第51話 査問にかけられたかと思いきやお嬢様が査問にかけられたのである
私の自作自演についての嫌疑は晴れた。
……はずなんだけど、三人ほどコチラを睨んだままなんですが。
それに気づいた司会進行役の人、何度目かの叱咤をする。
「ここでの決議は、国の決定である! それに対して異議を唱えることは許されないことをわきまえよ!」
……司会進行役の人、大変だなぁ。
そもそも、子どもがこの審議の間で決議を聞くのがナイ、って感じだよねー。
子どもが大人から頭ごなしに言われたってさ、聞くわけがない。
親から怒られれば別だろうけど。
――そんなことを、彼らの悔しそうな顔を見ながら考えた。
司会進行役の人は疲れたようなため息をついた後、再び口を開く。
「次は、さきほどの審議に上がった、自作自演のことを書かれた貼り紙が貼られたことについてだ」
一気に三人の顔色が悪くなった。
オイオイ、さっきまでの威勢の良さはドコいった?
「嘘は厳重に処罰されることを、念押ししておく。……この貼り紙に心当たりがあるか?」
ケイラお嬢様は真っ青になって震えている。
そして、否定しようとして、その言葉を呑み込む。
それを繰り返しているようだ。
「ケイラ・ヴァリアント。女子寮に『リリス・ヴァリアントがケルベロスを呼び出した。倒したのも人気取りのための自作自演である』という内容の貼り紙に、心当たりがあるか?」
ケイラお嬢様はうつむき、答えない。
「ケイラ・ヴァリアント。貼り紙を書き、貼ったのは貴殿だな。沈黙は、是とする」
ケイラお嬢様は顔を上げた。
「そんな……!」
と一瞬憤るが、厳しい視線を受けてうろたえ、視線を彷徨わせた結果、当主様を見た。
助けを求めているようだ。
当主様は、ケイラお嬢様の視線を受けて、まっすぐ見返し、
「貼り紙の犯人はお前か?」
そう聞いた。
「……お父様は、私を信じてくださらないんですか!?」
ケイラお嬢様が激昂して当主様を詰ったが、当主様は冷静に返す。
「だから、その口で本当のことを言え。嘘はつくな。起こした事実だけを、端的に答えろ。やったか、やってないか。それを信じる」
お嬢様が口を開こうとしたとき、
「ただし、俺に嘘をついたのが分かったら、俺はお前を見放すぞ」
と、当主様が強く言ったら言葉を呑み込んでしまった。
私は意外に思って当主様を見たよ。
「……父様なら『女のかわいい嘘くらい許す』くらい言いそうなのに……」
小声で言ったのに、司会進行役の人と陛下にも聴かれていたみたいで失笑されてしまった。
当主様、また胸を押さえている。
「……ついちゃいけねー嘘もあんだよ。特に、親にはな。親は、子どもの言い分を信じるもんだ。誰が何を言おうとも『絶対にやってねぇ』って否定するのならそれを信じるさ。だけども、嘘はついちゃいけねぇよ。信じてもらうには、その代わりに本当のことだけを言うのが筋ってもんだろう?」
語るうちにだんだんと立ち直ってきたよ。
「あ、それはそうですね。理解しました!」
それはそう。
当主様が「女の嘘を許す」のは、女は嘘つきだと思っていて、その発言を信じていないから。
ケイラお嬢様の嘘を許さないのは、子は本当のことを親に言うと信じているから。
納得した。
さて。
そこまで当主様に言わせたケイラお嬢様、なんて言うのかなーっと。
多少のワクテカを胸にケイラお嬢様を見た。
というか、全員が注目している。
ケイラお嬢様の目がキョドり、目が異様に光って顔が青白い。
……いやこれで、「やってません」って言っても信じられないでしょ。
言ったらどうなるんだろう。
当主様は信じるんだろうか。
ちなみに私は信じられませんわー。
「ケイラ・ヴァリアント。お前の父も正直に話すことを望んでいる。……リリス・ヴァリアントが自作自演のためにケルベロスを召喚したという中傷を書いて女子寮に貼りだしたのは、君だね?」
再度、司会進行役の人が返事をうながしたとき。
「待て。彼女がためらっているのは、仕返しを恐れているせいだ」
と、第一王子が言いだしたぞ。
第一王子は私を忌ま忌ましそうに見た後、さらに告げる。
「もしリリス・ヴァリアントに告発文の貼り紙を貼ったことを知られたら酷い目に遭わされる……果ては殺されるかもしれないと恐れているため、言えずにいる。まず、刑罰に処さないと約束した上で正直に話すように促せば良い」
その助け船に、ケイラお嬢様は顔を輝かせた。
――が、そのおかしな発言を司会進行役は聞き逃さなかった。
「まるでリリス・ヴァリアントが法の執行人のような口ぶりですな、アドリアン・ソル・ユニウス殿下。ですが、彼女にはなんの権力もない。法を執行するのは貴方の父上ですよ。お忘れですかな? 殿下」
第一王子がぐっと詰まる。
「そして、最初の審議で『リリス・ヴァリアントにケルベロスを呼び出すことは不可能』と解り、その件には関わりがないと決議がなされたはずですが、それもお忘れですかな? ――では、勇あるアドリアン・ソル・ユニウス殿下からまずは伺いましょう。貴方は、リリス・ヴァリアントの自作自演うんぬんという中傷を書いた貼り紙を男子寮に貼りましたか?」
第一王子の顔が一瞬引きつったが、ハッキリと答える。
「いいや。私は貼っていない」
「中傷を書いてもいない?」
「もちろん、書いていない」
「では、文面を考えた?」
「それはもちろん……」
そこまで言って、声を詰まらせた。
答えない第一王子を、司会進行役が促す。
「アドリアン・ソル・ユニウス殿下。貴方の父であり、王である陛下の前で、嘘などつかないと誓った上で答えてください。貴方は、この件にまったく関わりがなく、文面を考えてなどいないし、貼り紙は貼り出されてから初めて見て、そのような不届き者は退学にしたほうが良いと判断して煽動した。本当にそうなんですか?」
「…………」
第一王子はうつむいて黙った。
答えないでいる第一王子を見て、司会進行役がバッサリと告げる。
「沈黙は、否としましょう。殿下は一連の貼り紙の件に関して関与している。そう判断します」
第一王子はそれを聞いて顔を上げ、憤る。
「勝手に決めるな! 私は答えていないぞ!」
「ならば、今この場で、陛下に告げてください。関わっていたかどうか」
「…………」
そう促すと、うつむいて黙る。
なんなのコイツ。
ケイラお嬢様より最悪なんですけど。
「……もしかして、ケイラお嬢様を変化球で庇ってるのかな? あのザマ、ケイラお嬢様がマトモに見えるでしょ」
「かもなぁ。だが、自らを犠牲にしたせいで、自分の父親からの信頼が木っ端微塵に砕けた気がするがな」
小声で当主様とやりとりをしてしまうほど、第一王子は子どもで姑息で傲慢だった。
【ちょっとしたお知らせ】
3か月連続刊行だったので、初めてお便りコーナーにお便り出してみたのです。
で。
無事、掲載されました!
https://blog.syosetu.com/article/view/article_id/5059/
2月10日から1週間ほどはお知らせバナーに載るかなと思います。
気が向いたら読んでみてください。




