4.2.27
翌朝。
何事も無く、朝を迎えた。
オレと2人で見張りについたシャルマは、修行僧のようだった。
ただ、座禅を組み、薄目を開けて、なにかをブツブツと唱えている。
オレが薪木を拾って、戻ってきても、シャルマはそのままだった。
そのシャルマが、一度だけ、オレに話しかけた。
「傷は痛くありませんか?」
とだけ。
実はズキズキと痛む。
だから、また痛み止めの魔法を掛けてもらった。
オレは、シャルマのような人種と、関わった経験が無い。
何を疑い、何を信じたらよいのか。分からない。
シャルマという人物は、良くもなければ、悪いとも感じない。
ただ無害なだけ。
でも、馬鹿でも阿呆でもない。
深い知性と見識、そして、強い意志がある。
シャルマは、そんな印象の男だった。
朝食は、軽いものしか無い。
ミラーが集めた、食べられる雑草。
ソフィアが集めた、食べられるキノコ。
それを、ハーブで煮込んだスープ。
久々の泥臭いスープ。
ハーブは香りだけ。口に含むと青臭い泥の味。
キノコの食感は悪くないが、噛むと雑草の味が口の中に染みわたる。
オレは、メモリアで慣れているが、未希やストームは、歪んだ表情で食べていた。
「少しは、オレのメモリアの苦労がわかったか」
「ん……分かりたくないけど……」
「みきは、そんな嫌じゃないよ……美味しくはないけど」
食糧は、もう殆ど残っていない。
食事が終わると、ミラーが言った。
「おまえ達は、前哨基地に帰れ」
オレも同じことを考えていた。
ここにいるのは、6人。
アーネスト達7人が、全員ここに戻れば、まだ立て直せるだろう。
選択肢は3つ。
不明者を捜索に行くか。
ここでもうひと晩待つか。
それとも、前哨基地にするか。
懸念があるとするならば……
アーネストが居ない状況で、決断を下して良いのかどうかの問題だけだ。
だがそれを覆す要因がある。
食糧が乏しい。
ウィルコープスが散らばった森で、食糧を探し回らなきゃならない。
「ミラーはどうする?」
「オレは、ハートリーを探しに行く。あいつは、親友だ」
ハートリー。
たしか、ミラーと同じスコットランド人で、ガイド役だったか。
「ソウジ、1つ伝言を頼みたい」
「なんだ?」
「エレメント・コアの方角だ
本部に伝えてくれれば、
この遠征にも意味が残る。
エルハムや、ハートリーが向かった方角で、間違いないだろう」
言いながら、ミラーが、オレに布切れを差し出した。
受け取って、広げてみると、数字や文字が書かれている。
「このキャンプの座標と、エレメント・コアの方角を記してある。本部の連中に渡してくれればいい」
「おまえ独りで、大丈夫なのか?」
ミラーが、未希や、シャルマの方へ、視線を向ける。
「坊さんや、子供を連れてウィルコープスの群れを抜けるのはムリだ。オレ独りの方が良い。それより、大事なのは、その布切れを本部に届けることだ。頼めるのは、ソウジしか居ない。やってくれるか?」
「……ああ、わかった。引き受けよう」
「オーケィ。頼んだぞ」
ミラーが立ち上がる。
「ああ、それと……森を抜けるには、ここから西だ。とにかく西へ進み、幹の白い木を見つけたら、その方向に進め。森を抜けられる」
言い終わると、ミラーが、右手を差し出す。
オレも立ち上がって、その手を取る。
「またな、ソウジ。どこかで会おう」
「ああ、また」
その後、ミラーは、手早く準備を整えると、何も告げずに、森の奥へと消えてしまった。
オレは、残ったメンバーに、前哨基地への帰還を告げた。
未希も、ストームも、ほっとした表情を見せる。
ソフィアは、無表情で、森の方を向いていた。
クリスのことでも考えているんだろうか。
シャルマも、表情に出さないので、賛否が分からない。
まぁいい。
未希とストームが賛成なら、決は出た。
帰還だ。
荷物をまとめる。
僅かに残った食糧は、木に吊ってここに残していく。
もしかしたら、アーネストが戻るかもしれない。
「森の外縁にいけば、またブラックベリーが生えてるから、そこまで頑張りましょう」
「ブラックベリーって、来るときに食べたキイチゴみたいなやつ?」
「……うれしい。甘い物無かったから、食べたい……楽しみ……」
そういや、隊長はストームだったな。
あとは、ストームに任せよう。
「ストーム」
「んん?」
「帰還の指揮は、任せていいか」
「んん。任せろ」
最後に、メッセージを残す。
ドクターとケアリーを埋葬した2つの盛土の手前。
適当な枝を拾って、墓標代わりに突き立てる。
血が染みて黒く染まった肩の包帯を解く。
それを、突き立てた枝に巻き付けた。
風で飛ばないように、きつく結ぶ。
床屋の看板。血染めのサインポールだ。
アーネストなら、これで察するだろう。
そして、オレ達は出発した。
ストームの采配。
先頭はソフィア。
この中では、間違いなく、最も森を知っている。
2列目に、未希とストーム。
オレとシャルマが最後尾だ。
太陽を背に西へ。
来るときは、18人で通った道
帰りは、5人で、その道を辿る。




