4.2.16
「食べ過ぎるとハラ壊すぞ」
オレ達は森の中へと踏み込んでいた。
未希が、ブラックベリーを口に入れる。
オレもひと粒食べてみたが、甘くてジューシーだった。
ツブツブの食感も良い。
未希が好きそうな食べ物だ。
「おにいちゃん、最後の1個食べる?」
未希がハラを壊す可能性。
それを少しでも減らす。
最後の1個は、オレが食べた。
シラカバや、ヒイラギの木が混じる森を進む。
やがて、太い樫の木や、ブナの木が乱立している深い森に入る。
木々の隙間は広く、歩くスペースは充分にあるが、道はどこにもない。
ペースを変えずに突き進むスコットランド人のガイドには、道が見えているのだろうか。
そういえば、カタセ村のクラゲもこんなだった。
何か目印でもあるのだろうか。
オレの目に見えるのは、どこまで行っても森だ。
その森の奥の闇が少しづつ、拡大していく。
陽が陰り出している。
先頭のアーネストが何か言うと、歩行ペースが少し上がった。
そして、夕方の中頃。
進む先にヤナギのように垂れ下がった木が数本。
近づくと水の流れる音。
シダのような細い葉が生い茂る先に、小川が流れていた。
川幅は10メートルも無い。
オレ達はそこで立ち止まる。
リーダーのアーネストが、野営準備の号令をかけた。
荷物を降ろす。
運ばされた野菜の袋を広げて、皆に配る。
カラダの疲れ無視して、焚火を設営する。
未希もストームも、まだ少しは動けるようで、焚き木を集めている。
今夜は、オレが焚火の火を起こした。
オレも、だいぶ野営というものに慣れた。
川で水を汲み、湯を沸かす。
お茶を飲みたがっていたので、食事の準備の前に、未希がハーブティを煎れる。
それから、夕食の準備。
玉ねぎやキャベツを刻んで適当に煮込む。
そこに乾燥ベーコンや、乾燥豆を入れる。
未希が、ハーブや塩で味を整えて、今夜のシチューが完成だ。
味は悪くない。むしろ良い。
ただ……少しだけ、黒パンや、雑味だらけのエールが恋しい。
アレはアレで、「不味い」という味の重みがあった。
単にオレが、この世界のグルメに毒されているだけかもしれない。
「明日以降の打合せに呼ばれた」
と、言って、ストームはアーネストの焚火へ向かった。
オレ達のリーダーはストームだ。
もしかしたら、この遠征隊の最年少幹部かもしれない。
ストームが戻り、明日からの分担が告げられる。
このキャンプを一時的な本部にするようだ。
森の中だが、道に迷ったら、川を探し辿ればここに戻れる。
なるほどな。
そして、明日以降は、このキャンプを基点に斥候チームを派遣するらしい。
ちなみに、オレ達は本部の留守番。
雑用係の任務は、本部の維持と食糧の追加調達。
焚火の灯りは絶対に絶やすなとのこと。
医療チームの3人も本部に留まる。
楽な任務ではないだろうが、斥候に出るよりは安全だと思う。
鬱陶しいスペイン人やフランス人と別行動なのもありがたい。
彼らとは、いつ衝突してもおかしくない。
夕食後。
見張りの計画を立てる。
今夜に関しては、オオカミなどの脅威ではなく、内部への警戒だ。
スペイン人を見張る。
スペイン人らは、アーネストらと同じチームで見張りを組んでいる。
そこから、悪さしにくるのは、考えにくいが、念のためだ。
ストーム1番、2番クリス、3番オレ。
最初の見張りは、他の焚火の連中も起きている。
だからストームに任せても、大丈夫だろう。
最も、警戒すべき3番を、オレが担当する。
本当は、明日から斥候にでるクリスを1番にしてやるべきなんだろうけどな。
未希と、ストームの安全が、最優先だ。
まぁ、ストームに関しては……
スペイン人のための、安全とも言えるかもしれない。
魔法で殺害しかねない。
今朝は、そういう目つきだった。
森の中で、寝るのは初めてだ。
静かだと思ったが、意外と煩い。
とくに、虫の鳴き声。
スコットランド人のガイドから、食べ物は木に吊るしておけと言われた。
それと、虫が鳴いてるうちは、安全だから、我慢して寝ろと。
それもそうだな。
未希と、ソフィアはすでに寝息をたてていた。
いい神経している。
オレも、横になって、マントに包まる。
森の中は、少し寒い。
今日は重い荷物を運んで疲れた。
目蓋を閉じたら、もう開けられなかった。




