4.2.24
ブナの木に向かう。
すでにミラーが真下に辿り着いていた。
ストームは、落ち着きを取り戻したようだが、心の奥底は分からない。
だから、攻撃魔法はしばらく禁止だ。
ブナの木の下まで行くと、2体のウィルコープスが転がっている。
未希も、ストームも、気持ち悪がっている。
戦利品を回収するのが、普通の流れだと思うが、何も触れたくないだろう。
それより、木の上だ。
見上げても、すぐには見つけられなかった。
違和感は、枝の上の葉っぱのかたまりだ。
太い枝の上になにか乗っている。
落ち葉に包まれた、大きなミノムシのような物体だった。
物体は、ピクリともしない。
確認しようと、ミラーが木を登ろうとしたが、途中で滑りおちた。
ミノムシを乗せている枝の根本に、樹脂が塗られているようだ。
それがツルツルに乾いている。
ミラーが斧で削り取ろうとしたが、なかなか剥がれない。
そもそも、あのミノムシはなんだ?
サイズ的には、中にヒトが入っていそうではある。
あの中か?
「ソフィアはどこだ?」
未希に問う。
「ソフィアさんのスカーフの香り……あの葉っぱの中だと思うんだけど……」
「あのミノムシが、か……?」
とにかく、葉っぱの中身を確認しよう。
気付くと、ミラーが、ウィルコープスの死体から、斧やら剣を拾い集めていた。
そして、一言。
「これを使おう」
ミラーが、木の幹に、斧や剣を突き刺していく。
分かった。
足場だ。
ミラーは、突き刺して作った足場で木を登り、枝に手をかけた。
そして、ミノムシの場所へ。
葉っぱを取り払っていく。
ミラーに聞く。
「ソフィアか?」
「そのようだ。あちこち傷だらけだが、たぶん生きている」
「たぶん……?」
ミラーが枝の上から、オレ達を見下ろす。
なんだか、呆れたような顔をしている。
「これは、ログアウト中だな」
下にいるオレ達3人が声を合わせた。
「え……?」
ミラーが、枝の上から飛び降りた。
「降ろすよりも、あのままにしておいたほうが安全だろう」
言いながら、木に突き刺した斧や剣を取り払っていく。
ウィルコープスの死体が目障りなので、オレとミラーで遠くまで引きずった。
運びながら、ミラーが言う。
「ソフィアは、かなりケガを負っている。瀕死だったんじゃないか」
ブナの木まで戻る。
未希とストームは、木の下に腰を下ろしている。
「ソフィアさん、すごいね。賢い。ログアウトなら寝返りも、うたないから、落っこちないね」
「いや……そういう問題か……」
「葉っぱで包むのも、樹脂を固めたのも、ソフィアさんの魔法だね」
なるほど。
「ログアウトで回復するために、姿を隠ぺいして、木も登り難くしたわけか」
それから1時間くらい。
ソフィアが目覚めた。
オレ達は、気が付かなくて、突然上から、飛び降りてきたソフィアに驚かされた。
ミラーは、そっぽを向いていたが、未希とストームが、ソフィアと抱き合い、無事を祝っていた。
「ああ、やっと喋れるし、見えるわ!」
ソフィアは最初にそう言った。
それから、事情を話し始めた。
「まず、クリスなんだけど……死んだって」
「え?」
オレ達3人は、また声を合わせた。
「ログアウトしてクリスに電話したのよ。わたしを探している途中で、ウィルコープスに襲われて死んじゃったって」
簡単に言うなぁおい……
「しょうがないわよね……クリスはゲームオーバー」
人の死というのは、もっと深刻だと思うが、やはりここはゲームなのか。
ここで死んでも、現実世界で死ぬわけじゃない。
このカウントから、退場させられるだけ。
それだけのこと。
「なぜソフィアは、傷だらけだった、誰にやられた?」
「うん……驚かないで、落ち着いて聞いてね」
そう前置きし、長い話を始めた。
オレには分からない単語もあったので、ストームが要約した。
まず、ソフィアを襲ったのは、フランス人の2人だと言った。
彼らも高度な、攻撃魔術師だった。
何百メートルも離れた場所から、石を飛ばして来たという。
その攻撃は、「銃撃の様だった」と語った。
そして、フランス人達の魔法は、ソフィアの視力と、声を封じた。
「なぜそんなことを?」
と、オレは、質問した。
ソフィアの答えは……
「あの2人の目的は、
『シェイプシフトデバイス』よ。
わたしは、その話を聞いてしまったのよ」
「あの野郎ども……ぶっ殺してやる……」
殺意を放ったのは、ミラーだった。
オレ達は固まった……
フランス人の目的。
それは、オレ達と同じシェイプシフトデバイスなのか?
それが知られただけで、ソフィアが口封じで殺されそうになり、ミラーが殺意を向ける。
未希とストームも、青ざめている。
まずいな……
ここで、オレ達の狙いまで悟られるわけにはいかない。
いまは、フランス人の疑惑に意識が向いている。
未希とストームの表情が強張っていても、不自然ではない。
だから、今のうちに、空気を変える。
「戻ろう。ここを離れよう。
キャンプが心配だ。
フランス人の2人はキャンプにいる。
ドクターや、ケアリーが危ない」
誰からも異論は無い。
すでに陽も傾き始めている。
まずは、小川を目指す。
小川にさえ辿り着ければ、陽が落ちても、キャンプに戻れる。
ミラーを先頭に、急ぎ足で小川へと向かった。




