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4.2.18 - ウィルコープス


 巨木が乱立する森の中。


 そこで遭遇した「ウィルコープス」と呼ばれた、3体の何か。


 あと十数歩の距離まで近づいた。

 見た目は、人間。プレイヤーのように見える。


 だが、プレイヤーとは違うようだ。

 生きているようにも見えない。


 動く抜け殻。

 そんな感じだ。


 ミラーは、オレに言った。

 2体を引き付けろと。


 だから、オレが先行しなきゃならない。

 信用していいのか。

 ミラーを。

 そもそも、ミラーはオレを信用しているのか?



 いや……


 どうでもいいことだ。


 オレの後ろには、キャンプがある。

 そこに、未希とストームが居る。


 ミラーの思惑なんて、今はどうでもいい。

 たとえ、オレ独りでも、この脅威を排除する。


 3体は横並びではなく、男2人が前。その後ろに女。

 オレは少し左に寄り、左の男に近づいた。


 男2人が、剣を構える。

 すると、先ほどまでの屍のような動きが消えた。

 まるでスイッチが入ったように、動きが変わった。

 構える姿は、剣士のソレだ。


 2人が構えるのは、幅の広い西洋剣。

 ミラーが、視界の右奥で動いた。

 後ろに回り込むつもりのようだ。


 それなら、オレは2体に集中できる。

 この場は、ミラーを信用しよう。


 さて……どうする。


 オレの剣、サンダーソニアは細い。

 打ち合いをするような剣ではない。


 だから、予測する。

 見極める。


 長めのグリップを両手で持ち、少し右に傾ける。

 左の男が、剣を外側に振り上げた。


 遅い。


 田心啓介と比べたら、まるでスローモーションだった。

 しかも、足が見える。

 田心啓介は、袴で足を隠していたので、動きがまるで読めなかった。


 だが、こいつらは分かる。

 相手の剣の軌道の先。

 その後の重心。

 そして、オレがどう動くべきか。 


 オレは、重心を左に預ける。

 男が剣を振り下ろす瞬間、カラダを左にずらしながら、右半身を捻る。

 男が振り下ろした剣が、オレの右側を吹き抜けていく。


 そして、剣を振り抜いた男の腕にサンダーソニアの刃を降ろした。


 男の腕が、切り飛ばされた。

 相変わらず、何かを斬った感触が無い。

 オレはそのまま右脚をグイっと踏み込み、男のハラを撫で斬る。


 男は、あっけなく、崩れ落ちた。


 無駄ではなかった。

 田心啓介を倒すために、費やした6ヶ月。

 オレは、もしかしてだいぶ強くなったのか?


 いやまて……


 まってくれ……


 何を考えていたんだオレは。

 敵は2体だぞ。


 もう1体の剣先が、右斜め後ろから振り下ろされ始めている。


 剣の行く先が先読みできる。

 おそらく、あと1秒もしないで、あの剣先は、オレの右肩に届く。


 重心は完全に、左前に傾いていた。

 躱せない。

 

 ああ……

 剣の動きが良く見える。


 6カ月の修行の成果だ。

 あと少しで、オレの右腕か、最悪、首が跳ね飛ばされる。

 オレの頭の中では、すでに右腕が斬り飛ばされている。


 だが、ブレた。


 振り下ろす男が突然つんのめり、バランスを崩した。

 剣先が左にブレて、肩口を少し切り裂いていった。


 オレは、すぐに右脚に重心を寄せ、そのまま右回りでカラダを回転させる。

 その勢いのままに、サンダーソニアで、男の両腕を撫でる。


 男の腕が、剣ごと地面に落下した。

 そして、その男の背中に蹴りが入る。


 ミラーだった。

 そのまま手斧を振り上げ、男の頭に振り下ろす。


 少し向こうで、女がうつ伏せに倒れていた。


「大丈夫か? ケガを見せろ」


 ミラーがオレに近寄る。

 斬られたのは少しだが、オレの右肩から、血が滲みだしていた。


 激痛でも、鈍痛でもない。

 中途半端な痛みがじわじわと自己主張を始めている。


 ミラーが腰に下げていた革水筒を掴み、キャップを外した。

 黄金色の液体。樽の匂い。スコッチかな?


 オレの肩にその液体をかける。

 染みる。液体をかけられる前よりも酷い激痛。

 大丈夫なのか? 体内にそんなもん直接飲ませて?


 ミラーが腰から、布を取り出し、それをオレの肩口に押し付けた。


「キャンプに戻ろう。歩けるか」

「ああ……大丈夫だ」

「しっかり押さえてろ」


 肩口に押し付けられた布。

 オレはそれを、左手で抑える。

 思っていたより、出血が多く、傷も深いようだ。

 ズキズキと、焼けるような痛みが、心臓の鼓動と一緒に襲ってくる。


「この死体は?」

 死体と言っていいのかもわからないが、地面に転がる、3体の死体。


「あとで調べに来る。それより今は、おまえの傷だ。戻るぞ」


「ああ……わかった……」


 聞きたいことは、沢山ある。

 ウィルコープスって何だ?


 だが、痛くてたまらない。

 どんどん痛みが増していく。

 肩を引きちぎりたくなるような痛み。


 歯を食いしばって我慢する。

 そして、ミラーの後を追いかける。

 ミラーは、手斧を持ったまま、周囲を警戒している。


 オレには帰り道が分からない。

 どこを向いても全部同じ森だ。


 だがやはり、ミラーには道が見えるらしい。

 数分でキャンプが見えた。



 オレの傷を見て、未希やストームが、驚いたような悲しいような。

 とにかく、酷く慌てた顔をしている。

 オレより慌てている。

 だから……

「落ち着け。大丈夫だ」


 しかし、痛みはウソをつかない。

 ズキズキと痛む。


「未希、痛みを消す魔法はあるか」

「う……うん……えと……えーっと……」

「だめ。そんな混乱した思考で、魔法唱えるなんて、危険すぎ」


 ストームは少し冷静のようだが、目を逸らしている。

 血を見るのが嫌なのだろうか。



「そうだよ、お嬢ちゃん。専門家に任せな」


 声の主は、医療チームのリーダーの男。

 周囲からは、単に「ドクター」と呼ばれている。

 彼は、魔法使いではなく、普通に医者らしい。


 ドクターの後ろにもう一人。インド人の男。


 インド人の男が歩みより、オレの肩に軽く手を添えた。

 そして目を閉じる。


 オレの肩が歪んで見えたが、すぐ収まった。


 すると、どういう訳か……


 痛みが、じんわりと緩和された。



 まだ少し痛む。

 だが、それよりも……かゆかった。



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