4.2.07 - 世界に愛された
休息無しで歩き続けている。
昼を過ぎた頃。
未希とストームの足が遅れ始めた。
あたりまえだ。
現実世界のストームは、色白のパソコンオタク。
未希は、そもそも体力がない。
荷物を抱えて、原野を歩き続けるなんて、できるわけもない。
前を歩く、フランス語の2人がうるさい。
何を言っているかわからないが、オレ達を指さして喚いている。
関わりたくないので、目を逸らす。
ストームがフラフラと、歩きながら言った。
「歩くのが、楽になる魔法……考えてみる……みきさんいいのない?」
「う~ん……荷物軽くしてみる?」
「それだと、袋に穴が開いたり……煙になったりするかも……」
「じゃあ、荷物を浮かせるとか」
「それもかなり難しそう……」
「疲れないようにする……とかは?」
「わたしには無理かも……みきさんできる?」
「う~ん……やってみる……」
と言い放ち、足を止めて、目を閉じた。
「え、ちょっと……だいじょうぶ?」
ストームの心配を無視して、未希は目を閉じたままだ。
そして、足が歪みだした。
昼間なので分かりにくいが、仄かな光を発しているようだ。
オレだけじゃない。
未希も、ストームも。そして、後ろを歩く、クリスやソフィアも。
いや違った……全員だ……
全員の足が歪み、仄かな光を発している。
そして歪みが収まり、光も消えた。
「おい……未希……なにをした……?」
「みんなの足にかかる負担が、軽減しますようにって……ちょっと歩いてみて」
地面の固さが和らいでいる。
なぜだか、石のカドが刺さらない。
石は綿のように柔らかく、地面はマットのような、ほどよい弾力。
斜面の衝撃も、斜面があるのに感じない。
足裏の痛みも減少し、ふくらはぎの筋肉疲労も感じなくなっていた。
なんだか、水圧抵抗の無い、プールの中を歩いているような感覚。
オレ達だけではなく、全員が、その変化を感じ取り、どよめいた。
「いったい、誰が何をした?」
そんな表情で、前の9人が、顔を見合わせている。
後ろのクリスとソフィアが、未希を見て驚いていた。
最後尾のウェストンなどは、口をあけたまま静止していた。
いや……すまん……
犯人は未希。オレの妹だ……
これは、名乗り出た方がいいのか。
リーダーのアーネストと目が合う。
あいかわらず、無表情だ。
何を考えているかわからない。
「 Don't worry. It's a support spell !」
そのアーネストが、オレから目を逸らし掛け声を出した。
「 Now, walk, walk, make hurry.」
手を2回叩き、そう続けた。
そして、何事も無かったかのように、背中を向けて歩き始めた。
アーネストの足取りも、ふわふわと、軽そうだ。
「みきさんナイス。めちゃ楽になった」
ストームが、クスクスと笑いながら、未希に言った。
フランス語の2人は、背中を向けて、まだぶつぶつと何かを言っている。
しかし、その2人も、足をふわふわと浮かせて、歩いていた。
笑いがこみあげてくるのは何故だ。
クリスの話では、魔法が使えるのは、未希とストームを含めて、7人いるらしい。
攻撃系の魔法が使えるのは、そのうち3人。
ソフィアは、攻撃魔法の術師だと言った。
どんな魔法なのかは不明。
そして、複雑な魔法を行使できるのが3人。
ストームも、そのひとり。
複雑な魔法は、論理解釈を頭の中で正確に練り上げる必要があるらしい。
未希は、複雑な魔法を唱えることはできない。
攻撃するような魔法も性格的に無理だろう。
しかし未希は、今回のような、突拍子もないことを平然とやってのける天才らしい。
もし、別の人間が同じように「みんなの足にかかる負担が、軽減しますように」と唱えても、同じ結果にはならないのだとストームが言う。
仮にストームが同じ魔法を唱えたら? と質問すると。
「……全員の足が鉄か鉛に変化して、進むのがものすごく遅くなるかも」
確かに……それなら、足は疲れを感じなくなるかもしれない。
しかしそれでは、歩けない。
匍匐か、逆立ちで進むことになる。
「ストームが同じ現象を起こすとしたら、どう唱えるんだ?」
問いかけに、ストームは、長い回答をした。
「肉体構造を維持したまま、
地面との接触における抵抗を減らし、
足に掛かる疲労を軽減する。
尚且つ、術前の進行速度を維持」
「わけがわからん……」
「でも、これは疲労を軽減するだけだし、
解釈に穴があったら、想定外が起こる。
疲労がどう軽減されるのかも……
唱えてみないとわからない。
全員にも行きわたらない。
だから、みきさんのは、神技」
「なぜ、未希はそんなことができるんだ」
「……世界に愛されてる?
みきさんは、少ない言葉で、世界が最適解を返してくれる。だからすごい。天才」
「未希は天才なのか」
「えへへ。そうなのかな?」
未希が照れくさそうに笑う。
純粋だということか……?
いや、その前に……
失敗して、全員の足に根が生えでもしたら、どうするつもりだったんだ……
単に、バカなだけ……じゃないのか。
「未希」
「ん?」
「これから、誰かに魔法を唱えるときは、唱える前にオレに言ってからにしろ」
「うんわかった。おにいちゃん。えへへ」




