3.9.04
翌朝。
ベッドから出て、工房に降りる。
向かったのは、竹刀が並んでいる壁。
その壁を流し見る。
竹刀は、紐がほつれている物が多い。
強く振れば分解してしまいそうだ。
端の方に数本だけ、木を削りだして作ったような木刀がある。
オレはその木刀を掴んだ。
それを持って外へ出る。
そして、構える。
昨日と同じように、右脚を少し前へ出す。
木刀を正眼に向ける。
そして、目を閉じる。
昨日のあの瞬間を思い浮かべる。
まるで見えなかった啓介の突き。
右から小手のフェイクを打ち込み、啓介の払いを弾き飛ばそうとした。
だが、啓介は、その小手すら無視して、オレの左胸に突きを放った。
目を開ける。
なにがダメだった。
なにを直せばいいんだ。
別の切り口を探るか。
また死んでか?
悩んでいたら声が掛かる。
「ソウジさん? おはようございます」
アルクだった。
ポーチを出て、アルクの元へ。
「片刃の木剣ですか。鍛錬の時間ですか?」
そういえば、この男の剣技はどうなんだ。
まだ、アルクが剣を抜いて戦うところを見たことがない。
「剣術は得意か? アルク?」
「まぁ……私も国に仕える身です。幼い頃からそれなりの教義は受けていますが」
「少し、オレに教えてくれないか」
「はて……ソウジさんには、もっと別の戦術があるかと思いますが……」
「相手が強すぎて、突破口が無い。基本だけでも理解して、ヒントを得たい」
「それほどの相手ですか……まぁ、私でお役にたてるかわかりませんが……」
工房からもう1本の木刀を持ち出し、アルクに渡す。
互いに正眼に構え、昨日の立ち合いについて、アルクに説明した。
「なるほど……」
アルクが何か気付いたのだろうか。
「私には、剣道とやらの理解はありませんが、
ソウジさんの初手には、
1つ、明確な欠点がありますね」
アルクと木刀を交えて、何度か打ち合う。
説明を受けながら、どうやら、オレも理解できた。
初手の明確な欠点。
初手で繰り出した、小手へのフェイク。
それを、右から出した。
オレはその時点で、終わっていたのだ。
最初の一手で詰んでいた。
それは、正中のズレ。
微動だにしない啓介に対し、オレは自分から無防備をさらけ出した。
そして啓介に飛び込んだ。
右からの小手という愚挙によって、オレの左半身は、どこでも斬られる状態だったのだ。
啓介は、ただ、そのどこでも斬れる左半身に、最も早く確実な打ち込みをしただけ。
つまり、オレにとってのあの勝負は……
啓介から見たら、勝負にすらなっていなかった。
ただの自殺行為。自分から殺されに行ったようなものだったと言うことだ。
そのまま、アルクには夕方まで、付き合ってもらった。
正解は見えなかった。
それ以上に、もうひとつ分かったことがある。
アルクも強かった。そしてオレがあまりにも下手だった。
オレはアルクにすら、まるで歯が立たなかった。
木刀を打ち合わせることすらマレだ。
ほとんどが最初の打ち込み。
アルクは最初の一振りだけで、オレに致命打となる打ち込みを入れていた。
見えたことは1つだけ。
啓介に勝つために、途方もない時間が必要だということ。
「また明日も、稽古に付き合いますよ」
暗くなる前に、アルクは、酒場の方へと去った。
オレは、おやしろに戻る。
アルクに木刀で打ちのめされて、カラダのあちこちが、青あざだらけになっていた。
工房に木刀を戻してから、梯子を上り、2階のベッドに寝ころぶ。
アルクに打ち込まれた箇所が、ズキズキと痛む。
1つ、腑に落ちないことがある。
未希は、エレメント・ノードに渡っている。
母親の後を追って、記憶の回廊を抜けた。
それはつまり、母親である詩織を倒したということだ。
未希は、どうやって、乗り越えたんだ?
デバイスを叩き出す。
『 ELAPSED 03:58 』
ほぼ4時間。
戻ろう。
情報も欲しい。
ニフィル・ロードで過ごしたのは、16日と少し。
ずいぶん長い時間を過ごした。
今はもう、休みたい……
ついでに、青あざも、治そう。
久しぶりの現実世界へ。
オレは、ログアウトに触れた。




