第7話 当主様の頼みを断ったのである
コロンコロンと転がされ、くやしがる。
「もっと速く動かなければならないのか!?」
「あと、フェイントとか、いろいろ問題点があるぞ」
「くやしいー!」
それから一時間ほど挑んだが、転がされただけだった……。
「ホラ、休憩だ。冷静にならねーと、永遠に転がされっ放しだぞ」
そう言われたので、しぶしぶ座る。
そしたら当主様が私の横に座った。
「……あー……。ちょっと聞きたいが、いいか?」
「何をです?」
当主様は言いにくそうに聞いてきた。
「……ケイラのこと、どう思ってる?」
めっちゃ言いづらいことを聞いてきたな。
でも私は正面切って尋ねられたら正面切って言うタイプ。
「被害妄想の激しいお嬢様」
「……だよなぁ」
当主様は、自分の髪をかきむしった。
「俺が悪い。当時……まぁ昔からだけど、俺ってモテたし、女の子が好きなんだよ」
「サイテー」
「うん、父さんは、娘からそういう目でそういうことを言われるとそうとう堪えるんだ、手加減してくれ」
思いっきりゴミを見る目つきで見てしまった。
「……でも、お前の母さんには、本気になった。結婚してなけりゃ、爵位を放り出して結婚したよ」
いやそんなことを言われても。
「結婚しているんだから、そこは諦めましょうよ」
正論で諭した。
「無理。とはいえ、離婚も出来ない。俺は功績を挙げて男爵に叙爵されたんだが、領地経営の出来る貴族令嬢との婚姻が必須だったんだよ。コンスタンスは幼なじみで俺の性分をわかってくれていたし、出戻りで夫人教育もバッチリだった。ふがいなくてだらしのない男爵家当主を支える妻として一番適しているんだ。正直、お前の母さんには貴族の正妻は無理だからな」
当主様が、キッパリと情けない発言をしていますね。
軽蔑のまなざしで見ながら言った。
「サイテー。確かにママンに貴族の正妻は無理だけど、当主様も当主としてダメダメじゃん。しかも、それが分かっててママンに手を出すなんて」
「ごめんなさい。でも、お前の母さんのこと、好きなんだよ」
ハァ、と私はため息をついた。
当主様もため息をつく。
「……ケイラは……気難しい子で、しかも貴族の令嬢として育っているから、荒くれ冒険者だった俺はどう扱っていいかわからねぇ。お前みたいに気楽な性格をしてればなぁ……」
つまり、私のことは雑に扱っても大丈夫ってことですねわかりました。
……話の糸口が見えず、単に愚痴に付き合わされているのかな? とちょっと思ってきた。
「で、聞きたいことって、ケイラお嬢様をどう思っているかってことだけですか?」
「うん。ま、そうだけど……嫌わないでやってほしい……って言いたかった。俺が悪いんだが、あの子はまだ小さいからそれがわからない。娘は自分一人のはずなのに、急に妹が出来たとか言われて、混乱してるんだと思う。それを理解してやってくれって言いたかったんだ」
そう言われても……。
「解っているからこそ、出ていこうとしてるんですってば。私がいなくなれば万事解決、元どおりですよ」
「それは無理だ。聖属性は貴重な属性だ。わりに、この国にはいない。お前の魔法がどんなふうにどこまで伸びるかしだいではあるが、下手をすると王家も手を出す」
「げ」
思わず変な声が出た。
「『俺の娘』って周知してりゃ、そうそう手を出さないハズだ。だが、庇護下から離れたら分からん。……今、お前にこうやって稽古をつけているのも、万が一に必要になったらって思うからだ」
私はスクッと立ち上がった。
「よし、もっと稽古を増やしましょう! ……当主様に一太刀浴びせられる程度の実力がついたら、そこそこの線ですよね?」
当主様が苦笑した。
「まぁな。……代わりに、ケイラのことを」
「それは無理です。ケイラお嬢様が大人になって、私も被害者だったと理解出来る時がきたら歩み寄りますが、今の妄想の中に生きている状態じゃ、思いっきり物理的距離を置いたほうがいいって、私は思うので」
そして、妄想の中に生きている子が、そう変わるかな~? とも思ってる。
だって、子どもっていってもさ、もう十歳だよ?
五歳くらいまでならまだ許せたけど、十歳はそこそこ大きいし、夢と現実の区別がつくお年頃よね?
「子どもはいつまで経っても子どもってわけじゃないし、いつまで経っても子どもな子は、ぶっちゃけ周りに迷惑をかけまくりますので、奥様の対処が正しいかと思われます」
奥様は、ケイラお嬢様を完全隔離して、学園に入るまでに徹底的に矯正しているようだ。
実際のところ妄想から出てこられるか分からないけど、その妄想を内に抑え込められるのなら人付き合いも出来るようになるかもしれない。
「……分かった。確かにこれは俺と妻の教育の問題だ。娘のお前に頼む話じゃなかったな」
「理解していただけて何よりです」
私は当主様に頭を下げた。
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