第5話 お嬢様と対立したのである
当主様が飛んで帰ってきた。
その後、全員……奥様もケイラお嬢様も含め、全員が集められた。
「まず……俺が全面的に悪い。ケイラには話をしていなかった」
と、私に頭を下げた。
いや、謝られたってもうどうしようもないですよ。
ケイラお嬢様は、父親が私に謝ったのを目を見開いて見た。そして、また私を睨んできたので、
「言いたいことがあるならハッキリ言えば!?」
と怒鳴ったら、すぐ目を伏せた。
「どうどう。落ち着け」
当主様になだめられたので、嚙みついた。
「そもそもが、当主様が奥様以外の女性と関係を持ち、赤子までこさえてしまったのが一番の原因なんですけど!」
「ホンットーに申し訳ありません!」
当主様はさらに深く謝った。
ケイラお嬢様も、それにはさすがに同意しているらしい。睨むこともせず、微かにうなずいている。
奥様は大いに同意するようで、大きくうなずいていた。
当主様は、頭を上げるとケイラお嬢様に向かってキッパリ言った。
「俺が、ここに迷い込んできたその獣をソイツに預け、懐いたのでソイツに飼うように指示をした。ソイツがお前から盗んだんじゃない、俺の指示だ」
ケイラお嬢様は、唇を嚙む。
「……私が、飼うのではダメですか」
「たぶんな。ソレは、聖属性に反応する」
え、そういう感じで懐いているの?
驚きの新事実!
「……私……私も、試していいですか?」
ケイラお嬢様が言うと、当主様は深いため息をついた。
「ソレが、嫌がらなかったらな。……退治するワケにはいかねぇんだ。ちょっとでも嫌がる素振りを見せたら諦めろ」
当主様の言葉に再び唇を嚙み、それでもセラフに手を伸ばそうとすると――。
「グォーッ!」
どっから声を出したの、みたいな威嚇をしたセラフ。
ケイラお嬢様が絶望的な顔をして、手を引っ込め、さらに数歩下がった。
引っかかれそうだもんね。
私が怒ったことで、セラフもなぜか怒りモードでさっきからずっと周りを威嚇しているのよ。
セラフと私の様子を見た奥様が、深いため息をついて尋ねてきた。
「……リリス。貴女がここに居続けるための条件はなんですか?」
私は思いきり顔をしかめた。
「なぜ、そこまでして居させたいんですか?」
「稀少属性だからです」
ソレ、どこまで価値があるの?
「だって、お嬢様は私にいなくなってほしいと思ってる。いっつも睨んでくるし、嘘をついて私を陥れようとしてるし」
「陥れようとしているのはソッチじゃない! 私から全てを奪うつもりなんでしょ!?」
お嬢様が叫んだ。
私はシラーッとした顔をして、奥様を見る。
「……なんですってさ。だから、いないほうがいいですよね。私もいたくないし」
「つまり、ケイラをどこかへやれば、貴女はここに居るのですね?」
「「は?」」
私とお嬢様の声がハモった。
いやいやまさか。奥様が出産の痛みを耐え抜いて産んだ子でしょ?
聞き間違いだよね。
お嬢様は、呆然としながら奥様を見つめた。
「…………お母様?」
「確かに貴女の言う通り、『夢で見た』などと妄言を吐き妹を犯罪者と貶める子は、平民ならいざ知らず、貴族ではいられません。修道院へ預けたほうがいいかもしれませんね」
私はあんぐりと口を開けた。
……確かに、平民でもちょっとキツいなと思うおかしさだけど……。
「……お母様……」
ケイラお嬢様は、顔色が真っ青だ。
奥様は、冷酷とでも言ったほうがいい顔つきで、お嬢様を見た。
「ケイラ。貴女が言った『盗まれた物』は、実際には盗まれていないことが判っています。全部、貴女がどこかへ隠したことで、どこに隠してあるのかも判っているんです」
「……ッ! 違います! あれらは、本当に盗まれるんです! だから、あらかじめ隠しておいたんです! 盗まれたくない、大事なものだから……」
「ハイハイ、私が盗むんですよね。だから、出ていきますって。――私は絶対に! たとえ飢え死にしそうになってもアンタからは何一つ受け取らない。そう決めてるけどね!」
私の怒りに反応してか、セラフもお嬢様に対して唸る。
「アンタも、二度と私の前に現れるな! 出てってやるから、金輪際私が盗んだって――」
「いいえ。出ていくのはこの子、ケイラです」
奥様が私の言葉を遮って断言し、ケイラお嬢様を見据えた。
「ケイラ、貴女は起きてもいない出来事で他人を責めていますね。それがどれほど怖いことなのか、わかっていません。もしも貴女より高位貴族の令嬢が、貴女がやってもいない盗みをしたと非難したら――いえ、もっとわかりやすく例えると、リリスが貴女にものを盗まれたと糾弾したら、貴女はどう思うのですか?」
「あり得ないわ! 濡れ衣よ!」
ケイラお嬢様の叫びに奥様はうなずく。
「そうです。貴女が言っているのは、そういうことですよ」
お嬢様は奥様を見つめながら息をヒュッと呑んだ。
「……で、でも……。私は、本当に、それが起きると……」
「リリスが同じように、それが起きると知っているから、貴女の罪を糾弾したと言ったらどうします? リリスにしか理解出来ない根拠で、貴女と同じように、起きる前の罪で貴女を非難したら――貴女は納得出来ますか?」
奥様の言葉に、お嬢様はうつむいてしまった。
「……でも、それは嘘……」
「貴女も同じですよ。起きてもいない事件は、本人がいくら事実だと言い連ねても、それは嘘です」
――そう奥様が諭しても、お嬢様はきっと納得しないだろう。
妄想の中に生きている。
その中の私は、お嬢様のものをなんでも奪い取る悪人なんだろうね。
私はお嬢様の前まで歩いた。
そしてハッキリと言う。
「アンタのお古なんざ、一ッつもいらないね! ほしいとすら思ったこと、ねーわ!」
「……なっ……!」
お嬢様が私を見た。
「だって! その子を持っていったじゃない!」
おおう。セラフを先に飼ってることになってんのか、そして私が奪ったことになってんのか。
「言っとくけど、先に出会ったのも、懐いてんのも私。アンタじゃない。……それとも、いる? 私のお古」
カッとなったらしく、顔を真っ赤にした。
「いるもんですか!」
「その前に、無理だろうけどね。セラフに懐かれてから、奪ったっていいな!」
セラフがグルルルル……とお嬢様に向かって唸っている。
お嬢様はセラフを見て、怯えてさらに後退った。




