4.2.26
先に武器を納めたのはミラーだった。
「あいつは、大丈夫だ。人を殺せるような男じゃないし、殺したことも無いだろう」
シャルマは、オレ達になんの警戒もせず、森の奥から歩いてくる。
そのままドクターとケアリーの元へ。
「ごめんなさい……」
シャルマは、膝を折り、項垂れながら呟いた。
なにかブツブツと唱えている。
朗読をしているようなトーンで、言葉を紡いでいる。
言葉の意味はわからない。
シャルマが、また呟く。
「彼らを、埋葬させてください……」
そして、キャンプから十数メートル。
焚火の灯りが届くギリギリのところに、浅く穴を掘り、ドクターとケアリーの遺体を埋めた。
オレも埋葬を手伝い、最後に手を合わせる。
つい昨日、オレの肩を治療してもらった。
ケアリーが巻いた包帯。
まだ抜糸は済んでいない。
ドクターが縫合した糸が、右肩でオレの皮膚を繋ぎとめている。
2人の顔を思い浮かべる。
いったい、どの時代にログアウトしたんだろうな。
最後に浮かんだのが、それだった。
それからシャルマに事情を聞く。
――シャルマの話はこうだ。
シャルマが、薪木を拾いに出たときだった。
少し戻れば、キャンプが見える距離。
すると、甲高い悲鳴。
ケアリーだろう。
何事かと、シャルマがキャンプに視線を向けると、見えたのはウィルコープスの大群。
数十か、百以上か。正確な数はわからない。とにかく沢山。
シャルマは、戦える能力を持っていなかった。
そもそも、ヒンドゥー教は殺生を良しとしない。
シャルマは干し肉にも手を付けない。
せめて、逃げ道を作ろうと、シャルマは魔法を唱えた。
シャルマの魔法で、森のあちこちから、甲高い声。
聞いたばかりのケアリーの悲鳴をコピーし、森中に響き渡らせた。
ウィルコープスの大部分が、その音に反応し、森の周囲へと散った。
2人が逃げだすには、充分な猶予だった。
しかし、2人は逃げなかった。逃げられなかった。
暗闇で何かを探し求めるように、ただただ、両手を伸ばして、助かる望みを探していた。
シャルマには、もう、何もできなかった。
大木を背にして、座り込んだ。
そのまま息を押し殺し、シャルマは自分に魔法を掛けた。
完全なる瞑想。
シャルマは瞑想し、祈りを思考に。思考を魔法に変え、心も体も、無になった。
姿も形もヒトのままで、森の中で石と化した。
そのまま時間が過ぎ、術が解けると陽が落ちかけていた。
ウィルコープスの姿はなく、見えたのは、オレ達が灯したキャンプの明り。
「ごめんなさい……私には……なにもできませんでした……なにも」
言葉も無い……
オレだったら、何も残さず、振り返ることもせずに、未希とストームだけを連れて逃げただろう。
シャルマは、逃げずに、受け入れるという道を選んだだけ。
恐怖からも、自分からも、目の前で殺されようとしている仲間からも。
逃げずに、受け入れた。
それだけだ。
誰も悪くない。
自分の信念に従い、それに準じただけ。
「それで……ウィルコープスの群れはどうなった?」
「わかりません。大部分が、森の方々に散らばっていくところまでは見ていましたが」
「その通りだろう」
ミラーに視線を移す。
「足跡は、あちこちに散っている。多すぎて、良くわからないが、そこら中に拡散している」
シャルマの証言が、すべて真実ならば……
ドクターとケアリーの視力を奪ったのは、フランス人の可能性が高い。
だが、まだ断定は避ける。
それからオレ達は相談した。
これからどうする。
ウィルコープスの足跡。
その半分以上は、下流へと続いているらしい。
何かを追って行ったのか、それとも、ただ移動しただけなのか。
ミラーの提案で、ひとまず朝までここに留まることにした。
このままここに居ても危険だが、なんの準備もなく、夜の森を移動するのは、もっと危険だ。
そして、アーネスト達だ。
戻ってきたのか、それともまだなのか。
生きているのか、死んでいるのか。
それが分からない。
推測するならば……
アーネストなら必ず何か痕跡を残すはずだ。
それが無い。
戻っていないのか、あるいは……
オレ達は、厳重にキャンプ周辺の警戒を強化した。
ストームのセンサーは、今も稼働してる。
問題は、センサーの外。
フランス人には、長距離射撃の魔法がある。
オレ達のキャンプは、焚火の灯が揺らめいている。
闇の先の遠くからでも、オレ達を狙撃できる。
そのため、ソフィアが飛翔物の結界を張った。
完全に防ぐ結界ではない。
万が一、遠距離攻撃を受けたとき、空気圧で金切り音を発生させ、軌道を僅かに逸らす。
ソフィアでも、それが限界らしいが、それで充分だ。
ストームのセンサーで侵入を検知し、ソフィアの粉塵で高速移動する物体に警報を鳴らす。
やれることは、ひとまずこれだけ。
これで、夜を過ごす。
人員は、6人。
オレ、未希、ストーム、ミラー、ソフィア、そしてインド人のシャルマ。
2人ペアの、3交代で見張りを組む。
そして、朝を待つ。
オレはインド人のシャルマと組む。
まだ信用したわけじゃない。
すまんが、オレはそういう男だ。
人種も、宗教も関係ない。
オレはオレの基準と理屈で、相手の価値を決める。
緊迫した夜が更けていく。




