4.2.28
キャンプ地を離れ、森の中を歩く。
方角は西。
未希も、ストームも、少しは旅慣れてきた。
旅の疲れもあるはずだが、初日のように、すぐバテることもなくなっている。
斜面を下り、また登り、登れない斜面を迂回する。
何度目かのくぼ地を覗き込んだとき、ウィルコープスと遭遇した。
数は3体。
くぼ地のせいで発見が遅れた。
距離は10メートルも無い。
先頭を歩いていたソフィアが、右手に落ち葉、左手に砂を掴み、魔法を発動させた。
あっという間だった。
葉っぱは、ウィルコープスの目に張り付き、砂は耳や鼻に吸い込まれていった。
数秒で、ウィルコープス3体の動きを封じた。
オレは、剣を抜く。
駆けだそうとしたところで、ストームが声を上げた。
「まって……わたしがやる……いい?」
是非も無い。
「やれ」
ストームの手のひら。
3本の枝が並べられていた。
目を閉じて、言葉を練り上げる。
掛かった時間は、4~5秒。
枝の歪みが収まるのと同時に、風切り音の3重奏。
3本の枝が揃って飛翔したかと思うと、ウィルコープス3体の喉に突き刺さった。
その勢いのままに、3体は仰向けに倒れた。
「すごい! ストームやるぅ」
「いや……ソフィアのおかげ……もっと修行する」
ストームも、何か、吹っ切れたようだ。
もう、NPCを殺しても、迷わない、ためらわない。
アシストと得点で、一瞬でハットトリックを達成した2人だが、なんだか、少し、ふらついている。
「どうした? 大丈夫か」
「大丈夫よ……ちょっと疲れただけ……」
ソフィアが右手でおでこを抑えている。
魔法も、ノーリスクという分けではないのか。
「今みたいなのは、ちょっとね……
……解くのに1時間かかる問題を、5秒で解く感じ?」
「いや、わからんな……」
「だよねぇ」
「数学のテストとか、疲れるでしょ? あの疲れが、一気に襲って来る……」
ストームが、補足したが、やっぱりわからん。
テスト自体、まともにやったことが無い。
「未希もそうなのか?」
「う~ん……みきは、そうでもないかも? でも、戦うのはムリ」
「ミキは、癒し系魔女だもんね」
「みきさんは、天然の天才だから、それでいい」
「えへへへ」
和やかだ。
なんだか、まるで、姉妹のようだ。
そして、ときどき存在を忘れる、シャルマ。
ちゃんと、ついて来ている。
喋らないし、表情も変わらない。
坊さんというのは、こういうものなのだろうか。
シャルマは、ウィルコープスの死体の方を向き、ブツブツと何か祈っている。
そっとしておこう。
ソフィア達に、視線を戻す。
「少し休むか?」
「だめよ。今は森を抜けるのが先だわ。休むのは、森を出てからにしましょう。次また出たら、ソウジ、お願いね」
「ああ……まぁしかし、3体出たら、逃げる方向で頼む」
「それもそうね……とりあえず行きましょう。もうすぐお昼になっちゃうわ」
オレ達は、また森の中を歩き始めた。
背負っていた太陽が、真上に差し掛かってきたところで、南西の木々に白っぽい幹が混じっていた。
シラカバの木だ。
ソフィアに声を掛け、進路を西から、南西に変えた。
そして、午後を少し過ぎた頃。
森の先。
木々の隙間に、平原の姿が見えた。
あと少しで、森を抜ける。
見渡すと、いつの間にか、ベリーの実を付けた低木があちこちに茂っていた。
「少し、ベリーを摘んでいきましょう」
ソフィアが提案した。
異論は無い。
実は、食糧が全くない。
水筒に煮沸した水が入っているだけ。
オレ達は、森を抜ける前に、そこで少し休息を取ることにした。
未希が座り込んで、革水筒のキャップを開けようとしている。
キャップは固い。
オレが開けてやる。
ストームは、ブラックベリーを摘んでいる。
ソフィアに近づくと、真っ赤な木の実をもいでいた。
「これはね、ホーソンよ。食べられるし、お茶に入れても美味しいわよ」
プチトマトのような真っ赤な木の実だった。
鼻を近づけると、酸味がかった強い刺激臭。
子供の頃に見た「サンザシ」に似ている。
「あとで食べましょう」
「どんな味がするんだ?」
と、質問したとき。
「ひゃあぁあ」
少し離れたところで、ストームが悲鳴を上げた。
オレは剣を抜きながら、ストームの所まで駆け寄った。
「どうした?」
「し……しっし……」
茂みの反対側。
ストームの指さす先。
そこに転がっていたのは……
2人の男。
キャンプから姿を消した2人。
フランス人だった。




