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4.1.03 ‐ シェイプシフトデバイス


 今夜の仕事は、ちゃんとした仕事だった。


 反射板の付いた交通警備の服装で、深夜の直線道路に立つ。

 黄色いヘルメットを深く被り、右手で赤く光る誘導棒を振っている。


 本当に、ただの深夜労働だ。


 オレは独りで、赤灯が回るガードフェンスの前に立ち、誘導棒を振り続ける。


 通る車は、数分に1台。

 そして、ほぼ通過。

 止める必要が無い。


 工事現場はどこにも無い。

 水道工事もやっていない。


 止めるのは、青いワゴン車だけ。

 止めたら、無線機で連絡する。


「停止させました」


 その後に、車のナンバーを告げる。


 無線機からの返事は無い。

 言葉が届いているのかすら分からない。


 連絡を終えて、10数える。

 数える間隔は、オレの気分で変わる。


 数え終わったら、ワゴン車を発進させる。

 運転手とは、目を合わせない。

 合わせたくない。


 これになんの意味があるのか。

 オレには、さっぱりわからない。


 なにも聞かされていない。

 何も知りたくもない。


 そして、それを4時間。


 何台目だかの青いワゴン車を発進させた数分後。


 スマホに作業終了のメッセージが届いた。

 時計は、夜中の2時だった。


 ガードフェンスを路肩に片づける。

 あとで、誰かが回収するらしい。


 辺りには、ファミレスもコンビニも無い。

 近くにバス停があったが、次のバスは、3時間以上先だった。


 だから、何キロか先の駅に向かって、暗い夜道を独りで歩く。


 十数分歩いたところで、空車のタクシーが走って来る。

 反射的に、スイッチを入れ、誘導棒を振り上げた。

 タクシーが止まり、交通警備のコスプレのまま、後部座席に乗り込む。


 そのままアパートへ帰って寝た。


 



 それから2日後。土曜日。


 未希から、メッセージが届く。

 話したいことがあるから、ファミレスに来てくれと。


 昼過ぎにファミレスに着くと、未希とまゆが、ランチを摂っていた。

 オレも、ハンバーグ定食を注文する。


「話ってなんだ」


「ほしいものがあるの」

 オムライスを食べている未希が、そう言った。


「ん? なんだ? いくらだ?」

 未希が、直接ねだるなんて珍しい。


「……ちがう、これ」


 まゆが、グラタンに挿し込むスプーンを止めて、タブレットの画面を見せた。

 英語だ。わからない。


「……シェイプシフトデバイス」


「なんだ? それは?」


 まゆが、画面を指でなぞる。

「……1度だけ、好きなカウントを選べるログインデバイス」


「選ぶ? 選んでどうする」


 未希が答える。

「あのね、それでカウント22に入れば……パパとママに会える……」


「過去に戻れる? ということか?」


 言いながら、解説しろと、まゆに視線を送った。


「……過去といっても、ニフィル・ロードの中だけ……なんだけど」

 

「カウント22はね。みきが生まれる直前まで、パパとママがログインしてたの」


「それで?」


「そこでパパとママに会って、死なないように伝える……」


「そんなことができるのか……?」


「できないとしても……会いたいよ……パパとママに……」


 まぁ、確かに……

 カウント22にログインして、エレメント・ノードに渡れば、会えるのかも知れない。


「で、その、なんとかデバイスはどうすれば、手に入るんだ?」


 その問いには、まゆが答えた。


「……全崩壊ルートでクリアする」


 ずいぶん暴力的なネーミングだな。


 そのまま、まゆが、ざっくり説明した。


 ニフィル・ロードには、3種類のクリア方法が存在する。

 その中の1つ、もっとも困難なクリアルート。


 それが、全崩壊ルート。


 ルミナス・ノードと呼ばれる場所に存在する、ルミナス・コアを破壊する。

 破壊すると、全てのエレメント・ノードと、ルミナス・ノードが崩壊し、メモリア以外の全てが破壊される。

 そして、報酬として、ルミナス・コアを破壊したプレイヤーにのみ、シェイプシフトデバイスが与えられる……

 ……らしい。


「で……そのシェイプシフトデバイスは、過去にいくつ存在したんだ」


「……記録によると、これまでの全カウントで3回」


「じゃあ、歴史上4回目の……その全崩壊? を、おまえ達で狙うのか」


「……そう」



 嫌な予感しかしない。



「で? オレに何をしてほしいんだ?」


「総司も、協力する」


 ああ……なぜ……


「全崩壊は……

 すべてのプレイヤーを敵に回すことになる。

 他のプレイヤーは、たぶん1万人以上。

 わたしたち2人じゃ、とてもムリ……」


「オレがいたってムリだろうそれは……だいたい、英語もわからないオレに、なにができるって言うんだ」


「おにいちゃんしか、出来ない仕事」


 そこから、押し黙っていたら、オレのハンバーグ定食が、テーブルに届いた。

 いい匂いだ。


「おにいちゃん、あれからログインした?」


「いや、してないが」


「……やっぱりね」


「どうした?」


「みきは、あれから1時間ログインして、二フィル・ロードで4日過ごしたけど、みきは、おにいちゃんに、英語を教えた」


「……は?」



 いやいや、まて……まってくれ……

 そんなの、オレの記憶には無いぞ……


「だから、おにいちゃんもまた来るよ。ニフィル・ロードに」

 

「……まずは、総司も時間を合わせたほうが良い。ややこしい」


「うん。だから、おにいちゃんは、みきのおうちに来て、英語を勉強すること。わかった?」


「わたしも……来週の土曜日までに、ニフィル・ロードの時間を合わせる」


 2人で、勝手に話が進んでいく。

 ハンバーグが冷めていく。


「まゆは大丈夫なのか。オレ達は、43時間先だぞ」


「もう、10時間進めた。エレメント・ノードにはまだ行けないけど」


 さすが、ゲームオタク……

 まぁ、まゆなら、そのくらいやるか。


「わたしは、メモリアの王国を潰してから行く。来週までに」


 なんだか分からないが……

 まゆは、自分のメモリアを思う存分、楽しんでいるようだ。


 まぁいいや。

 考えるのが面倒だ。


 とりあえず……



 ハンバーグ定食を喰おう。



用語解説#2


 『 ワールドカウント 』


 略称:カウント


 現代人的な説明をすると、ニフィル・ロードのインスタンス番号


 現実世界の25年ごとに増殖する。

 西暦2025年の総カウントは27。

 (=西暦2050年で28がリリースされログインできるようになる)

 ニフィル・ロードは、西暦1375年から存在していると推定される。


 ニフィル・ロード空間においても、カウントごとに25年の隔たりがある。

 1から順にシーケンスされており、すべて地続きの時間で接続されている。


 カウント1から、カウント27まで、650年の歴史が積み重ねられている。


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