4.2.15 - ソフィア
旅が始まった。
オレ達は、列の後方。
すぐ近くには、クリスとソフィア。
最後尾には、副官のウェストンとガイド役のミラー。
スペイン人の2人は、オレ達の少し前。
陽気な性格なのだろうか、ペチャクチャとよく喋る。
ときおり、こちらを振り向き、未希とストームに視線を投げている。
まぁ、オレ達は歩くのに精一杯だ。
実は、オレ達3人だけに、ストームが魔法をかけていた。
足の裏の負荷が少ない場所。それを可視化する魔法。
オレ達3人にだけ、地面に光沢が見える。
負担が少なく、転びにくい足の踏み場だけが、少し明るく見えるのだ。
より良い足場は、なお明るく、光っている。
傾斜のキツイ地面、根っこが突き出ている地面、歩きにくい地面はなんの変化もない。
オレ達は、その光沢の地面を優先して、足を踏み込む。
どれだけ効果があるのか、今のところ実感は無い。
ただ、けっこう気を遣う。
もしかしたら、逆に疲れそうな気もする。
でも、ただ歩くだけよりも、気がまぎれる。
だから、いつの間にか、時間が過ぎていた。
気が付くと、森のすぐ近く。
そして、森に入る手前で、休息の号令がかかる。
太陽の位置は、ほぼ正午。
未希も、ストームも、思ったより疲れていない。
魔法の効果が、出ているのかもしれない。
腰を下ろし、革水筒のキャップを開ける。
未希が煮込んだ、アップルビネガーを飲む。
健康的な感じがするねっとりとした味。
喉に絡みつき熱くなる。
渇きは、まったく潤わないが、活力だけは湧いてくる。
休んでいると、ソフィアが近づいてきた。
オレも少しは、英語が聞き取れるようになってきた。
「なんかの魔法……でしょ……?」
オレ達の歩行に、文句を言うヤツは居なかった。
だが、後ろを歩いていたソフィアとクリスは、奇妙に感じていたようだ。
2人にだけこっそり、ストームの魔法だと教えた。
無論、2人からも、その魔法をかけてくれと頼まれる。
危険な魔法ではないとストームが断言するので、2人にも、歩きやすい地面の可視化魔法をかけた。
オレは、英会話の練習もかねて、拙い英語で、ソフィアに尋ねる。
「ソフィアも、魔法使いなんだよな? どんな魔法なんだ?」
ソフィアは、説明してくれた。
だが……専門用語が多すぎて分からなかった。
ストームが通訳した。
「微粒子を操る魔法だって。なんかすごそう」
「微粒子って、花粉とか塵とかか」
ソフィアは、攻撃魔法職だよな……?
それで、どうやって攻撃するんだ?
「ソフィアさん、実演してくれるって」
ソフィアは歩き出し、近くの茂みの前へと向かった。
オレもストームも。未希も、その後を追う。
ソフィアが歩み寄ったのは、赤と黒のベリーがぶら下がる、キイチゴの茂みだった。
「キイチゴか?」
と、俺が言う。
「これは、ブラックベリーだよ」
あとから近づいてきたクリスが訂正した。
ソフィアがしゃがんで地面の砂を掴む。
そして広げる。
手のひらの上には、僅かな砂。
ソフィアが目を閉じる。
その異変は、1秒も待たず、瞬時に起こった。
手のひらの砂が、ミニチュアの砂塵を起こし、微かな光を放ちながら、ベリーの茂みへと飛散した。
未希が声を漏らす。
「わぁ……きれい」
そして、数秒。
最初にぽとりと、黒いベリーが地面に落ちる。
続けて、ぽとり、ぽとりと……
黒いベリーだけが、地面に落ちていく。
「すごすぎ……」
ストームは、ただ驚いていた。
その茂みの黒いベリーが全て地面に落ちると、さらさらと小さな音をたてて、砂が地面に散ってしまった。
「おやつよ。拾って食べましょう」
ソフィアが、英語で、そんなようなことを呟く。
「わぁ! おいしそう」
未希が、真っ先にベリーを拾い集めに行く。
ソフィアが見せたのは、ブラックベリーを収穫する便利魔法……
ではない。
明らかに異なるのは、スピード。
未希や、ストームは、魔法発動までに、何秒も掛かる。
ストームに至っては、解釈を練り上げるのに、数分を要することもある。
しかし、ソフィアは、一瞬で砂を制御した。
このスピードこそが、攻撃魔法職に求められる資質なのだろうか。
そして、これが、人に向けられたら……
今、見た魔法だけでも、ソフィアは、一瞬のうちに相手の視力を奪うことができるだろう。
微粒子の制御。
目だけじゃない。鼻や耳、口。
砂だけでなく、胞子や花粉、微生物も微粒子と言える。
それが、一瞬で襲ってくる。
他にどんなことができるのか……想像も付かない。
オレがあの魔法を使えたら、田心啓介だって1回で倒せたかもしれない。
とりあえず、今、考えられることは、ひとつだ。
ソフィアを敵に回すのは、やめよう。
それだけは、確実だ。




