4.2.06
肩を揺すられて目が覚める。
朝かと思ったら、まだ夜中だった。
目をあけると、クリスの顔。
「ソウジ。交代だよ」
見張りの交代。
カラダを起こして、革水筒のキャップを抜く。
未希特製の、蜂蜜アップルビネガーを口に含む。
少し酸化が始まっているが、変な味はしない。
喉が熱くなり、活力が込み上げる。
腹にもよくたまる。
「それでは……おやすみなさい……」
と言い残して、クリスは焚火の近くに寝転がる。
そして、1分もたたないうちに、寝息をたててしまった。
未希とストーム、それとソフィアの3人がひと固まりで、焚火の反対側で眠っている。
よく眠れているようだ。
マントに施した魔法、アロマの香りのおかげかもしれない。
オレのところにも、少し香って来る。
さて、立ち上がって、カラダを伸ばす。
川へ行き、軽く顔を洗う。
次に鍋を洗う。
洗った鍋に水を汲みなおし、焚火へと戻る。
石の上に鍋を載せ、湯を沸かす。
周辺を見ると、同じように燃えている焚火が1つ。
他の焚火は消えかけていた。
起きているのは、オレともう一人。
アーネストだった。
あとふたりくらいは起きているはずだが、他はみんな眠っていた。
合わせたくなかったのに、アーネストと目が合う。
起きているのは、オレとアーネストだけのようだ。
しかたなく、片手を上げて軽く挨拶をした。
アーネストからの反応は無く、焚火に視線を戻しただけだった。
まぁ、予想通りだ。
腰を下ろして、デバイスを確認した。
『 ELAPSED 00:14 』
メモリアで出せば、「渡し人様」と言われて、敬われたログインデバイス。
しかしエレメント・ノードでは、みんな持っている。
もう、切り札としては使えない。
そんな世界でどう生き延びたらいいのか。
考えていたら、時間が過ぎて、朝陽が昇り始めた。
立ち上がって、少し周辺を歩き回る。
警戒のついでに薪木を拾う。
焚火に戻ると、未希が目を覚ましていた。
「おにいちゃん、おはよう」
「ああ、おはよう」
未希の顔を見て、簡単に答えた。
「どうした。嬉しそうだな」
「えへへ。おにいちゃんに、おはようって言われるの、何年振りか知ってる?」
言われてみれば……
家を飛び出したのは、2年以上前だ。
寝起きの未希と言葉を交わすのも、それ以来だった。
未希が鍋をのぞき込む。
ぐつぐつの湧き上がってるのは、ただのお湯。
「お湯湧いてるね。お茶入れようか」
「ああ、頼むよ」
未希が革袋の口を広げて、ごそごそと葉っぱを取り出す。
それをボウルに入れて、スプーンでゴリゴリとすり潰していく。
その音で……かどうかは分からないが、ソフィアも目を覚ました。
ぼさぼさの短いブロンドの髪を、手で直そうとしているようだが、直らない。
当たり前だが、女性は全員、ノーメイクだ。
化粧品が有るのかどうかも知らないが、野営に持ち込むヤツは居ないみたいだ。
起き上がって、未希となにか英語で会話している。
朝食の打合せでもしているのだろうか。
それから暫くして、ストームが目を覚ました。
朝食の支度が終わる頃には、夜明けも中頃に達していた。
ストームは、すこぶる寝起きが悪い。
焚火の前に座っているが、また寝てしまいそうだ。
栄養ドリンクを飲めと促したが、革水筒のキャップが固くて開けられない。
しかたなく、オレがあけてやる。
チビチビと、蜂蜜アップルビネガーを飲む。
少しは目が覚めたか。
そろそろ、クリスを起こす。
交代してから3時間も寝ていない。
クリスも眠そうだ。
起きたところで、焚火を囲い。5人でハーブティーを飲む。
美味しい。
それから、固パンをハーブティーに浸して、5人で食べた。
どうやら、旅は、遅れているらしい。
予定では、明日に、中継地の前哨基地に到着予定だった。
そりゃそうだ。
昨日の時点で、出発の時間が半日ズレている。
「今日は少し急ぐ」
と、アーネストが告げた。
野営の後始末を手早く済ませる。
フランス語だろうか。
手ぶらで、たいして荷物も持たない男が2人。
なにか、文句を言っている。
意味はまったくわからない。
ただ、機嫌が悪そうなことだけは伝わる。
オレ達のことを話題にしているような気もする。
まぁ、いい。
フランス語は、オレ達3人とも理解できない。
だから、どうでもいい。
とにかく……
2日目の旅が始まった。




