第56話 閑話~ケイラ・ヴァリアント視点2
お父様と結婚する前のお母様は、グレイスハート子爵家の当主に嫁いでいた。
なかなか子どもが出来ずにいて離婚を視野に入れていたとき、お母様の夫であるグレイスハート子爵家当主が事故で亡くなってしまった。
弟夫婦が子爵家を継ぐことになりお母様は出戻ったが、そのときになって妊娠していることが発覚する。
だけど、なかなか出来ず離婚一歩手前だったことと、すでに弟夫婦が子爵家を継いでいてここで妊娠したと言っても信じてもらえるか分からないということから、お母様はグレイスハート子爵家にはそのことを告げず、平民になって女手一つで育てようと決意していたという。
そのとき、ちょうどお父様が戻ってきていた。
お父様はお母様と幼なじみ。
恋愛感情はないけれどお母様を友人として大切に思っていたので、ちょうど叙爵の話が出ていたこともありお母様と契約結婚する。
お母様の産んだ子を男爵家当主とする代わりにお母様が領地を切り盛りし、子育てもお母様に任せるという話でまとまったそうだ。
……ところが、お父様はあまりにも男爵家当主の自覚がなく、冒険者時代と同じように放蕩の限りを尽くし、あちこちの女性に手を出した挙げ句、メイドを妊娠させてしまう。
お母様の視線を受けたお父様が、申し訳なさそうに語りだした。
「……俺は、今まで一度もリリスに男爵家を継いでほしいと思ったことはないし、リリスの母親を男爵夫人にしたいと思ったことはない。コンスタンスが男爵夫人にふさわしい。……だけど、コンスタンスも俺の子じゃないってことで心が揺れて、男爵家の令嬢としてふさわしいようお前を厳しく躾けたし、リリスに突っかかるお前を突き放したかもしれねえ。俺も……貴族の娘をどうやって扱っていいか分からなかった。俺は、悪いことをしたらぶっとばして、いいことをしたら頭を撫でてやって、それくらいしか出来ねぇから……」
お父様がボソボソと弁解していたけど、ほとんど耳に入らなかった。
……私、お父様の子じゃなかったんだ。
「本来なら、私もあなたも平民です。しかも母子家庭……。リリスたちと同じ立場だったのよ」
お母様のその言葉が私に突き刺さった。
「本来、リリスとリリスの母親が旦那様と正式な親子になるべきなのに、私とあなたのせいでリリスは庶子になってしまっているのよ。リリスはヴァリアント男爵家の正統な血筋だからこそ、あなたよりもリリスを贔屓しました。……せめて、仲良くしてくれたなら支え合っていけたのに……」
ぐるぐると世界が回る。
そんな事実知らない。
小説にはなかった。
だって、そんなストーリー望んでいないもの!
私は、私がハッピーエンドを迎える小説を……。
……あれ? 小説ってなんだろ?
お母様が私を見つめながらさらに言う。
「……もう一つ。あなたのその小説に矛盾を感じるのは、あなたの言っている婚約者のことです。レイヴン・シルバーウインド辺境伯令嬢は、女性ですよ。兄がいるらしいけれど、彼女とは年齢も離れていますし、髪の色も顔立ちも違い、兄妹といえどまるで似ていないと聞きました。……そもそも、私にも私の実家にも辺境伯に伝手などありませんし爵位に差がありすぎます。ですから、レイヴン・シルバーウインド辺境伯令嬢とも兄弟の方とも、婚約は出来ません」
私はビクンとして、お母様を見た。
「……え、嘘でしょ?」
「そんな嘘を言ってどうするんですか。……中性的な美貌の持ち主でリリスと仲良くしているから、深く考えずにあなたの婚約者として設定したんでしょう? あなたの頭の中の小説で」
…………そんな。
あの人、女なの!?
……そういえば、違ったかもしれない。
あの顔のはずなのに……え? なんで小説なのに顔を知っているんだろう?
線が細くて優しそうに微笑んでいたから、あの人だって思ったんだけど……。
お父様がため息をついた。
「……ケイラ。いいかげん大人になれ。俺から見たお前は、妄想の中で生きてるガキのまんまだ。あと二年で成人するんだぞ? いつまでも子どものままじゃいられないんだ。まずは自分の足で現実を踏みしめろ。……それと、コンスタンスが言うように、今のお前じゃ男爵家当主は任せられねぇ。なら、爵位を返上し俺もコンスタンスもお前も平民として生きるほうが領民のためだ。もう一度言うぞ、現実を踏みしめろ。お前が立っているのは、頭の中にある小説じゃねぇ、現実だ」
お母様もため息をついた。
「リリスは、あなたに男爵家を継いでほしいから、自分を中傷したことに対しての罰は望まないと言ったそうです。旦那様も、リリスがそう望むのならと、貼り紙の件は不問にするそうです。……ですが、私が許しません。いくら公爵令嬢にそそのかされたからって、義妹を陥れるような真似は、私が許しません! あなたのその妄想……いえ、頭の中の小説に当てはめて都合のいい夢を見る性根が治らないかぎり、私はあなたに男爵家を継がせることは、母として許しません。ならば、旦那様に言って爵位の返上をしていただきます。場合によっては、あなたを修道院へ行かせます」
――混乱した私は、それ以降何を言われたのか憶えていない。
二人が代わる代わる話しかけたけど聞いてないのが分かったのか部屋に戻された。
ベッドの上に座り、天井を呆けて見つめる。
そんな……おかしいわ。
私の小説じゃ、ハッピーエンドのはずなのに。
なんで? どうして?
何が違うの?
「…………あは。分かった!」
みんな消して、リセットすればいいのよ。
そうしたら、私のハッピーエンドの物語が始まるわ!
【告知】
本日、【脳筋聖女は、すべてを物理で解決する。』が刊行いたします。
すでに入荷している書店もあるようです。発売日以降になるパターンもあるのでこの辺り、レーベルによって差があるんでしょうかね?
大幅改稿により、ギャグ感もぶっ飛ばしもパワーアップさせました。
ページ数もけっこうありまっせ!
とよた瑣織先生によるイラストは、webを読んでいる方なら間違いなく二度見するでしょう。
めっちゃ乙女ゲーに出てきそうなキャラデザにしてもらいましたw
カバーデザインも有名な方にやってもらっちゃいまして、すんごく素敵な仕上がりなのですよ。
昨年からの1年間はこれと城塞幼女シルヴィアで埋め尽くされており、有終の美を飾るのがこちらの脳筋聖女です。
何卒よろしくお願いします!!!!
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購入特典などもあります!




