4.1.02
15時過ぎ。
未希と、まゆが、ブースに訪れた。
2人とも、高校の制服を着ている。
学校が違うので、制服は違う。
2人が部屋に入ると、鼻を抜けるような制汗剤の匂いが、カラオケブースに満ちた。
揃ったところで、まずは、2台のログインデバイスをテーブルに並べる。
未希の父親と母親の遺品。
1台は、オレが利用中の田心啓介のデバイス。
もう1台は、エラー表示が消えた、田心詩織のデバイス。
このデバイスは、未希が所有している。
そして、新たなもう1台。
神社で掘り起こした急須。
その中に入っていた、3台目のデバイス。
それを見つけた経緯を2人に話した。
未希と、まゆのことを知っていた、外国人風の20代後半の女性。
しかし、2人とも、その女性については心当たりは無いと言った。
「これは、未希への贈り物で、まゆに渡せってよ」
「え……なにそれ? ほんとに……?」
まゆが、3台目のデバイスを手に取る。
そのまま暫く待つ。
画面が表示された。
『 World Count 24 / Waiting for Login 』
「24……2人と同じカウント」
まゆがそう呟き、未希が、まゆの後ろから画面を覗く。
「これで、まゆさんも、一緒にいけるの?」
「……ログインしてみていい?」
「いいが、気を付けろよ。おれが最初にログインしたときは、3分で殺された」
「総司のメモリアが特殊すぎるんだってば」
まゆが、靴を脱ぎ、スカートの裾も気にせず、テーブルの上に昇る。
デバイスを操作し終えると、虹の膜、コネクションゲートが出現した。
「ちょっとこわい……けど……」
オレも未希も、それを見守っている。
口を半開きにしたまゆが、スライドするゲートを見つめている。
「目を閉じろ、まゆ」
「……あ……うん」
そして、目を閉じたまゆが、膜に包まれ、消えた。
こんな感じなのか。
だれかが、ログインするところを、初めて見た。
「まゆさん、大丈夫かな……」
「あいつは、たぶん……ベテランだ。心配ないだろう」
それにしても、いったい誰だったんだ……あの女性は。
「未希、ほんとに心当たりないか? よく思い出してみてくれ」
「うーん……須藤明美さんじゃないよね?」
「違う。あの女性は、日本人では無かった」
「これから会う人とか?」
「そういえば……」
女が最後に言っていた言葉。
「いつかまた逢える……楽しみにしていろって、言ってたな」
「じゃあ、この先で逢うんだね。3人一緒に」
「3人……? いや、まて……オレはもういいだろう」
「おにいちゃんは、戦士。みきと、まゆさんは魔法使い。3人パーティーだね」
嫌だ……
それから数分。
まゆがもどった。
突如、虹の膜が現れて、スライドを始める。
人影が姿を現し、まゆの姿へと戻った。
あいかわらず、不思議な光景だ。
経過した時間は4分。
ニフィル・ロードでは、6時間以上経過したはずだ。
「まゆさん、どうだった?」
「死んだのか?」
まゆが、テーブルの上に立ったまま、呆然としていた。
そして、ゆっくりと、オレ達の方を向く。
「すごい……」
何がだ……
「これ……最高のVRゲーム……」
はぁ……
分からない……オレにはさっぱり、その気持ちが理解できない。
それから、まゆは、ログイン中の出来事をオレ達に語った。
まゆの話では、スタートは、西洋風の城の中。
煌びやかなステンドグラスに囲まれた、荘厳な広間だったらしい。
まゆが現れたことを目撃した神官たちが、その出現に歓喜し、「女神様の降臨」だと称えたらしい。
賓客として城で接待を受け、王や、その妃と謁見し、それから豪華な昼食会。
専属の従者と侍女の任命式の後、城内に広々とした個室が与えられ、ログアウトしてきたようだ。
扱いの差が、激しすぎる……
「言葉は通じたのか?」
「……うん、英語だったけど」
オレも、英語勉強しようかな……マジで……
「ねぇねぇ、まゆさん、エレメント・ノードに行けそう?」
「なんか、国の? 手続きとかあるみたいだけど……行けるとは思う」
「なんで国の許可が必要なんだよ……」
「手続きを受けないと、回廊の記憶伝承者に合わせてもらえないみたい……」
「どういうことだ」
「記憶保持者を抱え込むことで、記憶の回廊が、国に管理されている……」
「いろんなメモリアがあるんだな」
「うん……でも、そんなの、わたしの代で壊すけど……」
怒っているのか、意欲に満ちているのか、よくわからない表情だ。
「大丈夫……すぐエレメント・ノードに行く。だから少し待ってて」
「じゃあ、そしたら、3人で冒険できるね」
「うん……できる……いける……」
いや、待て。
オレを組み込まないでくれ……
「オレは、仕事があるから……暫くは2人でがんばれ……」
仕事があるのは、本当だ。
今夜は、見張りの仕事が入っている。
オレ達は、17時前に解散した。
次はまた、日曜日に会おうと約束して、ネカフェを出た。
ログインデバイスが3台になった。
用語解説#1
『 ニフィル・ロード 』
世界の名称。
専用のログイン端末を通じて、現実世界と行き来することができる
かつては、
「神話の世界」
「理想郷」
「裏側の世界」
など、色々な名称で呼ばれていた。
現代では、他に良い呼び名がないので、「仮想世界」と呼ばれている。
現代人から見れば、いわゆる、オンラインゲームサーバに近い。
ニフィル・ロードは、以下の3つ階層が存在し、連結している
メモリア・ノード / ソロプレイ環境
エレメント・ノード / PVE推奨環境(PVPも可)
ルミナス・ノード / PVP推奨環境
(各ノードの詳細は、別の機会に)
ニフィル・ロードは、以下の概念によって支配されている
概念であるため、実態は存在しない(確認されていない)
主神
ルミナス・ノードの管理者概念
守護精霊
エレメント・ノードの管理者概念




