4.2.30 森のお粥
そのまま森沿いを南に進む。
森を出たはいいが、前哨基地の正確な方角が分からない。
来るときに通った場所、見た景色を探しながら、オレ達は歩いた。
だが、見当たらなかった。
食糧が無いので、森から離れるわけにもいかない。
少し早いが、夕方になる前に、野営の準備を始めた。
オレとシャルマは、薪木を集め、穴を掘って焚火の準備。
女子3人は、森の外縁で、ベリーや木の実を集めた。
陽が沈み始める頃に、焚火を起こし、食事を作る。
料理担当は未希とソフィア。
鍋でブラックベリーをすり潰して煮込む。
煮込みながら、ボウルでヘーゼルナッツをすり潰す。
そこにホーソン(サンザシ)を1個落とし、一緒にすり潰す。
ホーソンは、隠し味らしい。
煮込んで、ドロドロになったブラックベリーの液体に、すりつぶしたヘーゼルナッツを混ぜこむ。
甘酸っぱい湯気が立ち昇る。
かき混ぜていくと、益々ドロドロになった、どす黒いペーストになっていく。
見た目は、お汁粉にも見える。
だが、匂いが全く違う。
甘酸っぱい匂いの中に、森を凝縮したような、青みを帯びた脂っぽさを感じる。
覗き込むストームが感想を述べた。
「なにこれ……宇宙食?」
その感想を聞いて、未希とソフィアが噴き出した。
シャルマは、あいかわらず無表情で、何も言わない。
オレの感想も付け加える。
「魔女専用の補給ペーストだろう」
「どちらも正解よ。栄養満点。でも呪われたりしないから安心して」
言いながら、ソフィアが味見をした。
「うん。まぁまぁ」
未希が、グチャグチャと音を立てて、ペーストを掬う。
それをバチャバチャとボウルに投げ込んでいく。
見た目の粘り気は、ぐずぐずのお粥のようだった。
色は真っ黒だ。
「はい、おにいちゃん。めしあがれ」
ボウルを受け取る。
よく見ると、すり潰しきっていないナッツのカケラが、チラチラと浮いていた。
スプーンに乗せて、真っ黒のペーストを口に運ぶ。
甘いのかと思ったら、まったく違った。
口の中で暴れまわる酸味。
舌に伝わる野性味あふれる青臭い甘み。
最後に残るのは、ナッツの香りのバターのような濃厚な脂。
わざと残したのだろうか。ナッツのつぶつぶの食感。
酸味と甘みに支配された、ナッツのお粥。
まぁ……悪くは無い。
悪くはないが、ほぼ全員が、腰の革水筒に手を伸ばした。
キャップを外して、今朝、煮沸した水を飲む。
美味い……
なんだこの水は。
まるで、コンビニで買った清涼水。
「お水、おいしぃ……なんで?」
未希が言った。
口の中は、真っ黒だ。
「なんでって……ミキのさっきの魔法じゃないかしら?」
水から、カビ臭さが消え、川の泥臭さも、鍋の鉄臭さも消えている。
美味しい水のおかげで、魔女の栄養ペーストも美味しく感じる。
森のお粥。
そんな感じの夕食だった。
「お鍋洗えないね。どうしよう」
「残さず、綺麗に食べましょう」
ソフィアが、大葉のような葉を配る。
最後は、葉っぱで、鍋に残ったペーストを削ぎ落す。
飲食店や、弁当の付け合わせで出てくる大葉も、この世界では残さず食べる。
鍋が綺麗になるまで、それが続いた。
美味しい水。
森のお粥。
夜空は、星が綺麗だ。
悪くない。
悪くない夜だった。




