4.2.02 - クリアルート
ストームの提案で、オレ達3人は、1つだけ誓いを立てた。
「わたしたちが、シェイプシフトデバイスを狙っているということは、絶対に内緒。悟られるのもダメ」
そして、ストームは、「今、すべて覚える必要は無い」と前置きしながら、クリアルートに関する説明を続けた。
クリアルートは3種類。
「全崩壊ルート」
オレ達の狙う、シェイプシフトデバイスが得られるクリア方法だ。
難易度は最難関で、達成したのは過去3回。
「エレメント勝利ルート」
最もスタンダードで、クリア回数が多いルート。
他のエレメントを殲滅し、勝利したエレメント参加者全員が、エスコートデバイスを得る。
エスコートデバイスというのは、所有しているデバイスがコピーされ、2つに増えるデバイスのこと。
次のカウントの仲間が増やせるし、単に、デバイスを市場に流すだけでも数百万円の儲けになる。
「主神ルート」
全てのエレメントから、1名、つまり4人を集めて、ルミナス・コアに集まり、コアを再生する。
再生自体は、簡単らしい。
難しいのは、敵対するエレメントプレイヤーを集めるところにある。
報酬を得られるのは、再生に関与した4人のみ。
この4人は、エスコートデバイスを2つ得ることができるらしい。
達成できれば、妻と息子を、ニフィル・ロードに招待できるな。
オレ達の目的は、全てのプレイヤーを敵に回すことになる、全崩壊ルート。シェイプシフトデバイスの入手。
よって、それが目的であることを、誰にも感づかれてはいけない。
感づかれた時点で、オレ達は、エレメント・ノードの誰かに殺される。
無理だ。
未希には可哀そうだが、達成できるとは思えない。
まぁ、しかし、せっかく楽しんでるんだ。
野暮は言いっこなしだ。
宝くじ売り場に並んでるヤツに、ヤメロと言っても無駄だ。
当たるわけないのに、その時点で何を買うか決めている。
オレは、遠征のメンバーのリーダーに会いにいくことにした。
情報が欲しい。自分で見聞きしたい。
だから、通訳兼アドバイザーのストームを伴い、噴水広場へと向かった。
未希は、留守番だ。
噴水広場にあるのは、広場の端っこに縫い付けられた、張り紙だけだった。
そこに簡単な募集要項と、地図が書かれている。
地図が示すのは、今回の遠征責任者の所在地だった。
ストームは、すでに申し込みを済ませている。
その場所まで行ったことがある。
なので、ストームに、そこまで案内してもらった。
目的の建物は、赤いレンガ造りの3階建ての家。
100年くらいタイムスリップしたかのような、レトロでオンボロのビル。
だが、この世界では、最先端の建造物だな。
その建物が、周辺の平屋に混じって、ぽつんと建っている。
正面の扉は解放されていて、オレとストームは中に入った。
中は、ちょっとしたバーのような作りだった。
奥に女性が1人。
丸テーブルに腰かけた中年の男性が2人。
テーブルには、濁った琥珀色の瓶と、2つのグラス。
オレの英会話は、まだ不十分だ。
会話は、ストームに任せる。
ストームが丸テーブルに近づき、会話を始めた。
会話の内容は、オレにはまだ、ところどころ聞き取れない。
流暢にコミュニケーションするストームが、やたら知的に見える。
最後に、ストームが、オレを紹介した。
手前の男だけ立ち上がり、握手を求めた。
オレも、それに応える。
横から、ストームが2人を紹介してくれた。
「この人が、ウェストン。座ってるのがアーネストで、アーネストが今回の隊長さん」
ウェストンは好意的だ。
作り笑いだが、悪意は感じない。
友好的に接しようとする気持ちが伝わる。
しかし、座ったままのアーネストには、その空気が微塵もない。
背筋を伸ばし紳士然としているが、表情もなく薄目でオレを値踏みしている。
それでも少し、気になったものがあるようだ。
アーネストの目が、腰に吊り下がってるオレの剣で止まる。
アーネストがペラペラとなにかを喋り、ストームがオレに翻訳した。
「剣を見せてくれって」
悪いが、お断りだ……
剣を鞘ごと、少しだけ持ち上げ、クロスガードの意匠を見せる。
それから、グリップを持ち上げ、10センチほど白刃を見せて、すぐ鞘に戻した。
アーネストは、すこし首をもたげ、うんうんと、頷いている。
それから、奥にいる女性になにか手で合図する。
しばらくすると、長身の金髪の女性がグラスを2つ持ってくる。
それを、テーブルのオレ達の近くに置いた。
アーネストが、ボトルを掴み、指1本の半分ほどの黄金色の液体をグラスに注ぐ。
最後に自分のグラスにも。
そして、グラスを左手で掴み、オレに向けた。
しかたなく、オレもグラスを手に取る。
ストームは、少し迷っている。
アーネストの方へ、1度グラスを掲げ、グラスを鼻に近づける。
木の枝が突き刺さるような刺激臭、その奥に苔を煮詰めたような匂い。
ウイスキーのようだが、暴力的な匂いだった。
グラスを傾け、数滴、舌に絡める。
焚火の炭を吸い込んだような香りが、口の中に広がった。
焦げ付き、どす黒く濁った、暴力的な木炭の香り。
もしかして、スコッチか。
喉を通ると、灼熱の鉛を流し込まれたかのように、粘膜が悲鳴をあげる。
火をそのまま呑みこんだかのような感覚。
「ッブッハ……ガッッハ…っ」
たまらずオレは咽た。
強烈なスコッチだった。
右手をストームの前に掲げ、「飲むな」と制した。
飲んだら、急性アルコール中毒で、ぶっ倒れるかもしれない。
無様なオレを見て、アーネストと、ウェストンが笑っている。
ウェストンは、にこにこと、愛嬌のある笑い顔。
アーネストは、鼻の下と唇だけ動かし、虫唾が走る薄笑いを見せた。
この男とは、上手くやれそうにない。
まぁ、アーネストは、オレとは少し違うようで。
このガキどもを、どう働かせてやろうか。
そういう目だ。
ストームは、こいつらと旅に出たいと言うのか。
まぁいい。
この男の目論見など、知ったことではない。
オレが、この男の悪意のフィルターになればいい。
そして、オレ達3人だけでも、生きて帰る。
途中でこいつをぶっ殺してでもだ。
今はこれで良い。
無様をさらけ出しておけばいい。
まだカードも配られていない。
ただ席についただけ。
ゲームはこれから。
アーネストは自分のグラスを飲み干すと、階段を上り2階に消えた。
話は、残ったウェストンから聞くことになった。
ストームの通訳を通じて、情報を得る。
食糧は、どの程度必要になるのか。
野営の準備や、役割はどうなっているのか。
旅は短くとも7日から8日。
食糧は各自で用意し、持ち込むこと。
途中に前哨基地があり、そこで一度補給する予定らしい。
前哨基地の到着予定は、3日目の昼から夕方。
そこからさらに、2日で目的地に到着の予定だそうだ。
そこで、キャンプを設営し、2~3日間の調査を行った後に帰還する。
それが今回の遠征計画だった。
つまり、最低でも3日分の食糧を最初に用意する必要がある。
野営の設営や見張りは、各自に任せるらしい。
どうしても人数が足りないようなら、他のパーティと調整しろと言われた。
聞きにきて良かった。
とくに、リーダーのアーネストという男を見ることができた。
旅も、退屈しないで済みそうだ。
帰りながら、ストームに質問した
「よく、参加を認められたな?」
「わたし達は、術師が2人いる。術師はけっこう貴重」
「なるほどな」
オレ達だけで、火を起こせるのだろうか。
魔法で起こせるのならいいが……
明日から、地獄を見なければいいが……
まぁいい。
今、気にしたところで意味はない。
どうしても無理だったら、前哨基地から引き返せばいいだけのこと。
とにかく、旅の準備を始めよう。




