3.9.15 - お気に入り
抜け殻の未希がソファーで眠っている。
このままでいいのかと不安だ。
だが、どうにもならないので、そのままにして未希の家を出た。
そして、扉を閉める。
もう一度、ノブに手を触れようとしたが、見えない壁に弾かれた。
この家の持ち主しか、扉に触れることができないのだろう。
窓にも近寄ってみたが、跳ね返されて触れることができない。
おやしろの見えない壁と同じだ。
未希が扉を開けないと、この家に入ることができない。
この家の中は安全だ。
だから、噴水広場に戻ることにした。
そして、デバイスを出す。
これが最後になるのだろうか。
長い旅だった。
屋台に座る噴水おじさん。
他にも数人、まばらな人影。
そういえば、さっきの女。
なんだったんだろうか。
ログアウトしたら行ってみようか。
鈴椿神社へ。
その前に、カタセ村の酒場にでも顔を出そうか……
なんて、考えたが、ヤメた。
今は戻ろう。
戻りたい。
『 ELAPSED 00:03 』
たったの3分か……
あいかわらず、妙な世界だ。
忘れることのできない3分になりそうだ。
記憶の回廊に戻り、それからおやしろへ。
ベッドに横になり、ログアウトした。
カラオケブースのテーブルの上に戻る。
部屋には、未希とまゆ。
2人でマイクを掴み、何かを唄おうとしていた。
そういや、ここはカラオケブース。
唄ってもいい場所だ。
オレも少し、唄いたい気分だ。
だが、戻ったオレを見て、2人は慌てて、曲のリクエストを取り消していた。
「……総司が……3分で帰ってきた」
「おにいちゃん、最短記録?」
悪かったな、邪魔して。
「どうした。2人の唄を聞かせてくれ」
「はずかしいからやだ! もう、おにいちゃん、お行儀悪いからテーブルから降りて!」
思わず、笑いながらテーブルから降りる。
降りながら、右手のデバイスを見る。
エラー表示だった未希のデバイス。
エラー表示は無くなっている。
2台とも、ログインリチャージ30時間の表示。
「使えるようになったみたいだ」
デバイスを未希に渡す。
それを受け取る未希の顔を見る。
「未希」
「ん?」
「いい名前だな」
「え~、やめてよ突然、なんか気持ち悪いぞ……」
「気に入ってるんだろ、自分の名前」
「うん……みきは、大好きだよ。自分の名前」
「どうしてだ?」
「え?……わかんない……どうしてだっけ?」
「……さぁな」
あとがき#10
~2章とソウジ~
実は、あの後。
少しだけ酒場に顔を出した。
ヒミコが忙しそうに歩き回っている。
クラゲは今夜は来ていない。
カネを使い果たしたのだろうか。
だから、今夜は、独りでエールを傾けている。
村人たちの会話に耳を傾け。
走り回るヒミコを見物する。
すると、見知らぬ客が妙なことを言っていた。
――ようやく……プロローグが終わった。
……は?
あれだけの仕打ちを喰らわせておいて、プロローグ?
冗談だろ?
本当は、プロローグって書きたかったらしいが、全員から反対された?
だから、「2章」になった?
何言ってんだ?
じゃあ、この物語が、本腰を入れて動き出すのは、これからってことか……?
そういや、魔法もまだ、一度も出ていないなぁ。
オレが魔法に興味ないし、使えないからな。
しかし、この世界には存在する。
それは世界への願い。要求。懇願。請願。
世界の理に干渉する力。
それがまだ……出てきていない。
まぁいい。
オレの知ったことじゃない。
知りたくもない。
オレはただ……
巻き込まれたくない。
オレの願い、懇願は、ただそれだけ。
まぁ、しかし……2章(全100話)
ここまで読んでくれて……
ありがとな。




