達に出ていた幾人かが、オオカミの群れに襲われ、けが人が多く出たという。
それを聞いたシャルマは、旅の疲れも見せずに、オレ達から離れて、救護所へと向かっていった。
オレ達4人は、基地の本部へと向かう。
本部といっても木造のバラックだが、この基地の指揮官、ウィリアムという男と顔を合わせた。
遠征隊の顛末は、ソフィアが報告した。
ミラーから預かった、布切れのメモも、ウィリアムに手渡した。
オレ達が居ない間に、前哨基地では2名の死者と8名の負傷者が出ていた。
いずれも、基地の外で、オオカミの大群に襲われたらしい。
この付近にオオカミの大群がうろつく理由……
心当たりが、無いことも無い……だが、それは黙っておく。
「今夜は、空いてるテントを使って休め」
ウィリアムから、労いの言葉だけ受け取り、オレ達は、与えられたテントに向かった。
「はぁ……疲れたわ。今日はもう休みましょう」
ソフィアが、未希とストームに声を掛ける。
3人とも疲労困憊だった。
「みきは、おなかすいたぁ……」
「……みきさん、ログアウトしない?」
身も蓋もない会話をしている。
「ミキもストームも、ログアウトしていいわよ。私が見ててあげる」
「……いいの?」
「私は3日前にログアウトして、シャワーも浴びたわ。2人とも……カラダ洗ったのいつ……?」
「いいなぁ……お風呂入りたい」
「うん……おにいちゃんは? ログアウトする?」
ソフィアを信用していいのだろうか……
これまで、何度もオレ達を助けてくれている。
今さら、命を奪われたり、何かを盗まれたりすることは無いと思いたい。
盗まれるような物もあると言えばあるが、珍しいのはカレンダーの木札と、オレの剣、サンダーソニアくらいだ。
この剣の切れ味は異常だ。
まだ、3度くらいしか使っていないが、斬りつけても、斬った感触が無い。
試してはいないが、岩でも切断できるんじゃないかとすら思う。
まぁ、ソフィアは少し気になることがある。
オレは、残ろう。
「先に戻ってろ、オレはもうしばらく、留まる」
「じゃあ、わたしと、みきさんだけログアウトする?」
「うん」
デバイスを出した。
『 ELAPSED 02:28 』
ストームカレンダーの数字は「12」だった。
「おにいちゃんはいいの? ヒゲだいぶ伸びてるよ?」
12日も髭をそっていない。
鏡はないが、触った感じだと、だいぶドロボーヒゲになっていそうだ。
次回は髭剃りを用意しておくべきかもしれない。
「2人が戻ったらな。それまで、ソフィアと2人で見張る」
「ソウジも、休んでいいわよ?」
「ウィルコープスが追跡しているかもしれない。安全だと分かるまでは残る」
「そう? それも、そうね」
まぁ、ウソだ。
ソフィアのことを……信用し切れていない。
なにより、こんな野営地で、抜け殻の2人を放置したくない。
「私は荷物をおいてくるわね」
3人がテントの中へと入っていく。
しばらくすると、テントが歪んだ。
ストームの警報魔法だろうか。
オレは、近くの焚火に腰を降ろす。
何分もしないうちに、ソフィアがテントから出た。
「なにか食べましょうか。食べ物探してくるわ」
「ああ……そうだな……あ、すまん、オレはカネを持っていない。貸しておいてくれ」
「フフフ、わかったわ」
ソフィアが、雑貨屋のバラックの方へと歩いていった。
時刻はまだ、夕方。16時か、17時くらいだろうか。
夕方だが、まだ夜ではない。
ズタ袋から鍋をとりだす。
まだ半分近く残っていた革水筒の水を鍋に移し、火にかける。
そういえば、リュウジはどうしたのだろうか。
焚火から、辺りを見渡したが、リュウジの姿は見当たらない。
オオカミに襲われて被害を受けた連中が寝起きする前哨基地で、あのオオカミは無事でいられるのだろうか。
オレにとってはどうでもいいが、オオカミの親子になにかあったら、未希が悲しむかもしれない。
あとで、リュウジを探しに行ってみるか。
いや……
別にいいか。
それほど、仲が良いわけでもない。




