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飲み会のキャンセル料10万円を「お前が払え」と押し付けられ、居酒屋に置き去りにされた私。助けてくれたのは強面の店長でした。  作者: 品川太朗


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第5話「乗り込み」

集団での口裏合わせ、捏造された目撃証言。

逃げ場のない状況に見えますが、彼らは致命的なミスを犯しています。


沈黙を守っていた店長が、静かに牙を剥く瞬間です。

 その瞬間、店の空気が凍りついたようだった。


『バンッ!』


 入り口のドアが乱暴に開け放たれ、夜の冷たい風と共に、騒がしい集団が雪崩れ込んでくる。


 アルコールの匂い。安っぽい香水の香り。そして、こちらを敵視する棘のある視線。


「おい宮坂! てめぇ、どこにいやがる!」


 先頭に立っていたのは、顔を赤くした黒川先輩だった。


 その後ろには、いつもつるんでいる男子学生が三人、そして派手なメイクの女子学生が数名。総勢八名ほどの集団が、ズカズカと店内に入ってくる。


 静かに食事を楽しんでいた他のお客さんたちが、何事かと眉をひそめるが、彼らは気にする様子もない。


「……ッ」


 私は反射的に身をすくめ、篠原店長の背中に隠れるように後ずさった。


 怖い。


 電話越しの声だけでも恐ろしかったのに、こうして集団で目の前に現れると、暴力的な威圧感に押しつぶされそうになる。


「あ、いたいた。おい宮坂! お前、店長にあることないこと吹き込んだらしいな!」


 黒川先輩は私を見つけるなり、大股で近づいてきた。


「お客様」


 店長がスッと私の前に立ち塞がった。


「他のお客様のご迷惑になります。声のトーンを落としてください」


「あぁ? うるせえよ。俺らは客だぞ?」


「契約を履行していない以上、お客様ではありません。ただの業務妨害です」


 店長は一歩も引かず、黒川先輩を見下ろした。


 身長差と、何より店長が纏う「本気の怒り」に気圧されたのか、黒川先輩は一瞬たじろぎ、舌打ちをした。


「チッ……めんどくせぇ店長だな」


 黒川先輩は睨みつけるような視線を店長から私へと移し、ニタリと口の端を歪めた。

 その表情に、嫌な予感が走る。


「つーかさ、店長さん。騙されてんのはそっちなんじゃないの?」


「……どういう意味ですか」


「だってこいつ、金持ってんじゃん」


 黒川先輩は、信じられないことを口にした。


「俺、今日の昼休みに大学でこいつに封筒渡したよな? 『飲み会代、とりあえず十万預けとくから払っといて』って」


「え……?」


 私は耳を疑った。

 何を言っているの? そんな事実、どこにもない。


「な、何言ってるんですか……!? 私、そんなの受け取ってません!」


「はあ? しらばっくれんなよ! みんな見てたよな!?」


 黒川先輩が振り返り、後ろの取り巻きたちに同意を求める。

 すると、彼らはニヤニヤしながら口を開いた。


「あー、見た見た。食堂で渡してたっしょ?」


「そうそう。宮坂、その場ですぐカバンにしまってたじゃん」


「えー、ひよりちゃん最低。そのお金ネコババして、私たちに請求くるとかどういう神経してんの?」


「泥棒じゃん、怖ーい」


 嘘だ。全部嘘だ。


 食堂? 昼休み?

 私は今日、昼休みは図書館にいた。誰とも会っていない。


 それなのに、彼らはまるで本当に見たかのように、スラスラと嘘を重ねていく。


「ち、違います! 私、昼休みは図書館にいて……!」


「嘘つくなよ! 俺ら全員が見てたっつってんだよ!」


「そうだよ、往生際悪いよ宮坂」


 男子学生の一人が声を荒らげ、女子学生たちがクスクスと笑う。

 

 ――これが、集団の暴力。


 七対一。

 圧倒的な数の差が、嘘を「事実」に塗り替えていく。

 

 周囲の客席からも、ひそひそと声が聞こえ始めた。


「え、あの子がお金盗んだの?」

「痴話喧嘩かと思ったけど、横領なら警察じゃない?」

「見た目大人しそうなのにね……」


 疑いの視線が、私に突き刺さる。


 違う。やってない。信じて。

 けれど、言葉が出てこない。喉が張り付いたように動かない。


「ほら見ろ、みんな見てんだよ」


 黒川先輩は勝ち誇った顔で、店長に向き直った。


「店長さん、騙されないでくださいよ。こいつ、見た目は大人しそうですけど、昔から手癖悪いんスよ。俺の十万、どっかに隠してるはずだからボディチェックでもしたらどうっスか?」


 下卑た笑い声が上がる。


 私は悔しさと絶望で、唇を噛み締めることしかできない。

 泣きたい。叫びたい。でも、何を言っても「嘘つき」扱いされる未来しか見えない。


 ふと、集団の後ろにいる一人の女性と目が合った。


 四年生の佐倉さくら美波みなみ先輩だ。

 いつも冷静な彼女なら、分かってくれるかもしれない。


「佐倉先輩……!」


 私は縋るような視線を送った。

 けれど、佐倉先輩は何も言わなかった。

 ただ、黒川先輩たちの背中と、震える私を、無表情な瞳でじっと見つめているだけだった。


 ああ、誰も味方はいないんだ。

 視界が涙で滲む。


 その時だった。


「――話し合いは、終わりましたか?」


 ずっと沈黙を守っていた篠原店長が、低く、重い声で口を開いた。

 その瞳は、黒川先輩たちの薄ら笑いを凍りつかせるほど、鋭く研ぎ澄まされていた。

言いたい放題の先輩たちですが、店長は全て冷静に聞いていました。

次回、彼らがついた嘘が、そのまま自分たちを追い詰める凶器に変わります。


「昼休みに食堂で金を渡した」

その証言が、どう論破されるのか。


第6話「沈黙と疑念」、痛快なカウンターをご覧ください。

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