3.9.09
目覚めたオレは飛び起きた。
いま得た感覚が鮮明なうちに、おやしろの外へでた。
真っ暗で、風も無く、静かな夜だった。
それでいい。
サンダーソニアを抜いて構える。
そして目を閉じる。
浮かび上がる啓介の姿。
放たれる剣先。
腰を捻って、突きを躱す。
啓介は、刃を水平にして、横に薙いでオレの胸を切り裂いた。
次はあの横薙ぎをどうにかする。
あらかじめ、あの軌道に、剣を振るうか。
イメージの中で、オレは剣を左に振る。
間に合わない……
啓介の切っ先から、オレの鎖骨までほんの数センチ。
対して、オレの剣先は、はるか遠くだ。
そしてオレは切り裂かれ、オレのカラダからペンキが吹き飛び……
……
イメージの中で、オレはまた殺された。
いやまて……
この違和感はなんだ。
あの時の啓介に訪れた、一瞬の間。
怯んだのか?
顔に血が掛かるのが嫌だった?
道着が汚れるのが嫌だった……?
いや、違う。
この違和感は、そういう類じゃない。
あの時の啓介の反応は……
恐怖……違う……
防御反応……それも違う。
あれは……想定外に見舞われたときの挙動。
頭の処理が追い付かなかったときの反応……
階段を踏み外した瞬間、脚が宙を彷徨うようなあの一拍。
理由はわからないが、顔。おそらく眼だ。
付け入る隙になりえる瞬間……
オレはデバイスを叩き出した。
そして、ついさっき、死に戻りさせられたばかりの、記憶の回廊を開いた。
青白い床の上を走る。
そして啓介の前へ……
もう一度見せてくれ。
おまえに付け入る隙を……
気が付くと朝だった。
ポーチの向こうで、アルクがオレを呼んでいる。
ポーチから先は、ログインデバイスを持つ者しか入れない。
ダメだった。
まず、突きを躱すこと。
その時点で、まぐれだった。
腰を捻るタイミングがズレた。
横薙ぎにされる前に、突きで斜めに抉られ、激痛にのたうち回って戻された。
修行再開……だ……
それからまた、何日か過ぎた。
あいかわらず、突きを躱すことができない。
あれはまぐれだった。
躱したところで、あの横薙ぎはどうするつもりだ。
今夜も、啓介の所へ行こうと、デバイスを取り出す。
『 ELAPSED 07:42 』
しまった……約束の6時間を過ぎていた。
オレは啓介の所へは行かずに、ログアウトした。
ネカフェのカラオケブースに戻る。
見ると、まゆが、カラになったグラスの横に突っ伏して、小さな寝息を立てている。
未希は、何時間も前に帰ったのだろう。
スマホを出して時計を見る。
6月24日、木曜日、0時38分。
疲れた。
ブースを出て、ドリンクカウンターへ。
ホットコーヒーを注いで、ブースに戻る。
まゆは、まだ寝ている。
口元にカップを運ぶ。
久しぶりのコーヒーの匂い。
熱い。
熱くて、舌が麻痺した。
……疲れた。
しばらくは、なにも考えたくない。
そのあと、まゆを起こし、タクシーを捕まえて家の前まで送った。
家を見られたくないと言うので、その近所まで。
次の予定を、金曜日の15時に決めて、まゆと別れた。
オレはそのまま、タクシーでアパートへ。
布団に転がり込んで寝る。
オレは無力だ。
今は、なにも考えたくない……




