4.2.22
休息を終え、森へと踏み入る。
ここからは未希が先頭を歩く。
すぐ後ろにミラーとストーム。
オレは最後尾だ。
「未希、あとどのくらいの距離かは、わからないのか?」
「う~ん、香りは少し強くなってるけど、どのくらいかはわかんない」
「最初の角度から考えると、そんなに遠くは無いんじゃないかな」
言いながら、ストームが、さっきから枝や石を拾い集めている。
程よい太さの、曲がっていない枝。
親指ほどの小さな小石。
「なにを拾ってるんだ?」
「弾。敵が出たら、これ飛ばす」
「魔法でか?」
「そう。攻撃魔法の練習」
手数が増えるのはありがたいが。
なにをするつもりだ……
オレ達は、森の中を歩き続けた。
未希の指し示す方向へ。一直線に。
無論、そのまま進めるはずもない。
大きな岩を迂回する。
斜面を下ると、真正面に崖。
しかたないから、少し戻って迂回路を探す。
帰り道が分からなくならないよう、ミラーが枝を折って目印にする。
歩きながら、木の実を拾ったり、なにかの土を拾って匂いを嗅いでいる。
それは何だと聞くと、動物の糞らしい。
そんなもん拾ってどうするのだと聞くと、動物の糞は、凝縮された森の履歴。データベース。
ただの糞にしか見えないが、様々な情報が凝縮されているらしい。
都会の生活には、役に立たなさそうだが、少しだけ、興味深い。
会話をしていると、未希が口をはさんだ。
「おにいちゃん、英会話すごい上手になったね」
「そうか。先生のおかげだ」
「えへへ」
未希が、嬉しそうだ。
こんな得体のしれない森の中だというのに。
「まて、止まれ」
ミラーが静止を掛け、腰を屈めた。
オレ達も、背を低くし、音を消す。
「どうした?」
「様子がおかしい……」
オレには分からない。どこを見ても、同じ森だ。
「未希、方向は」
未希が指さした方向は、斜面の上。
「オレが見て来る。ミラーも、ここに居てくれ」
言い残して、独り、斜面を静かに昇る。
その先で、微かな物音が聞こえる。
足を踏み鳴らす音。固い何かで木を叩く音。
昇りきったところの茂みで身を隠し、音のする方をのぞき込んだ。
見えたのは、6人の人間。
50メートルくらい先の大きなブナの木の下。
剣や斧を持ち、虚ろに、枝を見上げている。
何人かが、木を昇ろうと幹にしがみつく、だが、ずり落ちる。
剣で枝を叩いたり、幹を斬ろうとしたりしている。
いったい何をしているのだろうか?
6人が、見上げている先は、枝葉に隠れていて良く見えない。
あれは…プレイヤーなのか……
いや、おそらく違う。
全身からうっすらと漂う薄黒いモヤ。
後ろを振り向く。
斜面の下で待つ3人に見えるように、左手を開いて下に向け、ゆっくりと上下させる。
それから、上に向けて手招き。
音をたてずに、来いと、合図を出した。
3人が静かに近づく。
ミラーも茂みに身を隠し、ブナの木に集まっている6人、いや6体を観察した。
「ウィルコープスだ」
やはりそうか。
相手は6体。
「どうする? やりすごすか?」
「6体は数が多い。迂回しよう」
「だめ……まって……」
未希が制した。
「ソフィアさんのアロマ、あの木の上……だと思う」
「なに?」
オレとミラーは、もう一度、ブナの木をよく観察した。
しかし、見えるのは葉っぱと枝。
その中は良く見えない。
「本当に居るのか? あの木の上に?」
「うん……あんまり自信ないけど……」
どうする……
3人に声をかける。
「どうする?」
押し黙る。
ミラーが、監視を続けながら言った。
「もし木の上にだれかいるんなら、生きてるはずだ。ウィルコープスは死んでる人間は無視する」
逃げる選択肢は無さそうだ。
オレ達の存在はまだ気が付かれていない。
奇襲を掛けるイニシアチブは、オレ達にある。
「わたしが、釣る。やってみていい?」
言ったのは、ストームだった。
手には、あちこちで拾い集め、厳選したらしき枝や石ころ。
「なにをする気だ?」
「これを、ぶつけて、こっちに誘導する。1体ずつ」
ミラーにも、英語で説明する。
このまま、眺めていても埒が明かない。
「わかった。それでやってみよう」
やるまえに、簡単に作戦を練る。
未希は、少し下がっていてもらう。
オレとミラーが斜面の下で待機する。
ストームが石をぶつけて、おびき寄せたウィルコープスを1体ずつ斜面下で始末するという単純な計画。
この状況下で、ゲーマーのアイディアに頼る。
それでいいのか……本当に。




