4.2.29
茂みの奥のフランス人の2人。
ストームの引き攣った声を聞いても、ピクリとも動かない。
念のため、未希とストームは、シャルマのいる場所まで遠ざけた。
焚火の形跡は無いが、フランス人の2人は、野営していたと思われる。
独りは地面に寝転がり、マントに包まっている。
もう独りは、横倒しになった枯れ木に腰を降ろし、丸まっている。
剣を抜いたまま、枯れ木に座る男に近づく。
男はまったく動かない。
オレは、剣先で、男の肩に触れる。
軽く押しただけで、男は、枯れ木の上から、力なく崩れ落ちた。
顔は青白く、目は閉じているが口は開けたまま。
よだれを垂らしたような跡が口元にこびり付いている。
漂う男の匂いは、寝汗をかいていたかのように、汗臭い。
息をしているようには見えない。
口も、胸も動いていない。
近づいて、肌に触れようとした。
だが、それをソフィアに止められた。
「さわっちゃだめよっ」
ソフィアが近づく。
「たぶん……毒だわ。あまり近づかないほうがいいわよ」
「毒? 死んでいるのか……この2人は?」
「そうみたいね……」
「おまえを殺そうとした2人だよな?」
「ええ……そうよ。見て、腰に差してる武器」
マントに包まり、地面に転がっている男の腰。
短い槍のような鉄の棒? 筒か?
棒の両端は、一方が尖り、もう一方は、穴が開いている。
長さは20センチも無い。
棒状の鉄が、ベルトに差さっている。
「これは?」
「筒の先に穴が空いてるでしょ。そこから石を入れて、魔法で飛ばすんだと思う」
「石を飛ばす? これは銃のようなものか?」
「そうね。銃ってほどのものでもないけど……
魔法は、石を命中させるのだって難しいわ。
でも、これなら筒を向けた方向に、石を加速させるだけ。
魔法で飛ばすほどの命中率は無いけど簡単。
魔法だと命中させるのは精々100メートルだけど、
これは、飛ばすのではなく加速。
当たるかどうかは別にしても、
1キロ先でも、飛ばせるんじゃないかしら」
これが銃……?
とても銃には見えない。
ただの短槍か筒だ。
「とにかく、ここはよくないわ。
離れましょう。
拾ったベリーも捨てたほうがいいわね。
別の場所で探しましょう」
「ああ……そうだな……」
近くに毒の発生源があってもおかしくない。
だとしたら、あのフランス人に助けられたのだろうか。
なんだ……
すこし違和感を感じる。
争った形跡もなく、眠るように死んでいた。
あれは安楽死のような死に方だった。
しかも、2人揃って。
……まぁいいか。
これで、脅威がひとつ消えた。
それだけは確かだ。
あいつらの死因なんてどうでもいい。
「とにかく離れよう。まず森を出よう」
「そうね。そうしましょう」
オレ達は、ここで集めた食べ物を全て捨てた。
念のため、未希に浄化の魔法を頼む。
「じゃあみんな、手を乗せて」
未希が、手を下に向けて水平に伸ばす。
オレ達は、円陣を組んで、その手に、自分たちの手を重ねた。
――未希の浄化魔法
皆の服と持ち物のから、
体に悪さをするものだけが、
静かに離れていきますように。
「これなら確実!」
未希が、ニコニコと言い放つ。
病理学も、生態学も一切無視。
天才の未希だからこそ無し得る奇跡。
もしかしたら、拾ったベリーも安全になるかもしれないが……
あんな死体が転がる近くのベリーなんて、口にしたくない。
だから捨てていく。
歩き出すと、すぐに違和感を感じた。
ここまで歩いた汗臭い匂いが消えている。
着ている服は、汚れたままだが、匂いが無い。
未希は、毒だけでなく、カビやバクテリアまで分離してしまったようだ……
「ミキはやっぱり……天才だわ……」
ソフィアが感心している。
オレ達は、数分で森を抜けた。
前哨基地は、どの方角だろうか。
分からない。
ひとまず、食糧の調達が必要なので、森沿いに南へと向かう。
陽は、傾き始めている。




