4.2.05
「あなた達は、日本人ですか?」
歩き出して、十数分。
後ろを歩いていた外国人の男が、オレに話しかけた。
黒髪だが、垂れ目で彫の深い顔。
肌の色も白く、日本人では無い。
身長も高く、190センチ前後はありそうだ。
オレ達のようなマントではなく、灰色のスカーフを巻いている。
隣りを歩くブロンドの女も、ニコニコと、オレ達を眺めている。
「おまえは? アメリカ人か?」
「ハイ。私はクリス。マイアミに住んでいます」
クリスと名乗った男が、右手を開いてオレの方へ差し出す。
オレも、右手を出して、クリスと深く握手を交わした。
「オレはソウジだ。日本語はどうやって覚えた?」
「父親の仕事の関係で、子供の頃は日本に住んでいました。小学校にも通っていましたよ」
「他に日本語を話せるヤツはいるのか」
「日本人は、よく見かけますけど、今回の遠征では、私とあなた達だけかな」
クリスの隣りを歩く女性と目が合う。
「コンニチワ」
彼女も、日本語で挨拶をした。
歳は二十代前半だと思う。
未希やストームと違い、洗練された女性の色気がある。
「君は?」
「……? ……Um……ソフィア」
ブロンドヘアーの女性が、胸にポンと手を当てて、そう答えた。
見た目の歳はオレ達と変わらない。
クリスが、フォローするように言葉を付け加える。
「彼女は、ソフィアです。会話できるほど日本語は話せません」
ソフィアが、右手を少し丸めて差し出した。
指の部分だけ軽く握り、「ソウジ」と、伝える。
未希とストームも、順に挨拶を交わし、自己紹介をした。
それからは、女子3人で、会話をしていた。
無論、英語だ。オレは混ざれない。
クリスが時々、話に混ざっている。
オレは、耳を傾け、分かりそうな部分だけ言葉を拾う。
最初は、未希の羽織るマントに注目が集まったようだ。
仄かなホワイトムスクの香り。
マントの作りも悪くない。
父親の残したマントを褒められて、未希も嬉しそうだ。
ストームが、日本のアニメや海外ゲームの話で盛り上がっている。
クリスとソフィアも、オレ達とあまり変わらない年代のプレイヤーなのだろう。
適度にそんな会話をしながら、旅を続けた。
昼に出発したのもあるが、たいして進まないうちに、陽が傾き始めていた。
旅は暗くなる寸前まで続いた。
薄暗い夕闇の中、ようやく辿り着いた小川の近くで、全体の歩行が止まる。
そして、野営の準備が始まった。
歩いたのは半日だが、未希もストームも、疲労困憊だった。
明日は、1日中歩き続ける。
先が思いやられる。
2人とも、夕方ごろから「水が飲みたい」と連呼していた。
革水筒に入れて来た健康飲料では、喉が潤わない。
オレは石を並べて炉を作り始める。
真ん中に平らな石を配置した、ガスコス流の焚火設営。
未希とストームには、薪木を集めてもらう。
オレは鍋に水を汲む。
問題は火だ。
火打石で火を起こそうとするが上手くいかない。
魔法でなんとかならないかと、未希とストームに尋ねたが、それは無理だと言われた。
火の魔法は、すでに火が存在していないとダメらしいく、そもそも魔法で火を扱うのも難しいらしい。
何度も失敗していると、ソフィアが、ひとりの女性を連れてオレ達の方へ近づいた。
その女性は、23歳のケアリーと名乗った。
彼女が、火打石で火花を飛ばして、火を起こした。
火を付けるのは、クリスやソフィアでも難しいようだ。
ともかくこれで湯を沸かせる。
中央の平らな石に、水を張った鍋を置く。
湯が沸くまでの間に、未希が魔法を使う。
ソフィアのスカーフと、ケアリーのマントに魔法で匂いを付けた。
火を付けてくれたお礼のつもりらしい。
匂いの元は、調味料として持ってきていたハーブと、途中で摘んだ花。
それらをブレンドしたアロマの香りを生み出した。
気分が落ち着く、いい香りだった。
湯が沸騰すると、鍋のお湯は、ハーブティーへと変わる。
男所帯の野営とは、完全に異なる雰囲気。
ソフィアとケアリーはカップを持ち寄る。
オレ達はズタ袋から出したボウル。
それで焚火を囲み、夜のティータイムが始まった。
そして、オレ達3人の夕食は、果物だ。
桃と、リンゴを一個づつ。
ソフィアとケアリーにも、半分切って渡す。
お礼にと、黒パンをちぎって分けてくれた。
貰った黒パンを鍋のハーブティーに浸して食べた。
周囲は静まり返った原野だ。
焚火の灯りの外は、何も見えない。
それでも、出発前の危惧とは裏腹に、最初の夜は和やかに更けた。
ケアリーは、医療チームの看護担当だという。
現実世界でも、医療現場で働いているらしい。
若いのに立派だ。
オレの仕事はなんだっけ……
ド底辺の清掃員見習いだと、自己紹介しておく。
街のゴミを片づける手伝いだ。ウソではない。
オレ達3人は、クリスとソフィアの2人と合流して、寝ることになった。
お互いに見張りの人数が足りていない。
深夜の見張りはオレとクリス。
それとストームが名乗り出た。
オタクなので、徹夜には慣れていると言う。
ストームが1番、クリスが2番、オレが3番。
未希とソフィアは、早起きして、朝食の支度を担当する。
とはいえ、他のチームからも、深夜の見張りは出るだろう。
だから、誰かしらは起きているはずだ。
見回すと、焚火もあと3ヶ所で燃えている。
これまで経験した、2~3人での野営と比べて、安心感は高い。
まぁ、変な奴がいなければ。
という前提の話だ。
少し離れたところから、男達が酒盛りをしている声が聞こえてくる。
時折、怒号が飛び交い、なだめるようなトーンも混じる。
まぁいい。
まだしばらくは、大丈夫だろう。
今は寝よう。
未希はちゃんと眠れるだろうか。
オレは、枯れ木の匂いのするマントに包まる。
そして、短い眠りについた。




