表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
142/168

4.2.25


 森の中を、歩く。


「よく私の場所がわかったわね」

 歩きながら、ソフィアが言った。

 たしかに、あれは分からない。

 深い森の中で、落ち葉と同化していた。


「未希が、スカーフに付けたアロマの匂いで追跡した」


「え……これで? すごいわね……」


 ソフィアが、未希の顔を見る。


「簡単だよ、同じ香りは無いから、その香りを辿っただけだよ?」


「短い距離ならできるかもしれないけど、何キロも離れた場所を探知するなんて不可能よ。警察犬でもムリよそんなの」


「みきさんは、やっぱ天才。だれも真似できない」

「えへへ、でも、みきは攻撃とかできないよ」


 未希が照れくさそうに笑う。


「ありがとねミキ。おかげで助かったわ」


「でも……クリスさん、残念……」


「そうねぇ……私もひとりになっちゃったし」


「ソフィアも、わたし達のギルドに入らない? ソフィアさん大歓迎」


 ……おい……ストーム。


「え、いいの? じゃあ、そうしよっかなー、ひとりじゃつまらないし」


 3人の話を黙って聞いている。

 ミラーも、黙々と先頭を歩いている。


 ソフィアが仲間になるのは心強いが……

 シェイプシフトデバイスのこともある。


 話題を変えよう。


「ところで、なんでミノムシみたいになってたんだ?」


「ミノムシ?」


 スペルが違うようだ。

 ストームが、英語で補足した。


「なんでバッグワーム(ミノムシ)になってたのって」


「あー、あれはね…

 喋れないし、目も見えないし……

 粒子の感覚だけで、近くの木に登って。

 それだけでも大変だったけど。

 運よく落ちて来た枯れ葉に触れて、

 それで枯れ葉を魔法で集めてカモフラージュしたのよ。

 それから、幹を樹脂でコーティングして」



「壮絶……わたしにはムリ……」



「あはは。私も必死だったわよ。

 その状態でしばらく過ごしたんだけど

 寒くなってきて、傷は痛いし……

 何も見えないし。

 声が出ないから、助けも呼べないし。

 だから、ログアウトに賭けたの。

 あのままじゃ、何もしなくても死んじゃってたしね」



 やがて、小川が見えてくる。

 ミラーが足を止めて、周囲を観察していた。


「どうした? ミラー?」

「足跡だ。10や20の数じゃない。大群だ」


 草が少し踏み荒らされているようだが、オレには区別が付かない。


「ウィルコープスか」

「だろうな。他にそんな団体が、この辺りにいるとは思えない」


「まさか、行先はキャンプか」

「そうだ。下流に向かってる」


「急ごう」


 陽が暮れ始めている。

 オレ達は、下流へと急ぐ。


 暗くなる寸前に、キャンプが見えるところまで辿り着いた。


 薄暗い。闇に包まれかけている。

 焚火の匂いが、微かに残っているが、焚火は灯っていない。


 オレ達は茂みに腰を落とし、様子を伺った。


 最初に言葉を発したのは、ミラーだ。

「この時間に焚火が消えてるってことは、誰もいないってことだ」


「逃げたのか?」

「だといいんだが……」


 小川の近くに、鍋が見える。

 あれは、ストームが魔法を掛けた鍋だ。

 ふと、思いつき、ストームに尋ねた。


「おまえも、未希のように探知できないか? 鍋センサーに使った認識タグがあるだろ」


「できるかも……みきさんのように何キロはムリだけど、数百メートルなら」


 ストームが目を閉じた。

 周囲に、なにも変化は起きない。


 もしかしたらと袖を見ると、付着させた緑の染みが、微かに光沢を発していた。

 薄いヒカリゴケのようだ。


 沈黙が十数秒。

 染みの光が消えると、ストームが目を開けた。


「……できたかも。わたしのすぐ近くに4人。ソフィアさんは乾いててわからないけど、探知できてると思う」

「キャンプの周囲はどうだ?」


「キャンプにあるタグは、2つ、それ以外は近くに無い」


「俺が見てこよう。ソウジ達はここで待て」

 ミラーが、言い残し、横の茂みに消えた。


「ソフィア。粒子を飛ばして、動くものを検知できるか?」

「オーケィ。やってみるわ」


 ソフィアが目を閉じ、片手を開き、宙にかざす。

 その手の回りの空気が歪む。

 空気……飛んでる埃にでも、触れているのだろうか。


 ソフィアは、目を閉じたままだ。


「キャンプに近づいているのはミラーね……

 木の葉が揺れてる……

 これはリス……

 枝葉の中で、小鳥が眠ってる……

 他に動物は……

 いないわね。

 大きなものは、動いていない……」


 動く人影が無く、近くに小動物が徘徊しているのか。

 キャンプは、何時間も前から、無人だったのだろうか。


 もう間もなく、完全に陽が落ちる。

 なにも見えなくなりそうだ。


 聞こえるのは、小川の水音。

 少し離れた場所から、虫の鳴き声。


 しばらくすると、キャンプの方から、プスッ、プスッっと、息を吹き飛ばすような音。

 覗き込むと、ミラーだった。

 こちらに来いと合図している。


 4人で、ミラーに近づく。

 その足元に焚火の炉。

 煤の奥で、赤い光が滲み出ている。


 ミラーに提案する。

「付近に、動くものは無さそうだ。焚火を点けてもいいんじゃないか」

「そうだな。このまま暗闇で襲われるよりは、明るい方がいい」


 灰をほじくり返し、火の粉を掻き出す。

 そこに落ち葉に引火させる。

 近くに積まれていた薪木の残り。それを拾って炉にくべる。

 そして焚火が、灯りだした。


 その灯りに照らし出されたのは、2人の死体。


 ドクターと、ケアリーだった。


 2人のカラダには、多くの刺し傷と切り傷。


 死体なら少し見慣れている。

 2人とも、目と、口は、開いたまま。

 爪の隙間に、土がめり込んでいる。

 恐怖というより、驚いたような表情で固まっていた。

 ドクターのカラダに触れる。

 首回りが固くなり始めている。

 ログアウトではなかった。

 死んでいた。

 1時間以上は経っているだろう。

 

 未希は、両手で顔を覆い、視界を塞いだ。

 ストームは、顔を背けている。

 ソフィアは、腕組みをして、少し離れたところで、険しい表情を作っていた。


 ドクター達の亡骸を見下ろしながら、ミラーが言った。


「……おかしい」

「なにがだ? どうおかしい?」


「この死に方は、ウィルコープスにやられたと考えていいだろう。

 しかし、この2人は医者だ。

 戦うよりも、逃げる選択をするはずだ。

 そして、ウィルコープスは走らない。

 囲まれてさえいなければ、逃げ切れる。

 なのに、この2人はキャンプから逃げようとした形跡がない」



「……逃げなかった……ちがうな……逃げられなかった?」


「だろうな……」


「あいつらよ……」

 ソフィアが言った。


「視界を奪ったんだわ。ドクターとケアリーを逃げられなくして、囮にした……そして、あいつらは逃げた」


 ストームを見る。

「ストーム、センサーはまだ稼働しているよな?」

「うん。液体は、少し動いてる」


「近くに、フランス人の死体が無いか探そう」


「あ、まって……」

「どうした?」


「センサーじゃなくて……タグの方。誰か近づいてくる」


「複数か?」

「違う。ひとり」

「どっちだ?」


 ストームが、森の暗がりを指さした。

「なんか変。幽霊みたいな……」


「なんだ? ウィルコープスか?

 ソフィア、砂でもなんでもいいから、準備してくれ」


「オーケィ」


 未希と、ストームが、オレに近寄り、後ろにまわる。

 オレは、剣を抜く。

 ソフィアは、腰を落とし、地面の砂を掴む。

 ミラーは、少し距離を取り、周囲の警戒を続けながら、手斧を構えた。


 フランス人だろうか……?

 いや、違うだろう。

 ソフィアの話では、ヤツらの魔法は、長距離射撃だ。

 わざわざ、近づいてくることはしない。


 暗がりに、人影が揺らめく。

 焚火の灯にあてられながら、ゆっくりと姿を現した。


 武器は持っていないようだ。

 

 それもそのはず……

 その男は、医療チームの独り。



 インド人の男。シャルマだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ