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4.2.23


「未希は、後ろを監視していてくれ。なにかあればすぐに教えろ」


「うん……」


 未希が背中を向ける。

 ミラーは、最初に狙う敵を、ストームに指示している。


 オレは、左手で静かに剣を抜き、戦いに備えた。

 やはり、左だと扱いにくい。

 戦えるのか。こんなんで。


 ストームが目を閉じた。

 ソフィアや、インド人のようにすぐには発動しない。

 世界への請願を正確に練り上げ、思考を始める。


 手のひらには、長さ10センチほどの枝。

 何の木だかは分からないが、太さは1センチほど。

 鋭く尖り、ウィルコープスの方を向いている。


 その枝が歪み、そして、飛んだ。

 枝が、弓から放たれたように、高速で、ウィルコープスに向けて飛翔した。

 真っ直ぐではない。少し弧を描き、一度浮き上がると高度を下げる。

 ミサイルのようだった。


 そして命中した。

 命中したのは、頭だった。

 しかも、こめかみに、突き刺さった。


「ゴメン……ちょっと乱れた……」

 ストームが震えた声で呟いた。


 頭に高速の枝が突き刺さったウィルコープスは、衝撃で頭を傾けたまま、膝からカクンと崩れ落ちた。


 倒れたウィルコープスは、しばらく痙攣していたが、やがて動かなくなった。

 ミラーが小さく、口笛を鳴らす。


 他の5体には、気付かれていない。

 ブナの木を見上げ、そこにある何かを狙っている。


「どうした 大丈夫かストーム……」


「枝を命中させて、あいつの注意を引く……感じだったんだけど、途中で戦うところを想像したら、枝が頭に飛んだ」


「まぁいい。これで1体減った。残りの4体も、それで倒せるんじゃないか」


「うん……やってみる……」


 手のひらに枝を乗せる。

 ストームがまた、目を閉じる。

 ぎゅっと、さっきよりもきつく。

 何かに怯え、目を逸らすように。


 枝を載せるストームの手が震えている。


「まて……ストー……」


 ストームの手のひらから、キュンと、甲高い音。

 その音を残して、枝が消えた。

 

 オレは、忘れていた。

 思い出した。

 始めてNPCを殺したときのこと。

 あの時の葛藤、孤独、喪失感。


 ストームもだ。

 たった今、NPCを殺した。

 現実と大差ないこの世界で、人間にそっくりな生物。ウィルコープスを。

 まともな精神状態でいられるハズがない。


 次の瞬間、ウィルコープスが2体、崩れ落ちた。

 1体は、膝から下の片足を失い、奥のもう1体は、左胸に穴。

 枝は消えたんじゃない。

 目で追うのが困難な速度で飛翔し、ウィルコープス2体を貫通したあと、どこかへ飛んで行ってしまった。 


 ウィルコープスは、残り2体。

 今の音に反応して、こちらを向いた。


「ストーム、いったん下がれ。未希と2人で、後ろを警戒しててくれ」


「ごめん……ごめんなさい……わたし……わたし」


 目に涙を滲ませている。

「ああ……そうだな。オレも最初は怖かった。同じだ」


「でも……わたし…」


 ミラーが手斧を構え、立ち上がる。

 2体がこちらに近づいてくる。


 ストームの手。枝が消え去ったまま動かない手を握る。

 震えている。


「ストーム……

 おまえは、オレ達の命を救った。

 オレも、ミラーも、未希も。

 あの枝の上で待ってるソフィアの命もだ

 よくやった。ありがとうな。

 次は未希を守ってくれ、頼むぞ」


 ストームが手を握り返す。


「うん……」


 ストームが後ずさっていく。

 なかなか、オレの手を離さない。

 ウィルコープスが近づいてくる。もう10メートルも無い。

 先に、ミラーが駆け出していった。


 大丈夫だ、関係ない。

 オレはいつだって、おまえ達2人が最優先だ。

 だから、もう一度、強く握り返して、ストームの目を見た。


「今日は、おまえが3キルだ。ヘッドショット付きだ。次はオレに譲ってくれよ?」


 ストームの震えは止まらないが、手を握る力が抜けた。

 手を離し、涙ぐむ顔でオレを見た。


「……わかった」


 目を合わせて、少し笑う。


「わたしが1位」


 そして、斜面を下っていく。

 未希の待つ、斜面の下へ。


 ウィルコープスに視線を飛ばす。

 理由は分からないが、なんだか少し、イライラする。

 こんな感情は、久しぶりだ。



 ミラーが右のウィルコープスに斬りかかっていく。


 左のウィルコープスは、少し後方。

 武器は、長めの片手斧。


 駆け寄りながら、右下から、少し遅くサンダーソニアを振り上げる。

 ウィルコープスは簡単に引っかかった。

 手斧で払おうと、オレの剣を迎え撃つ軌道に斧を振り下ろし始める。

 オレは途中で速度と軌道を変え、ウィルコープスの胸に、サンダーソニアを突き刺した。


 勢いを付けて突進する。

 クロスガードの根元まで剣を突き刺し、そのまま突き飛ばす。

 足を止めて、サンダーソニアを引き抜き、地面に仰向けに倒れたウィルコープスに、もう一度振り下ろす。

 それで終わりだ。


 右のミラーに視線を変える。

 ミラーが手斧で、ウィルコープスの首を掻き斬っていた。


 ブナの方へ視線を変える。


 這いずってこちらに近づこうとしているウィルコープスが残っていた。

 ストームの枝で、片足を吹き飛ばされたヤツだ。


「ミラー、あれ、頼んでいいか?」


 ミラーが頷いて、這いずってるウィルコープスに近づいていく。


 オレは未希とストームの方へ戻る。

 2人が斜面の下から、こちらを見上げた。


 さっきのイライラは消えていた。


 まったく……ネカフェで待ってりゃいいものを。

 なんだって、こんな面倒くさい世界に来たがるんだ。


 考えながら、斜面を下る。


「おわったぞ。ソフィアを助けに行こう」



 戦闘は、終わった。




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