4.2.03
ストームとは、噴水広場の前で別れた。
オレは、記憶の回廊を抜けて、おやしろへ。
机の引き出しを開けて、コインを掴む。
それと、カラのズタ袋を肩に掛ける。
おやしろを出て村へ。
最初に向かうのは雑貨屋だ。
店の前に辿り着き、「革水筒を見たい」と店員に告げる。
どれもこれも手作りだ。
大きさも、重さもバラバラ。
女性でも負担が少ないように、軽くて小さめの革水筒を2つ買う。
それと、小型の鉄鍋も。
購入したものを、すべてズタ袋に放り込む。
買い物が終わってから、酒場へ寄る。
太陽の高さは、夕方になる少し前。
酒場では、パタパタと、サンダル履きのヒミコが駆け回っていた。
最初に見たときよりも、少し大人に見える。
その横で、カラのジョッキやボウルを抱えているのは、モトとヤマ。
どういうわけか、この2人。
夕方になると、この店の手伝いをしている。
詳しいことは知らないが、夕方限定のアルバイトのようなものだろうか。
モトを捕まえて、鉄コインを5枚渡し、旅用の乾燥パンを持ってくるように頼んだ。
「よう、ソウジ。買い物か?」
夕方前から、エールを呑んでいたのは、クラゲだった。
クラゲとの付き合いも、だいぶ長くなった。
オレは、現実世界の友達は少ない。というか居ない。
クラゲは、オレにとって、唯一かもしれない友達だ。
メモリア・ノードという仮想世界のNPCなんだけどな。
「コユルギはどうしてる。元気か」
「おう。ニシカタさんとこで、シチリと一緒に畑手伝ってるよ」
「そうか」
シチリとコユルギは、オレが、強引にこの村に連れて来たようなものだ。
穏やかな生活が送れているならそれで良い。
ニシカタか……
それと、2人の孫、モトとヤマ。この家族にも、なにか暗い過去がある。
まぁ、それは、シチリとコユルギも一緒か。
薬師のアロハ婆さんも、イナムラ爺さんも。
誰も彼も例外なく、人に言えない過去を持っている。
現実世界の人生と大して変わらない。
この村の住人の方が、平均して少し泥に塗れて、血生臭いだけ。
「また暫く旅に出る。みんなによろしくな」
「おぅ、なんだ……ずいぶんしんみりだな。そんなに長い旅か?」
「いや、二十日くらいだ」
「そうか……あれ、呑んでいかねぇのか?」
モトとヤマが、乾燥パンを両手に抱えて、戻ってきた。
それを受け取り、ズタ袋に放り込む。
「旅から戻ったら、また付き合うよ」
「そか、じゃぁ……またな」
クラゲが、手にしていたジョッキを掲げる。
オレは拳を握り、クラゲの方へ差し出した。
「またな」
そして、酒場を離れた。
おやしろまで戻り、工房へ入る。
そして、マントが掛かるハンガーの前へ。
新品のマントは残り2枚。
未希の父親、田心啓介が残したマント。
それを、2枚とも剥ぎ取る。
このマントは臭くない。
あの2人も、嫌がらずに羽織ってくれるだろう。
娘と、娘の友達への贈り物だ。
持って行っても、文句は無いよな? 啓介さん?
ハンガーに残るのは、白い道着と、袴だけ。
記憶の回廊で啓介が着ていたのと、同じものだ。
まぁ……オレが着ても似合いそうにない。
だから、このまま飾っておく。
そして2階へ。
オレは、この臭いマントで我慢しよう。
臭いが、ガロムから貰った大事なマントだ。
ああ、そうだ。
もしかしたら、未希が、魔法で匂いを消してくれるかもしれない。
戻ったら聞いてみる。
それと、オレの革水筒。
洗浄して乾かしてある。
エールの匂いがこびりついているが、カビ臭くはない。
持っていくものは、鉄鍋が1個と、乾燥パンの山。
2人分の革水筒とマント。
それと、オレの旅の装備。
それらを抱えて、回廊のゲートを呼び出す。
手荷物を、持ち込めることは確認済みだ。
そして、噴水広場へ。
未希たちの家へと道を辿る。
オレの家もたててくれるのかな。
いや……ばかばかしい……
なにを考えているんだ。
それより今は、明日からの旅の付添だ。
アーネストという男も気になる。
あの男には、注意しなくてはならない。
あの2人を連れて長旅か……
どうなることやら。




