表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
117/168

4.1.06 - ギルドホーム


 7月10日、土曜日、午前10時。


 アパートの部屋は、灼熱地獄だった。

 夏の暑さは、さらに激しさを増している。


 火事にならないのが不思議だ。


 それでも、これから出かけるので、窓を閉めた。


 出かけるといっても、アパートの外ではない。

 アパートの中だ。


 前日に、まゆからメッセージが届いていた。

 ログイン時間を、分単位で指定するメッセージ。


 それでも、中では1時間くらいズレる。

 1分のズレが100分のズレになるニフィル・ロード。


 オレが、未希を救出してからも、まゆはオレ達のログイン時間を細かく計測していた。


 そして今日のログインで、3人の時間を近いところに合わせるのだと言う。

 現実世界と、ニフィル・ロードでの時間を同期する。

 そして、オレ達3人だけのカレンダーを作成するのだと息巻いている。


 それが、今回のログインの目的……らしい……


 だから今日、招集された。

 あと少しで、アパートの灼熱から逃れられる。

 その時間を待っている。



 午前10時4分。


 ログインの準備をする。

 オレは、畳の上に座っている。

 左手のログインデバイスを、水平にする。

 本当は、今すぐにでも、涼しいニフィル・ロードへ行きたい。

 あと少しの我慢だ。


 『 Join Me 』


 5分になるのと同時に、オレはニフィル・ロードへログインした。




 そして、おやしろのベッドの上で目を開けた。


 ここ数日は、未希から英語を学んでいた。

 村へも、たまに顔を出している。


 なんだかんだで、あの酒場がいちばん落ち着く。

 エールはイマイチだが、食事は美味い。

 現実世界のカネは消費せず、この世界の偽造コインでメシが食える。


 だが、今日は約束がある。

 村に顔をだす時間は無い。


 メモリアでしか、役に立たないコインは置いていく。

 腰の剣、サンダーソニアだけ括り付ける。


 デバイスを叩き出して、記憶の回廊へ。

 そして、エレメント・ノードへ。


 噴水広場を出て、待ち合わせ場所へと足を向ける。

 未希の家へだ。

 

 今日も良く晴れている。

 アパートの灼熱地獄と違って、この世界は本当に快適だ。


 エレメント・ノードにも、雨は降るらしいが、まだ雨の日を過ごしたことは無い。


 未希の家までの道を辿る。

 果物屋、花屋の前を通り過ぎる。

 右側に小さな池。

 近づいてみたが、桃の匂いはしなかった。


 未希の家はこの先。


 否応無しに、目に写ったのは、大きめの新しい家。

 辺りは、草原と林で、他に家は無いはずだった。

 ところが、未希の家へ近づくと、隣りに新しい家ができていた。


 木枠と白い壁。

 造りは未希の家と似ているが、2階建ての四角い家だった。

 面積だけでも、未希の家の4倍はありそうだ。

 

 誰か引っ越してきたのだろうか。



 未希の家の扉の前へ。

 そして、鐘を鳴らす。


 しばらく待ったが、返事がない。


「おーい、未希」


 声を掛けても返事がない。


 暫く突っ立っていると、返事が返ってきたのは、隣りの家からだった。


「おにいちゃん、こっちこっち」


 隣りの家の2階の窓。

 未希は、そこから声を掛けていた。


 わけもわからず、隣の家へ。

 正面には、大きな2枚扉。

 その扉が左右に開くと、若い女性が姿を見せた。


 黒に近い紺色のローブを羽織り、フードを浅めに被っている。

 長い黒髪は三つ編みに。

 赤いリボンでそれを結わいて、お腹の辺りに垂らしている。

 フードの淵から、頭に付けた銀色の細いティアラがチラチラと見えていた。


 顔つきは、まゆだ。

 だが、言わずにはいられない。


「誰だ……」


「わたしはストーム。ここでは、まゆとは呼ばないで」


 大きな声で、はっきりと、そう言った。


 いつも、小声で、なにを言っているか分からないまゆ。

 じゃなくてストーム……?


「やっぱり誰だ……」


「いいから、中入って。総司の部屋も用意したから」


 ストームが、ローブの裾をひるがえし、扉の中へと戻っていった。


 口を開けたまま、呆然とするのは、久しぶりだ。


 中に入ると、最初の部屋は、会議室のようだった。

 長テーブルの周りに、丸椅子が並ぶ。

 左奥に階段。


 にしても、家具はそれだけで、殺風景だ。

 まだ、準備段階なのだろうか。


「総司の部屋は階段上がってすぐの正面だから」


「いや……まゆ」


「ストーム!」


「ああ……悪い……ストーム……?」

「なに?」

「……ここはおまえの家か」


「家だけど、私たちのギルドホーム。今日からは総司もここでログアウトして」


 話についていけない。

 階段から、未希が降りて来る。


「まゆさんが、突然引っ越してきて、びっくりした」

「ストームだってば! リアル名使わないで!」


「まゆも、偽名だろ」


「……それ……本名だから」


「え?」


「まゆは、わたしの本名だから! ここでは呼ばないで!」


「ああ……そうか……すまん……わかった」


 以前、偽名でいいからとリクエストした「まゆ」は……

 本名だったのか……


 にしても、別人だ……


 ネクラで、人見知りの日本代表のようだった、まゆが……

 この世界では、文字通り、水を得た魚だ。



 強そうで、頼もしい。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ