4.2.19
オレは焚火の近くに座り、治療を受けている。
近くにいるのは、ドクターと呼ばれる40代の男。
それと、前に少し会話したことのある、看護師のケアリー。
少し離れたところに、年配のインド人。
インド人の名前は、シャルマ。
見た目通りのインド出身で、僧侶ではなく、ヒンドゥー教の研究者らしい。
その独特な文化や、宗教観念、医学体系の知識を駆使し、シャルマにしか操れない魔法を使いこなすのだという。
未希と同じような、天才肌に近い術師なのだろうか。
オレの傷の痛みを緩和したのも、「アーユルヴェイダ」という、伝統医学に基づく思考だと言う。
しかし、治療は普通の治療だった。
魔法でも、中世の野蛮な治療でもなかった。
オレは、地面の上に、うつ伏せにされ、最初に消毒を受けた。
傷口は、ドクターが針と糸で縫合した。
ケアリーに、清潔なガーゼをあてられ、その上から包帯を巻いてもらった。
シャルマの魔法のおかげか、痛みがぼやけている。
麻酔のような感覚の消失ではなく、痛みだけがぼやけていた。
おかげで、縫合のときも少しくすぐったいだけ。
痛みは感じなかった。
すぐ近くで、未希とストームが、オレをのぞき込んでいた。
ストームに尋ねた。
「ウィルコープスってなんだ?」
ストームが、たどたどしく答える。
「わたしも、知らなかったので、さっき聞いた。
ウィルコープスっていうのは、要するに敵キャラ。
前のカウントで死んだプレイヤーの亡霊なんだって」
「亡霊? その割には、普通に人間みたいだった」
「そうなの? 記憶の回廊のガーディアンに近い存在かな」
「そうだな……近いと思う」
「総司も、カウント23の途中で死んだから、もしかしたら出てくるかもね」
「は……? オレの見た目のウィルコープスがか?」
「えぇ、やだぁ、そんなの見たくない」
未希が、汚い物を想像しているような目で、そう言った。
「未希の亡霊も出るのか」
「みきは、カウント23が終わるまで生きてたから、出ないと思うよ」
ならいいんだが。
まぁ、仮に、ガスコスに殺されたオレが出てきたところで……
何もしないで逃亡しそうだ。
物陰から様子を伺い、逃げていくオレの亡霊。
想像すると、我ながら、笑える。
「で、そのウィルコープスが、なんでこんな所に出てくるんだ」
「ウィルコープスは、斥候チームが探してる『エレメント・コア』から湧いてくるんだって」
ストームが、得た情報をかいつまんで、説明した。
オレ達は、ルミナス・ノードへ渡るための、エレメント・コアを探す調査遠征に参加している。
それを妨害するためなのかどうかは、知らないが、ウィルコープスはそのエレメント・コアから出現するらしい。
つまり、エレメント・コアに近ければ近いほど、ウィルコープスとの遭遇率は上がる。
そして、ウィルコープスは、そのプレイヤーが死亡したときの装備のままで、出現するらしい。
「どのくらいの数がいるんだろうな」
「たぶん、数千」
え……
「あんな薄気味悪いのが、この付近に数千? オレ達は、18人しかいないぞ」
「今回は、コアの場所の特定を進めるのが任務だから……大群に見つかったら、戦わないで逃げるんじゃない?」
斥候チームは、大丈夫なのだろうか。
まぁいいか……それは。
ソフィアと、クリスが少し心配だが、それより今はオレ達だ。
「このあたりにも、まだ居るってことだよな?」
「うん。でも、逆に考えれば……ウィルコープスを見つけた場所を辿っていけば、エレメント・コアに辿り着ける」
「3匹程度見つけたくらいじゃ、まだ遠いのか」
「だいぶ遠いと思う。っていうか、だから、ここをキャンプにしたんじゃない?」
なるほど……
その辺の危機管理は、アーネストの判断を信頼しよう。
「で……今回、コアを探して、そのあと、どうするんだろうか」
「目標は、大まかな場所の特定だけじゃないかな?
2箇所から方角だけでも分かれば特定できるでしょ。
エレメント・コアは、数千人規模で解放することになると思うよ」
数千対数千……
「まるで戦争だな……」
「エレメント・コアの解放は、それだけ重要。解放しないとなにも始まらない」
「その先の……
ルミナス・ノードだったか。
そこにも、ウィルコープスは居るのか」
「ルミナス・ノードには、ウィルコープスよりも、もっとヤバいのがいる」
「なんだ?」
「他のエレメント・ノードのプレイヤー」
そう言い切ったストームが、ひさびさに恍惚としたオタクの顔に変わっていく。
「ルミナス・ノードは、エレメント同士の戦場」
「他のプレイヤーと戦うのか」
「そう。『この世界』の…………
と言うか……『このゲーム』の基本は、
自分たちのエレメントを勝利に導くこと。
他のエレメントのプレイヤーは滅ぼす。
もちろん、負けたら、わたし達が滅ぼされる」
うむ。ダメだ。
やはりオレは、話についていけない。
そんな世界の、なにが楽しいんだ。
「ところで、この辺りは大丈夫なのか? またウィルコープスが現れるんじゃないのか?」
「わからないけど……ミラーさんが付近の偵察に出てるよ」
このキャンプの戦力で対抗できるとしたら、精々5体程度だろう。
いつでも、逃げ出せる準備だけは、しておこう……




