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4.2.13 - かあちゃん


「かわいい……」


 未希が、オオカミに近づいた。

 母オオカミが、鼻を鳴らし、未希のマントの匂いを嗅いでいた。


 未希が手を伸ばすと、こんどは指の匂いを嗅いでいる。

 危なっかしくて見ていられない。


「おにいちゃん、水筒、水筒」


「え……あ、ああ……」


 言われるままに、オレは腰の革水筒を解き、キャップを外して未希に渡した。

 中身は、ダメになりかけている蜂蜜アップルビネガーだ。


 そんなもん、呑ませて大丈夫なのか。


 未希は、自分の手に少し垂らし、母オオカミの口元へ。

 オオカミはしばらく、その匂いを嗅いだ後、ペロペロと未希の手を舐めた。


「はぁ……ミキのお嬢ちゃんには、かなわねぇや……」


 リュウジが、へたり込むように腰を降ろす。

 そのまま、オオカミの親子を眺めている。


「これで呪いは、解決か?」

 リュウジに質問すると、右手に持った匕首をながめながら、言葉を返した。


「いや……それはまだだ。そっちはたぶん……俺が死ぬまで解決しねぇよ」


 この男の過去か。

 どうでもいい。

 関わりたくない。


 その長話が始まる前に、戻りたい。


 そんなことを考えていたら、母オオカミが立ち上がった。


 さっきは分からなかったが、やせ細り、だいぶ弱っている。

 ひ弱なカラダで、子供を守ろうとしていた。


 母オオカミがフラフラと動き出す。

 歩いた先は、リュウジの所だった。


 シッポを垂らしたまま、リュウジに近寄る。


「なんでぇ。どうした? 腹減ってんのか? 俺ぁ美味くねぇぞ?」


「ねぇ、リュウジのおじさん」

「おじさんじゃねぇつってんだろ」


「この子たち、飼ってあげて」


「はぁ?」


「こんなところじゃ、ご飯も無いし、いつか誰かに見つかって……」


 まぁ、この様子じゃ……もう幾日も持たないだろうな……

 見つかってどうこうの前に、ここで野垂れ死ぬ。


 リュウジが、匕首をサラシの下へと戻す。

 こんどはその手を、母オオカミの首元に伸ばした。


「そうか。行くとこねぇのか」


 母オオカミは、媚びる様子もなく、リュウジの手を受け入れる。

 静かに顔をもたげたが、母オオカミの方から離れ、少し距離を取った。


「俺と一緒じゃねぇか……」


 リュウジをこの群れのリーダーとして認めた……という訳でもないだろうが……

 母オオカミは、3人の中で、最も強い人間を嗅ぎ分けたのだろうか。


 気付くと未希が、小さなオオカミを両手に抱えていた。

「この子も一緒だよ」


 まだ、目もろくに見えていないのだろうか、鼻を突き出し、頭を伸ばして、何かを探している。


「わかったよ……じゃあ……俺んとこ来るか」


 母オオカミが、小さくシッポを振る。

 リュウジの言葉を理解できるわけもない。


「この子の名前、みきが、つけてもいい?」


「おぅ、そりゃ嬉しいなぁ。なんて名前にしてくれんだ?」


「リュウタ」


 リュウジが口を開けて、固まった。

 その後、顔をもたげて、リュウジが言葉を絞り出した。


「くぅふっふ……おう、いい。良い名前だっ、それしかねぇなぁ」


 なんだか、少し涙声が混じっている。


「じゃあ、こいつは、俺の新しい嫁さんてわけか……因果なもんだぜ、ほんとによぉ」


 リュウジが、母オオカミの顎を撫でる。


 オレは予感した。

 このままじゃマズイ。

 リュウジはもう限界だ。

 リュウジが抱え込んでいる何かが、決壊する。

 そんな予感がした。

 だから、言った。


「行こう、戻ろう」


「おぅ。かあちゃんとリュウタに、メシ食わしてやんねぇとな。何を食わせたらいいんだ?」


 未希が、リュウジに、リュウタを手渡す。

 リュウジが、両手でそれを受け取った。


「うんとねぇ……」


 未希が、リュウジに、食べさせも良さそうな物を提案している。

 それがいいとか、それは手に入らないとか。

 そんな話。 


 リュウジが歩き出すと、母オオカミもそれに従った。


 呪いは解決しなかったようだが、これで今夜は、ぐっすり眠れるだろう。



 そして、オレ達は野営地に戻った。

 オオカミを連れて歩くリュウジを見て、野営地の連中は、ぎょっとしていた。


 リュウジが、英語で何か言っている。

 任侠ヤクザのクセに、英語は達者なようだ。


 この男が、どんな人生を歩んできたのか。

 少し気になる。

 だが、それに触れる気はない。


 今の心配は、些細なことだ。


「未希、魔法が解けても大丈夫なのか? 夜中にリュウジが喰われたりしないか?」


「うん、大丈夫だよ。すごく仲が良さそうに見えるでしょ」


 ときおり、リュウジが、少し距離を置いて近くを歩く母オオカミに視線を流す。

 それを察知した母オオカミが、顔を上げて、リュウジを見返す。

 そしてすぐに視線を離す。


「そうか。そうだな」



 なんだか、長年連れ添った夫婦のように見えなくもない。





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