3.9.10
6月25日、金曜日、15時。
ネカフェの前で、合流する。
ふたりとも普段着だ。
学校のテスト期間は今日で終わりらしい。
だから今日は、打ち上げだと息巻いている。
カラオケブースへ入る。
食べたいものは、好きなだけ注文しろと伝えた。
店員が、山盛りのフライドポテトと、チキンナゲットを運んできた。
サイフを広げると、千円札が1枚、五千円札は入っていない。
何時に戻るかわからない。
ツリをくれとも言えないので、しかたなく未希に1万円札を渡した。
オレは、啓介をぶっ倒す。
「じゃあ、行ってくる」
ログインした。
やることは同じだ。
まず、突きを躱す。
その先は、躱してから考えよう。
剣で迎え打っても間に合わない。
だったら斬り込む。
啓介の横薙ぎよりも速く。
それしかない。
10日目くらいで、アルクが王都へ戻った。
定時報告の為だと言っていた。
さすがに、付き合いきれなかったのだろうか。
それからオレは、イメージトレーニングの時間を増やした。
イメージトレーニングと言っても、カラダは動かす。
要はシャドートレーニングだ。
記憶の中の啓介の突き。
それをイメージして、カラダを動かす。
そして、その次の踏み込みのタイミングを鍛える。
あとは、実戦稽古。
稽古と言っても、真剣でマジで殺される。
そして、恐ろしく痛い。
だから、7日に1回くらいにした。
痛すぎて、やってられない。
稽古というより、7日に1回のただの罰ゲームだ。
それが何十日も過ぎて、やっと躱すタイミングを掴んだ。
3度連続で、突きを躱したとき。
デバイスの時間は、14時間を超えていた。
血しぶきが啓介の目に迫ると、同じようにぎょっとした。
間違いない。
眼の前で、何かが起きた瞬間だ
弱点と言えない弱点。
優れた動体視力が捉える、想定外の飛翔物。
それを認識しようとする瞬間、啓介の動きが止まる。
あとは、その刹那をどう活かすのか。
しかし、もうタイムアップだ。
まゆに、外泊させてしまった。
オレは、ログアウトした。
カラオケブースに戻る。
時刻は、土曜の朝5時。
まゆは、静まり返った個室で、ログアウトするオレを眺めていた。
「すまん……遅くなった……」
俺みたいな男と、外泊しているわけだが。
こいつや、こいつの親はなんとも思わないのか……
「……想定内。今日は、家に親いないから」
「ありがとうな。オレも未希も、おまえに助けられている」
「大丈夫。
心配だから……
気絶するかもしれないし。
総司が死んで帰ってくるかもだし。
わたしができるのは、ここで待つだけ。
だから待ってた……でも、ねむい……」
昨日の昼から着ているパーカーの袖で、ごしごしと目を擦りながらそう言った。
「ありがとな」
朝帰りの、まゆをタクシーで送る。
梅雨はすっかり明けたようで、気持ちよく晴れた朝だった。
そして、日曜日。昼を過ぎた13時。
「今日こそ倒す」
2人にそう告げる。
現実時間では、「今日」だが……
ニフィル・ロードでは、今月中だ。
ログインしてから、まずはすぐに啓介の元へ。
突きは躱せなかった。
スピード不足だ。
まずは、この世界での足腰を作る。
どうやら、ログアウトするたびに、ここで鍛えた足腰が、現実世界の性能に戻っている……
そしてニフィル・ロードで、1ヶ月。
何時間か木刀を振り込む。
その後は、ひたすらに突きを躱すシャドートレーニング。
そして、週1の実戦稽古。
ログイン時間が、8時間を少し超えた頃。
啓介の突きを、完璧に躱した。
そして、鎖骨をぶった斬られた。
あとは次の一手だ。
ただ黙って、ぶった斬られているわけじゃない。
次の一手を探す。
それしかないという一手を。
鎖骨に剣先が届く瞬間。
オレの剣先から最も近い啓介の部位。
次で、行ける。
かも知れない。




