表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
飲み会のキャンセル料10万円を「お前が払え」と押し付けられ、居酒屋に置き去りにされた私。助けてくれたのは強面の店長でした。  作者: 品川太朗


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/10

第2話「仕組まれた罠」

絶望するひよりの前に現れたのは、一人の「大人」でした。

ここから、店長による容赦ない反撃準備が始まります。


理不尽な罠に対する、正当な「落とし前」の時間です。


「お客様、失礼いたします」


 声をかけてきたのは、白髪交じりの髪をオールバックに撫でつけた、理知的な雰囲気の男性だった。


 黒いベストに身を包み、胸元には『店長:篠原しのはら』というネームプレートが光っている。


 店長。

 その肩書きを見た瞬間、私の全身から血の気が引いた。


「あ……あの、すみません、私……」


 言葉がうまく出てこない。


 怒られる。警察を呼ばれる。十万円を払えと詰め寄られる。


 恐怖で視界が歪む。私は震える手でスマホを隠すように握りしめ、ただ頭を下げることしかできなかった。


「すみません、本当にすみません……! みんなどうしても来られないって……私が、私が払わないといけないんですよね……?」


 涙声で訴える私を、篠原店長は無言で見下ろしていた。

 その視線は冷ややかにも見え、私はさらに縮こまる。


 周囲の客席からの視線が針のように刺さる。公開処刑されている気分だった。


「――少し、落ち着いてください」


 頭上から降ってきたのは、予想に反して、低く落ち着いた声だった。

 怒鳴り声でも、威圧的な命令でもない。水を打ったように静かなトーン。


「え……?」


「詳しく事情をお聞かせ願えますか。……お連れ様は、なんと?」


 篠原店長は膝を折り、椅子に座る私と目線の高さを合わせてくれた。その瞳は鋭いが、決して暴力的ではない理性が宿っている。


 私はポツリポツリと、先ほどの電話の内容を話した。


 黒川先輩たちが別の店に行っていること。

 もう戻ってこないこと。

 そして、私がキャンセル料十万円を払うように言われたこと。


 話し終える頃には、情けなさと悔しさで涙がこぼれていた。


「そうですか」


 すべてを聞き終えた篠原店長は、持っていたバインダーを開いた。


「本日のご予約、十九時から二十名様。『K大学サークルK』代表、黒川恒一様。……間違いありませんね?」


「は、はい」


「では、結論を申し上げます」


 篠原店長はバインダーを閉じ、パタン、と小気味よい音を立てた。

 そして、真っ直ぐに私の目を見て言い放った。


「宮坂様。あなたが代金を支払う必要は、一切ございません」


「……えっ?」


 予想外の言葉に、私は涙を止めてきょとんとする。


「で、でも、私が責任を取れって言われて……私もサークルのメンバーで……」


「いいえ。これは契約の問題です」


 篠原店長は淡々と続けた。


「当店の予約契約を結んだのは、代表者である黒川氏です。無断キャンセルおよび営業妨害に対する損害賠償請求は、契約者本人に対して行います」


 店長はそこで言葉を区切り、私に優しく告げた。


「たまたま『最初の一人』として店に来ていただけのあなたが、連帯保証人のように債務を負う義務はありません」


 法律や規約のことはよく分からない。

 けれど、店長の言葉には、有無を言わせない説得力があった。


「それに……」


 店長はわずかに目を細め、店内を見渡した。用意された二十人分の料理。空席のまま冷めていく鍋。


「これは単なる連絡ミスや、若気の至りによるドタキャンではありませんね」


「どういう、ことですか?」


「あなた一人をここに寄越し、自分たちは別の場所で飲みながら、あなたに高額な支払いを押し付ける。……これは明らかに、あなた個人を標的にした『悪意ある罠』です」


 罠。

 その言葉が、胸に突き刺さる。


 薄々は気づいていた。黒川先輩が私を見る時の、あざけるような目つき。面倒な雑用ばかり押し付けてくる態度。

 あれは指導ではなく、ただのいじめだったのだと、第三者に言われて初めて自覚した。


「ですが、相手は先輩で……もし私が払わないと、あとで何をされるか……」


 恐怖が再燃する。大学での居場所がなくなるかもしれない。LINEで何を拡散されるか分からない。


「ご安心ください」


 篠原店長が立ち上がった。

 その背中が、ひどく大きく見えた。


「当店としても、このような悪質な行為を看過するわけにはいきません。これより、店として正式に黒川氏へ連絡を入れます」


「れ、連絡って……電話ですか?」


「ええ。宮坂さん、あなたはそこに座っていてください。……大人がどう落とし前をつけるか、見ていていただければ結構です」


 店長はインカムに手を添え、他のスタッフに短く指示を出した。

 そして、店の奥にある電話機へと向かう。


 その横顔は、先ほどまでの穏やかな接客用のものではなく、戦場に向かう指揮官のような冷徹さを帯びていた。


 私は震える手でお冷を一口飲んだ。


 助かるのかもしれない。

 でも、黒川先輩がこのまま黙っているはずがない。

 

 嵐の前の静けさの中で、店長が受話器を上げる音が聞こえた気がした。

「払わなくていい」と言い切る店長、頼もしいですね。

さて、ここから逃げた黒川先輩へ、店長からの電話連絡が入ります。


逃げ得は許しません。

次は電話越しの直接対決、第3話「守る大人」です。


※全話公開済みです! 続きを待たずに一気にお読みいただけます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ