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3.9.13 - 噴水広場


 火曜日、16時。


 また、ネカフェのカラオケブースに集まった。


 今日のログインは、早ければ2分。

 デバイスは2台持っていく。

 左手に、Kのシールが貼り付いたデバイス。

 右手に、Sのシールが貼り付いたエラーのデバイス。


 Kは、田心啓介。Sは、田心詩織だ。

 2週間前は、なにも知らなかった。


 これは、ニフィル・ロードという世界へ渡るためのログインデバイス。

 オレのログイン時間も、43時間を超え、あと数分で未希の元へと辿り着く。


 必要な情報は、ログインする前に聞いた。


 未希の居場所までのルートは、構造物の形や色を教えてもらい、大まかなイメージを掴む。

 家の見た目は、簡単な絵を書いてもらい、頭に入れた。

 紫色の花畑に囲まれた、小ぶりの山小屋の様な家。


 エレメント・ノードから戻れるのは、噴水のある広場か自宅。

 オレは自宅が無いので、回廊に戻るには、噴水の場所まで戻る。


 ログアウトはどこでもできる。

 だが、やはり、安全なところ限定だ。

 未知のエレメント・ノードのログアウトはやめておく。

 おやしろに戻ってログアウトすればいい。


 不便そうなのは、大半のプレイヤーは外国人で、日本人は少数らしい。

 道を聞こうにも、会話ができない。


 まぁ、それは、どうにかなるだろう。


「おにいちゃん」

「なんだ?」


「もどったら、お祝いしようね」


 未希に笑い返してから、両手で、ログインデバイスを2つ。


「それじゃあ、行ってくるよ」



 そしてログインした。



 おやしろのベッドで目を開けた。


 時間は限られている。

 急ごう。


 とは言え、ここまで来て今更かもしれない。

 間に合う、間に合わないの考えは不毛かもしれない。


 それでも、オレは3時間20分以内に、未希の場所へと行かなくてはならない。

 これで間に合わなかったら、すべてが台無しだ。

 だから、すぐにデバイスを呼び出し記憶の回廊へ。


 ゲートを呼び出し、目を瞑る。



 田心啓介が消滅し、殺風景な部屋になった記憶の回廊。

 ドア1枚で延々と続く、灰色一色の何もない部屋。

 記憶の回廊は、プレイヤーの内面を表しているらしい。

 つまり、いまの構造はオレの内面?

 だとしたら、これはちょっと、ヒドすぎないか。


 先に右手を叩いて、未希のデバイスを確認する。


『 World Count 24 / ERROR / ELAPSED 43:47 』


 止まったままの経過時間。

 半透明のデバイスの裏に、Sのシールが透けている。


 行こう。


 左手のデバイスを出す。


『 Summon a gate ...

   to Wisdom Element Node. 』


 文字に触れると、虹色の膜が出現した。

 コネクションゲートと呼ばれる膜。


 オレも、何度、この膜に包まれたことか。

 最初は驚いたが、いまでは日常になってしまった。


 最初の時と同じように。

 スマホの通話に触れるのとなんら変わらない指先で、文字に触れる。


 ゲートはすぐに現れた。

 虹の幕に包まれながら、オレは目を閉じた。


 



 次に感じたのは、風と陽の光。

 チョロチョロと水の流れる音が聞こえる。


 目を開けると、噴水の前だった。


 視界に写ったのは、脚のスネほどの高さの円形の石の囲い。

 その中に水が張られ、中央には、ヒトの高さほどの石の台座。


 台座の上には、男性とも女性とも見分けがつかない石像が立っていた。

 石像は、両手を胸の前で上向きに広げ、顔は静かに空を見上げている。


 水は噴き出していない。

 石像の足元から、チョロチョロと音をたてて、水が流れ落ちていた。


 噴水の周囲には、まばらな人影。


 その服装は、多様だが、日本でいうと昭和の初期。

 世界でいうと、世界大戦が終結した少し後。

 その時代の、レトロを感じる服装の人物が多い。


 オレは中世丸出しのコーデ。

 袖なしガウンと革ズボンの格好は、やや目立つ。


 まゆの分析では、カウント24へログイン可能になったのは、1950年らしい。

 プレイヤーの7割は、その年代付近の人間で、残りの3割程度が、オレや未希のように、現代から接続しているのだと言う。


 そういうものなんだ、という程度に、頭に入れて来ている。


 見渡す限り、日本人は居ない。

 目立つのは、この噴水広場の傍らにある小さな屋台。

 そこに、白い髭を生やした老人が座っている。


 もしかすると、あれが噴水おじさんなのだろうか。


 何を並べているのか気になった。

 だから、オレは屋台に近づこうとした。


 その時。後ろから声を掛けられた。

 女性の声だ。


「総司……?」


 オレの名前。


 振り向くと20代後半の女性。

 オレと同じように、中世期の装い。


 深紅色のウェストギャザーの上に、固そうな革でできたベストを羽織っている。

 長い黒髪を垂らしているが、堀が深く、外国人だ。


 そして、美女だった。


 だが、知らない女性だ。


「やだ……もしかして……ホントに総司?」


 流暢な日本語。

 日本人には見えない、見たことのない女性。

 誰だ……?


「やだーぁ、かわいいっ……ホントに総司なの……?」


「誰だ?」


「うわっ……うん、総司だわ、間違いないわ」


 少し、腹が立ってくる。


「もうー、そんな目でみないでよ。悲しくなっちゃうわ……」


「……まず、おまえが誰で、なんの用だ?」


「はぁ……やっと逢えたわ。二十歳の大嶽総司くん……」


 女は、オレに近づき、オレの肩に手を伸ばした。

 オレは後ろに下がり、その手を払った。


「んもう……わかってたけど……冷たいわね……ずっとここで待ってたのよ?」


「……誰で……何の用だ?」


 どう見ても怪しい。

 どう考えてもおかしい。

 初めて来た場所で、しかもここは異世界で。

 にもかかわらず、オレの名前とオレの性格を理解しているらしき、知らない女。


「誰でもいいでしょ……それより、伝えたいことがあるの。だから私の話を聞いて」


「すまんが、急いでいる。あとでいいか」


「それもわかってる。知ってる。

 総司が疑り深くて、ネクラで……

 ひとりを除いて誰も信じない。

 世の中に徹底的に無関心。

 知ってる。よく知ってるわ。

 だから話は数分で終わるわ」


 なんなんだ……こいつは……

 無視して、立ち去ろうとした。


「未希ちゃんへの贈り物よ」


「…………」


「直接渡せないから、伝言を預かったのよ。とっても大切な伝言」


「教えてくれ、おまえは誰なんだ……」


「いいから聞いて。

 そして覚えて。いい?


 鈴椿神社すずつばきじんじゃの境内。西側。

 古い井戸の近くの真ん中の灯篭。

 そこから森に向かって5歩。


 覚えた?」



 実家の近くの神社の名前。

 子供の頃に何度か行った。

 蓋がされた井戸もある。

 その傍らあったのは、石造りの3基の灯篭。


「そこになにがある?」


「まゆちゃんのデバイスよ。欲しいでしょ?」


 まゆのことまで知っている……?

 どういうことだ。

 頭が追いつかない。

 処理できない。


「なぜ、おまえがそんな……」


「私だとね、時間切れなの。

 だから、総司に……

 まゆちゃんに、あげるわ。

 でもね、信じて。

 すべては総司が望む、未希ちゃんのためよ」


 ……なにも言い返せなかった。

 ……何故だ……この女は何者なんだ。


「私のことは信じなくていいから……それだけ信じて? ね?」


 女が右手を広げる。

 左手の人差し指で、手のひらを3回。


「それじゃね……

 また……いつか逢えるから。

 楽しみにしてて」


 女の寂しそうな顔。


 その影を残しながら。

 虹色に輝き、そして消えた。



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