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1.1 - プロローグ


 ……おにいちゃんは……私より長生きしてくれる?


 雨雲から降ってきたのは、幻聴だった。

 血のつながらない妹の声だ。


 梅雨に入ったばかりの金曜日。


 オレは街の外れに佇む、灯りの消えたスナックの出入りを監視している。


 あの店に誰かが来たら、連絡を入れる。

 来なければ、朝の四時で終わり。


 詳しいことは何も知らない。

 ただ、ここに突っ立って見張るだけ。

 もうかれこれ3時間くらい立っている。


 暇がすぎて、スナックの看板が歪んで見える。


 オレは眠くならないように、通行人を数え始めた。

 30人まで数えたところで、ポケットのスマホが震えた。


 画面の文字は「母」


 少し前から、頻繁に掛かって来る。

 母親とはしばらく顔を合わせていない。

 時計を見ると23時。

 まだまだ、仕事は終わらない。


 通話を押す。


「……なに」

「総司? 未希ちゃんから連絡ない?」


「無いよ」

「そう……どこいっちゃったのかしら」


「いま仕事中だから」


 ……


 通話を切った。


 母親の声は今の暇つぶしにはならない。


 今年、高校に入ったばかりの妹が、家に帰ってこないらしい。

 妹の未希も2年、顔を合わせていない。

 こんな仕事をしていると、ロクでもない結末ばかり浮かんでくる。


 それより、居眠りをして見逃したら、怒られるだけじゃすまされない。

 だから、今度は、電線が風で揺れる回数を数え始めた。


 スナックを眺めながら無心で数える。

 またスマホが震えた。

 SNSではなく、足が付きにくいメッセージアプリの通知。


『おつかれさん、今夜はもうあがってくれ』


 ああ……

 終わった。今夜の仕事が。


 時計は、0時を回る少し前だった。


 スナックの関係者がどうなったのかは知らない。

 知ったことではない。

 立ちっぱなしの夜が終わった。それだけで十分だ。


 雇用主の顔は知らない。声を聞いたこともない。

 それでも、カネだけはキッチリと現金で払ってくれる。


 歩き出すと、頬に雫。

 降り始めたようだ。

 本当にいいタイミングで、終わってくれた。


 タクシーを探すが、空車の札が見当たらなかった。


 コンビニに入って、メロンパンとコーヒー牛乳。それとタバコを買う。

 店を出ると、すぐ近くの交差点で、空車のタクシーが信号待ちをしていた。

 運転手に合図し、コンビニ袋片手に、後部座席に滑り込む。


 時間を見ようと、スマホを出すと、母親からメッセージが来ていた。

『0時を過ぎても戻ってきません

 なにか分かったら知らせてください』


 タクシーが走り出す。


 スマホをポケットに戻し、眼を閉じた。

 眠らないように目蓋を休める。


 未希の顔が闇に浮かぶ。

 ただの無断外泊ならまだいい。


 ……おにいちゃんは……私より……


 あの幻聴は、蓋をしていた未希の言葉だ。

 いつの言葉だったか、あまり良く覚えていない。

 浮かび上がろうとするが、霧散してしまう。


 考えていた途中で、運転手が到着を告げた。



 窓の外に、アパート近くの公園が見える。


 タクシーを降りて、カンカンと錆びた鉄階段を昇り部屋のカギを回す。

 部屋に入ると、電気も付けず、敷きっぱなしの布団に寝ころんだ。


 天井に未希の顔が浮かんだが、振り払って眼を閉じる。

 夢見が悪くなるに決まってる。


 そのまま、疲れている自覚も無く、浅い眠りに落ちていった。


長い旅路の始まりです。

予定している文字数は、70万~80万文字です。

お星さま、1個でも2個でも、ポチッと頂けると、作者は泣いて喜びます。

どうぞ、よろしくお願いいたします。

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