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4.2.10 - リュウジ


 アーネストは、前哨基地に、2日留まると告げた。


 さすがに全体の疲労が濃く深い。

 出発は、3日目の朝だと通達し、その夜は解散した。


 オレ達も、個別にテントを与えられた。

 とは言え、数に限りもある。

 だから、クリスと、ソフィアも、同じテントにまとめられた。

 5人だと、まぁまぁ狭い。


 オレはテントでくつろぐ前に、荷物を持って外へ。

 運んできた補給物資を、基地の担当者に引き渡す。

 重たい小麦袋と、ボトルに入った酒が数本。

 これで、重い荷物は無くなった。


 テントに戻り中へと入る。


 未希とソフィアは、すでに、寝息をたてていた。

 2人でテントの中央を占拠している。

 さすがに疲れたのだろう。


 少し余力のあるストームが、目を閉じて、テントに術をかけた。

 テントの歪みが収まり、目を開ける。


「テントの中の人物に危害を加えたら、大きな音が鳴る。だから安心して寝ていいよ」


 どんな音かと気になったが、それを聞く前に、ストームも横になり寝てしまった。


 オレとクリスは、入り口近くの端っこへ。


 さすがにオレも疲れた。

 オレ達も横になり、目を閉じた。





 翌日。


 ニフィル・ロードの滞在4日目。

 現実世界の経過時間は58分。


 遠征隊の半数以上は、ログアウトによる回復をするらしい。


 オレ達3人は、相談の結果、ログアウトせずに、このまま続行することに決めた。


「ここで引き返してもいいぞ」

 ここまでで、もう充分だ。


 最初の経験としては、上出来だろう。


「まだ頑張る」


 オレが思っていたよりも、2人は真剣だった。

 なら、オレも付き合うしかない。

 この世界での2人の保護者はオレだ。


 簡単な朝食を済ませて、今日はどうするかと、2人に聞いた。

 未希と、ストームは、まだ暫くテントで休むと言う。


 オレは独り、テントを出て、その辺をぶらつくことにした。


 前哨基地とは言うが、寒村のような風情。

 常駐しているのは、30人と少しくらい。

 そこにオレ達の遠征チームが加わり、50人ほどのプレイヤーが駐留している。


 畑を耕す者、果樹園の手入れをする者。

 ハンマーで、鉄をたたく者。

 女性のプレイヤーも、ちらほらと、忙しそうに行き交っている。


 全体の印象は、基地というよりも村だ。

 

 


 しばらく歩いていると、日本人風の男が目に付いた。


 焚火の近くに腰かけている。

 その男は、右手でタバコのようなものを挟み、煙をくゆらせていた。


 この世界にも、タバコがあるのか。


 近づくと男が顔を向ける。

 歳は、30代だろうか。

 薄汚い上着から覗く肌は浅黒く、ボサボサの髪。

 左頬の切り傷が目立つ。

 細い眉の上に広がるおでこが、厳つい印象を放っている。

 だが、睨むような目ではなかった。

 目つきだけは、穏やかだ。


「にいちゃんも、1本吸うか?」


 煙を吐き出しながら、男は日本語でそう言った。

 焦げ臭いが、タバコの臭さとは違う。

 どことなく、甘ったるい。

 男の人相とは真逆の匂いだ。


「タバコは……最近やめた」

 オレは、最近タバコを吸っていない。


「そうか」


「どこに売ってるんだ。そのタバコは」


「これか。これは俺の手作りだ」


 男が、腰の筒から1本取り出し、オレの方に向けた。


「なんで出来てると思う」


 それを摘まんで眺めてみる。


 タバコは、何かの皮。

 それを乾燥させたような手触りだった。

 10センチほどの長さのそれは、黒く変色しカチカチになってる。

 フィルターは無く、現代のタバコの見た目とは程遠い。


「わからないな。樹皮か何かか?」


「バナナの皮だ」


「……バナナ?」


 男が枝を1本拾って、焚火の火を拾う。

 引火した枝の先を、オレの方へ差し出した。


 オレも近くに腰を下ろして、バナナの皮を咥える。

 その繊維越しに、枝の火を吸い込んだ。

 

 全然吸い込めない。

 フィルター無しというより、すべがフィルターのような、吸い込みの悪さ。


 まぁ、良いか悪いかで言うと、まぁまぁ。

 タバコのない世界で考えたら上出来だ。


 手製の葉巻を作ったらこんな感じかも知れない。


 甘い匂いはある。

 しかし、バナナの風味は無い。

 ただの煙だ。


「肺にいれんなよ。口の中だけで煙をころがせ」


「バナナなんて、どこに生えてんだよ」


「俺のメモリアはよぉ、南国みてぇなところでな。そこいらじゅう、バナナだらけだ」


 もう一度、バナナの煙をゆっくりと吸い込む。

 そして吐き出す。

 煙に混じる、仄かな甘い匂い。


 男が、話を続けた。


「バナナ拾ってりゃ生きていけるからよ、だれも食いものには苦労しねぇ。だから、働いてるやつも、あんまりいねぇよ」


 なぜだか分からないが、男に、妙な親近感を感じる。


「にいちゃん、名前は?」


「ソウジだ。あんたは」


「俺ぁ……リュウジ。よろしくな、ソウジ」


「さて、そろそろ休憩も終わりだ。またな。ソウジ」


「ああ」


 リュウジと名乗ったその男は、近くにあった丸太を担ぎ、立ち去っていった。


 オレは、バナナタバコの煙を吸い込み、リュウジが立ち去る方へ煙を吐き出した。

 厳つい男が残していった、甘ったるい匂い。

 いろんなヤツがいるんだな。



 この世界は。



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