4.2.04
翌朝。
まだ陽が昇りたての頃。
オレはストームが用意してくれた、小さな個室で目を覚ます。
おやしろのベッドほどではないが、簡易的なベッドがあり、テーブルと椅子が1つ。
他に必要な家具は、これから用意すると言っていたが、特に必要なものはない。
寝る場所があるだけで良い。
起きて、1階に降りる。
未希とストームは、すでに起きていて、旅の準備を始めていた、
ストームの魔法が掛かった木札の数字が、「3」に変わっている。
未希は、マントに喜んだ。
パパのマント。つまりこれも、未希の父親の遺品だ。
持ってきてよかった。
マントを抱きしめるように、両手で胸に抱えていた。
だが、少し獣臭い。
だからすぐに、離して、微妙な顔でマントを眺めた。
そしてオレのマントは、非常に獣臭い。
未希たちに近寄る前に、マントを外して、隅に追いやっていた。
だから、未希は、魔法で匂いを変えた。
未希の得意分野だ。
未希はまず、自分のマントの匂いを、桃とムスカリを合わせた香りに変えた。
近寄ると僅かに香る、清潔感と温かみのある、ホワイトムスクのような香り。
獣臭いマントが、洗いたての肌着のような匂いになっていた。
ストームは、水の匂いをリクエストした。ほぼ無臭。
ただの消臭だ。
オレは、近くの枝を拾ってきて、その匂いに変えてもらう。
マントから漂う、枯れ木の匂い。
落ち葉の舞う、森の中のような感覚。
豚骨ラーメンの匂いも悪くなかったが、このほうがいい。
それから、革水筒を結ぶ。
2人の腰に括り付ける。
少し歩かせ、「痛くないか?」と質問しながら、位置を調整する。
どのみち、半日も歩けば痛くなる。
慣れてもらうしかない。
水筒の中身は、未希が作った。
その名も……
「ハチミツたっぷりアップルビネガー」
酢の匂いの中に、蜂蜜の甘さとリンゴの酸味のある香り。
口に含んでみると、少しザラつくが、ドラッグストアで売られている健康飲料のソレだった。
喉を潤すような飲料では無さそうだが……
一口飲むだけで、喉が熱くなり、活力がみなぎる気がする。
非常に健康に良さそうだ。
消毒の役には、たたなそうだが、おそらく、常温でも腐りにくい。
それから木のボウルを3つ。スプーンを3本。
塩と、いくらかのハーブ。
カタセ村で買ってきた小型の鍋。
これらを、ズタ袋に入れてオレが背負う。
腰には、サンダーソニアと火打ち石。
だが、オレは火を起こせない。
火は誰かに頼む。
食糧は、乾燥させた固いパンの山と、干し肉。
それと果物。
食糧は3人で分散して持つことにした。
荷物は重いが、未希も、まゆも、楽しそうだ。
たぶん、ピクニックかなにかと勘違いしている。
これからオレ達が始めようとしているのは、中世社会の旅だ。
バスにも乗らないし、電車も走っていない。
コンビニも旅館も存在しない無い。
おそらく、地獄が待っている。
まぁいい。
前哨基地までの2日間を試そう。
ストームの希望したとおり、いい経験になるだろう。
そして、夜明けも中頃。
オレ達は、家を出て、噴水広場へと向かった。
広場へつくと、先日のウェストンという男を中心に、すでに何人か集まっていた。
リーダーであるアーネストの姿は、まだ無い。
オレ達は、すこし離れたところで待つ。
ストームが、ウェストンの所へ行き、到着を告げて戻る。
集まって来るのは、殆ど白人。
1人、アジア人のような風体の50歳近い男がいる。
インド系? だろうか。
持参している荷物の形態も多様だ。
みんな、好き勝手に談笑している。
会話を聞き流して、ヒアリングを鍛える。
英語が大半のようだが、それ以外の言葉も混じっているようだ。
それから待つこと数十分。陽は昇り、朝が終わった頃。
二十代の2人の西洋人男性が現れる。
明らかな遅刻だと思うが、やけに陽気だ。
アーネストも、いつのまにかウェストンの近くに立っていた。
総勢18名。
24名の予定だったらしいが、6名のキャンセルが出たらしい。
今から欠員を補填することはできないだろう。
アーネストとウェストン、それともう一人の姿勢のいい男性とで、3人が話し合っている。
たぶん、決行か延期かを相談しているのだろう。
そしてアーネストが振り向く。
全員の注目を集め、演説を始めた。
それを、ストームが翻訳する。
リーダーのアーネストと、その補佐2名。
戦闘員が7名、医師が3名、森や山に詳しいガイドが2名。
そしてオレ達、新人が3人。
この18名で、遠征に赴くことが決定した。
オレ達の仕事は、支援や補助。要するに雑用だ。
そして雑用チームのリーダーはストーム。
異論はない。
さっそくオレは、幾つかの重い荷物を持たされることになった。
中身は、小麦粉の袋と、何本かの酒の瓶。
かなり重い。
前哨基地への補給物資らしい。
未希やストームも、調味料や医療品の入った小袋を持たされている。
さっそく……出発前から嫌な顔をしている。
「こんな役回り聞いてない」と言いたげな顔。
個人プレイのゲームじゃないし、楽しいピクニックでもない。
命を懸けた、長旅だ。
そしておそらく、オレ達3人の命は、チームの中で最も軽い。
扱いの雑さも相応だろう。
2人にも、いい経験になる。
それにしても荷物が重い。
数分後。
ウェストンが号令をかける。
そして、歩き出した。
北東へと進路を定め、18人は出発した。
朝の出発だと聞いていたが、陽は、ほとんど正午だった。
オレ達の列は、最後尾の1つ前。
最後尾には、ウェストンが居る。
それと、男性と女性がひとりずつ。
2人ともアメリカ人だろうか。
手荷物が少ないので、戦闘要員なのかもしれない。
真面目そうな顔付きの20代後半の男。
それと、短いブロンドヘアーの女性。
2人ともがっしりとした体格をしていて、男は腰に幅広の剣を下げている。
目が合うと、ニコニコと微笑みかけてくる。
普通に、友好的に接してくれそうな2人だった。
アーネストのような、愛想の悪い連中ばかりではないようだ。
少し安心した。
だが、オレ達の前を歩く連中は、大半が、ゴロツキのような雰囲気を纏っている。
前途多難な旅になりそうだ。




