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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
ワールドカウント24
100/559

3.9.04


 翌朝。



 ベッドから出て、工房に降りる。

 向かったのは、竹刀が並んでいる壁。


 その壁を流し見る。


 竹刀は、紐がほつれている物が多い。

 強く振れば分解してしまいそうだ。


 端の方に数本だけ、木を削りだして作ったような木刀がある。


 オレはその木刀を掴んだ。



 それを持って外へ出る。


 そして、構える。

 昨日と同じように、右脚を少し前へ出す。

 木刀を正眼に向ける。


 そして、眼を閉じる。


 昨日のあの瞬間を思い浮かべる。


 まるで見えなかった啓介の突き。

 右から小手のフェイクを打ち込み、啓介の払いを弾き飛ばそうとした。


 だが、啓介は、その小手すら無視して、オレの左胸に突きを放った。



 眼を開ける。


 なにがダメだった。

 なにを直せばいいんだ。


 別の切り口を探るか。


 また死んでか?



 悩んでいたら声がした。


「ソウジさん? おはようございます」


 アルクだった。


「片刃の木剣ですか。鍛錬の時間ですか?」


 そういえば、この男の剣技はどうなんだ。

 まだ、アルクが剣を抜いて戦うところを見たことがない。


「剣術は得意か? アルク?」

「まぁ……私も国に仕える身です。幼い頃からそれなりの教義は受けていますが」


「少し、オレに教えてくれないか」

「はて……ソウジさんには、もっと別の戦術があるかと思いますが……」


「オレは弱いよ。なにもできない。だから、基本だけでも理解して、ヒントを得たい」


「それほどの相手ですか……まぁ、私でお役に立てるのかわかりませんが……」



 工房からもう1本の木刀を持ち出し、アルクに渡す。


 まずは、説明をした。

 昨日の啓介との立ち合いのこと。


「なるほど……」


 アルクが何か気づいたのだろうか。


「私には、剣道とやらの理解はありませんが、ソウジさんの初手には、1つ、明確な欠点がありますね。試しにやってみましょうか」


 それから、アルクと木刀を交えて、何度か打ち合った。

 説明を受けながら、どうやら、オレも理解できた。

 初手の明確な欠点。


 初手で繰り出した、小手へのフェイク。

 それを、右から出した。

 オレはその時点で、終わっていたのだ。


 最初の一手で詰んでいた。


 それは、正中のズレ。

 微動だにしない啓介に対し、オレは自分から無防備をさらけ出した。

 そして啓介に飛び込んだ。


 右からの小手という愚挙によって、オレの左半身は、どこでも斬られる状態だったのだ。


 啓介は、ただ、そのどこでも斬れる左半身に、最も早く確実な打ち込みをしただけ。


 つまり、オレにとってのあの勝負は、啓介から見たら、勝負にすらなっていなかった。

 ただの自殺行為。オレは自分から殺されに行っただけだった。



 そのまま、アルクには夕方まで、付き合ってもらった。

 しかし、糸口になるようなものは、なにも見つからなかった。


 それ以上に分かったこともある。


 アルクも強かった。そしてオレがあまりにも下手だった。

 オレはアルクにすら、まるで歯が立たなかった。


 木刀を打ち合わせることすらマレだ。

 ほとんどが最初の打ち込み。

 アルクは最初の一振りだけで、オレに致命打となる打ち込みを入れていた。


 見えたことは1つだけ。

 啓介に勝つために、途方もない時間が必要だということ。



「また明日も、稽古に付き合いますよ」

 暗くなる前に、アルクは、酒場の方へと去った。 


 オレは、おやしろに戻る。

 アルクに木刀で打ちのめされて、カラダのあちこちに、青あざができていた。

 工房に木刀を戻してから、梯子を上り、2階のベッドに寝ころぶ。

 アルクに打ち込まれた箇所が、ズキズキと痛む。



 1つ、腑に落ちないことがある。


 未希は、エレメント・ノードに渡っている。

 母親の後を追って、記憶の回廊を抜けた。


 それはつまり、母親である詩織を倒したということだ。


 未希は、どうやって、乗り越えたんだ?



 デバイスを叩き出す。


 『 ELAPSED 03:58 』

 ほぼ4時間。


 戻ろう。

 情報も欲しい。


 ニフィル・ロードで過ごしたのは、16日と少し。


 ずいぶん長い時間を過ごした。


 今はもう、休みたい。

 ついでに青あざも、治そう。


 久しぶりの現実世界へ。



 オレは、ログアウトした。




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