第48話 久しぶりに父と再会したのである
「解った。行ってよろしい。その魔石だったものに関しては、こちらからヴァリアント男爵家当主と交渉する」
学園長が締めくくったので、私は立ち上がって一礼する。
「はい、では失礼しま……いや待った! ちょっとすみません、退学の件は……? 私、結構頑張ったんですけど?」
慌ててツッコんだわよ。本題はソレだから!
「その頑張りは違うことに活かしましょうね、リリス・ヴァリアント」
コーデリア・セイジクラウン先生に笑顔で諭された。
……どうやらダメなのが解り、肩を落として指導室を去った。
*
数日後、登校したらなんとなく学園が騒がしかった。
うちのクラスも浮き立っているし。
「どうしたの? …………って、当主様!?」
クラスに当主様がいるんですけど!?
教卓の上に座っているわよ。
カッコいいけど、コーデリア・セイジクラウン先生は怒るんじゃないかしら?
「よう。派手にやらかしてるみてーじゃねぇか」
当主様、初っぱなからご挨拶だなー。
「やらかしてませんよ、失礼な。……それにしても、どうしたんです?」
私が尋ねたら、当主様がため息をつきそうな顔で答えてくれた。
「呼び出されたんだよ。……子どもの喧嘩に親が出るような真似はしたくねぇんだが、相手側が単なるガキの喧嘩じゃねぇ騒ぎまで持ってったから、致し方なく、だ」
へー。大変ですね。
「そうなんですね。私は相手側に退学まで持ってってほしかったんですけど〜」
私がそう言ったら当主様がうなずく。
「おう。相手側もそのつもりだったんだろうな。それにお前が便乗して、下手すりゃ国まで巻き込んだ騒ぎになりそうだから、俺が呼ばれたってワケだよ」
「へぇ」
スケールの大きい喧嘩だね。
私は喧嘩を売られた覚えはないけれどー。
レイヴン以外の皆がソワソワしていて、遠巻きに見ている。
レイヴンは恐らく当主様のことを知らないんだろうな。
私も当主様が有名なのを知らなかったし、なんならレイヴンの父上のことも知らないしなー。
なので、レイヴンを紹介した。
「あ、当主様……じゃなくて父様。これ、私のパートナー。父様のライバルだよ」
「は!?」
当主様がビックリしている。
いや、私だって冒険者パーティくらい組みますよ。
レイヴンは当主様を見て、ふむ、とうなずくと、麗しい笑顔を作り一歩前に出た。
「リリスの父上か。私はレイヴン・シルバーウインド。リリスとは特別親しくさせてもらっている。愛らしい彼女の唇から私の名前とパートナーという言葉が発せられる光栄を得て、天にも昇る気持ちだ」
レイヴン、さっそくフルスロットルだね!
当主様、あんぐりと口を開けた後、レイヴンを指した。
「……あっ! お前、あのナンパ野郎の息子かよ!?」
え?
なんか当主様が面白いことを言いだしたぞー。
「リリス! ソイツに誑かされんな! ソイツの父親、有名なナンパ野郎だったんだぞ! 父さんは、ソイツとの交際を禁止する!」
当主様、錯乱する。
レイヴンを見たら、面白がっていた。
「そうか。父はナンパ野郎だったのか。……そういえばリリスも、私の言葉を聞いて『ナンパ野郎』って表現することがあったな」
「そっか。私も理解したよ。レイヴンは父親の影響でそんな口調になったのかって。なら、しょーがないね!」
私もそうだし!
錯乱した当主様が、私の腕をつかんで引き寄せた。
庇うのか間近で説教するのか悩む体勢で、当主様が怒鳴ってきた。
「入学してそうそうに恋人を作るな! まだ早い!」
「入学してから半年以上経ってます。あと、恋人なんて作ってませんよ。レイヴンは冒険者もやってて、私とは冒険者のパートナーって紹介をしただけです。最後に、レイヴンは辺境伯令嬢です」
「…………は?」
レイヴンをまじまじと見ている。
レイヴンは、フッと笑うと父を見つめた。
「なるほど……。リリスの父は、私のライバルなのか。光栄に思うべきなのだろうな」
「……マジかよ。……そういや、アイツから『待望の娘が出来たから、絶対にお前には会わせねぇ』とかなんとか手紙をもらったような……」
うーわー。
ナンパ野郎がタラシ野郎に『俺の娘に手を出すな』的な手紙を送ったんだー。
「どうやら、レイヴンの父上が我が父上のライバルだったらしいよ? ……となると、モテる娘同士、私たちが普通にライバルになるのかな!」
私がそう言ったら、レイヴンはキョトンとしたよ。
「別に私はリリスと争う気はないが? むしろ、もっと親密な関係になりたいかな」
「だから、言葉のチョイスがおかしいんだって」
当主様もレイヴンに呆れ顔だぞ。
「リリスの言う通りだよ。お前……父親に似過ぎだろ。見た目もうり二つだもんな」
レイヴンが当主様の言葉に眉根を寄せる。
父親に似ているの、嫌みたい?
「嫌ならその口調を直せよ。それが最大に似てるわ!」
と、当主様が説教したのでレイヴンが肩をすくめた。
直す気がないらしい。
当主様から解放されたと思ったら、クラスメイトが紹介してくれと突っついてきたので全員を紹介した。
握手会が始まったよ。
「あのっ、あのっ、……ファンです!」
伯爵令嬢のフレイヤですらこんな感じ。
「ハハッ。ありがとよ。別嬪さんにそう言われるとうれしいね。これからもリリスと仲良くしてやってくれ」
うーわー。
レイヴンよりはマシだけど、当主様も口が軽い。
「もちろんですわ!!」
フレイヤが舞い上がっているわよ。
「ちょっと、お父様? ワタクシの大切なお友達に手を出されましたら、母と義母様にチクった後、全国に発布しますわよ?」
「とんでもねーこと言いだすな! 娘の友達に手を出すとか、ねーわ!」
当主様が叫んだ。
つまり、友達じゃなければ手を出すってことかい。
年齢を理由にしろ、この女好き!
レイヴンが、当主様をじっと見ていた。
「ん? レイヴンは父様を知らないんでしょ?」
私が尋ねたら、レイヴンはうなずく。
「そうだな。父に手紙をやりとりするような仲の友人がいるとは思わなかった。ふむ……。確かに、リリスの父上は、私の父とは違う魅力があるな。参考にさせていただこう」
「やめたほうがいいよ? ナンパ野郎をお手本にしているのもだいぶヤバのに、さらにタラシ野郎をお手本にするなんて、女性に刺されて死ぬ未来しか見えないよ?」
一応、友人として忠告はしておくからね。




