3.9.12
目を覚ますと、おやしろ床の上。
カーテンから、うっすらと朝陽が滲んでいる。
どうなったのか。
行ってみりゃわかる。
ダメなら、また挑戦すりゃ良い。
デバイスを叩き出す。
『 Summon a Gate 』
とにかく行ってみよう。
記憶の回廊へ。
目を開けると、まるで異なる場所だった。
青白い床も、天井の闇も無い。
そこは部屋だった。
アパートの部屋の4倍ほどの部屋。
電灯も無いのに薄暗い。
そして、灰色一色。
壁も床も天井も。
灰色だった。
部屋の中には、なにも無い。
ただ、正面の壁に1枚のドアがある。
アパートの玄関ドアに、どことなく似ている。
他になにも無い。
だからそのドアを開けた。
開けるとその先も部屋。
灰色の壁で、広さもまったく同じ部屋。
そして、向かいの壁に、またドアがある。
そのドアに近づき、開けてみる。
同じだ。
なんだこの部屋は。
なんだ、この場所は?
記憶の回廊は?
啓介は、どこへ行った?
久々に、途方に暮れた。
啓介が居た記憶の回廊の姿は微塵もない。
灰色の壁の部屋にドアが1枚。
開けても開けても、同じ部屋。
どこまで開けてもダレも居ない。何もない。
他にできることは……?
左手を叩いてデバイスを呼び出す。
Choose your guardian spirit element.
Justice
Wisdom
Brave
Trust
その場にへたり込んだ。
画面に表示されているのは、エレメントの選択要求。
倒したのか……田心啓介を。
あの剣豪の願いに……応えたのか?
それならそれでいい、未希が待っている。
オレは、先へ行く。
選択するエレメント。
記憶を探る。
未希の言葉を思い出す
……エレメントはね、知恵(Wisdom)……
『 Wisdom 』 に触れた。
新たな文字。
Summon a gate ...
to Memoria Node.
to Wisdom Element Node.
メモリアへ戻るか、エレメントへ渡るか。
選べるようだ。
それと、もうひとつ、書かれている。
INSTALL - Memories into Memoria node.
これに触れるのは、やめておこう……
おそらくだが……メモリアに、村を設置したり言葉を植えつける機能ではないだろうか。
一度、戻ろう。メモリアに。
そして、現実世界に。
未希の居場所の詳しい道順も聞いておきたい。
それと、エレメント・ノードに行ったとして、戻る方法がわからなかったら、詰む。
メモリアへのゲートを選択する。
虹の膜が現れる。
おやしろの2階に戻った。
『 ELAPSED 08:11 』
未希はもう、帰ったかもな。
おやしろのベッドに横になる。
そして、ログアウトした。
カラオケブースに戻る。
ログアウトするオレを、未希とまゆが、見守っていた。
時刻は、日曜日の21時。
未希がずいぶん遅くまで、残っている。
「エレメント・ノードへ行けるようになった」
まずは、それを2人に告げた。
未希ではなく、まゆが涙を流した。
どうした……?
「すごい……あと2分……」
「なにがだ?」
「未希さんが囚われていた時間、43時間47分」
まゆが、ノートパソコンの画面を見せる。
「総司のログイン時間の合計」
43時間45分。
「あと、2分で、未希さんのところへ行ける……」
あと……2分。
つまり、ニフィル・ロードで、あと3時間20分……
「言ったら……失敗するような気がして……言えなかった……」
あのがむしゃらな日々の中で、ここまで正確に時間が定まっていた。
オレはただ、未希を助けた過去のオレに向かって、未来の道を進んでいただけだったのだろうか。
「みきさん、帰って来れるよ……2週間前の……あの時間に」




