4.2.14 - 遠征再開
リュウジと別れて、オレ達は、遠征の準備を始める。
革水筒を洗浄し、それから食糧の買い出し。
5日から6日程度の旅になるらしい。
干し肉や、乾燥豆。腐りにくいものを食糧に選ぶ。
それから、未希の魔法。
マントの匂いを、変更してもらう。
マントには、旅の全てが詰まっている。
だいぶ臭くなっていた。
未希の魔法で、悪臭を消す。
その後は、軽く武器の手入れ。
残った時間でカラダを休める。
その日は、早めに寝た。
翌朝。
暗いうちから動き出し、旅の支度を始める。
未希が昨日から煮込んでいた、アップルビネガーを革水筒に注ぐ。
蜂蜜は、手に入らなかった。
そのあと、簡単な朝食。
カレンダーの木札の数字は、「7」になっていた。
ログイン時間は、『 ELAPSED 01:24 』
食事を終えて、腰に革水筒を結ぶ。
いい香りになったマントを羽織る。
最後に食糧と鍋が入ったズタ袋を背負う。
そして、待ち合わせの広場へと向かった。
時刻はまだ早朝。
広場に集まっているのは、まだ数人。
オレ達以外は、だいたいルーズだ。
馬鹿正直に時間を守っても、待たされるだけ。
次はもう少し考えよう。
出発を待っていると、2人の男が、オレ達に近づいてきた。
二十代の西洋人だ。
たしか、初日に遅刻した2人。
腰には、やけに細い剣が吊られている。
フェンシングで使うような刺突剣。
レイピア? だったか?
近づいた目的はオレでは無い。
オレのことは見向きもしない。
男達は、草の上に座っていた未希とストームの前に立ち、2人を見下ろした。
怒ったり、恫喝しているようには見えない。
ヘラヘラと、なにかを喋っている。
ナンパか?
若い日本人が珍しいのだろうか。
言葉は英語ではない。
未希も、ストームも、分からないようだ。
2人が困っていると、ソフィアが割って入ってくれた。
しかし、ソフィアも言葉が分からないようだ。
近くにいたクリスが、オレに話しかけた。
「彼らは、スパニッシュですね。女癖が悪そうな連中に見えます」
スパニッシュ? スペイン人か?
「止めに入るか」
「そうですね」
干渉するつもりは無かった。
男の独りが未希に触れようと手を伸ばす。
それは看過できない。
だから、割って入った。
しかし、言葉がわからない。
だから、オレは腕組みをして、未希とストームの前に立つ。
近づくと臭い。
焦がしたエンピツの塊のような匂い。
クリスも、ソフィアの前に立ち、スペイン人の視線を塞ぐ。
出発前の朝だ。揉め事は起こしたくない。
だから、睨むわけでもなく、ただ間に立つ。
2人のスペイン人は、少し険悪な顔を作り、オレとクリスになにか言っている。
何を言っているかわからない。
独りがオレの右肩に触れた。
掴んで、捻り上げようとしたところで、別の男が、その腕を掴み上げた。
イギリス人のエルバスだった。
ウェストンと並ぶ、アーネストの腹心の独り。
エルバスが、スペイン人の2人に言葉をかけている。
どう言いくるめたのか知らないが、スペイン人の2人は、離れていった。
エルバスは、軽く右手を上げて、「抑えてくれ」というようなジェスチャーをして、立ち去った。
どうやら、オレじゃなく、ストームへのジェスチャーだった。
見ると、酷い形相で、スペイン人の背中を睨みつけていた。
切れ長の目から放たれている眼光は、まるで呪いだ。
「ストーム」
「ん……」
スペイン人が歪みだす前に、言っておく。
「魔法使うなよ」
「んん……」
そういえば、そうだった。
なんとなく、味方な気がしていたが、そんな甘い世界じゃない。
クリスやソフィアは、信頼できそうだが、だれも信じるつもりはない。
オレ達は、よくわからない集団の中のマスコット。
ただの捨て駒。
これから始まるのは、そういう旅だ。
出発の時間が近づく。
そしてオレは、また荷物を持たされる。
中身は、今夜の食糧。
初日の夕食は、隊から支給してくれるらしい。
野菜や果物が入っている。
ありがたいが、運ぶのはオレだ。
そして、かなり重い。
今回、未希とストームの荷物は少なくした。
大部分はオレが持つ。
未希が「重くない?」と声を掛けてくる。
重いが、まだマシ。
あとで、未希やストームを背負って歩く方が辛い。
ウェストンが、ようやく出発の号令をかけた。
ここからは東に向かって進むらしい。
正直、オレは、なにも分かっていない。
この隊の目的も、行き先すらも。
知る必要は無い。
オレの目的は、簡単だ。
未希とストームの2人を生還させる。
それだけだ。
それ以外のことは、どうでもいい。




