第46話 退学騒ぎに便乗したのである。
それから数日後。
クラスの子たちの挙動が変だったので首をかしげたら、レイヴンが教えてくれた。
「寮に、何枚も貼り紙がされていたんだよ」
「貼り紙?」
「この間のケルベロス事件、アレがリリスの自作自演だったってさ」
オゥ……。
誰の仕業か心当たりがあるぞー。
苦い薬を飲んだみたいな顔をしたら、レイヴンが私をのぞき込んだ。
「誰がやったのか、心当たりがありそうだね」
「……女子寮に貼り出したのなら、犯人は女子寮に住む女子でしょ。一気に絞られたね」
レイヴンがからかうような口調で返した。
「ところがそうも言い切れない。その貼り紙がされる前に、寮監から、誰かが忍び込んだ形跡があるって伝えられて、全員に何か盗まれていないかチェックするように指示があったんだ。全員が部屋に戻り、持ち物検査をし、全員が盗まれていないことを確認した。一安心だってことで食堂に集まったら、誰かが貼り紙がされていることに気づいた、ってワケさ」
ふぅん。
「なるほど。盗まれたのではなく、貼り紙をしに忍び込んだと考えられるってこと」
――でもさ。
「女子寮って、完全に無人になることあるの? 体調が悪くて休む人だっているだろうし、清掃もあるし、まるで知らない人がものすごく運良く完全に無人の時間に忍び込み、食堂まで行って貼り紙をして、また戻ってきたって言うの、奇跡だって思うけど。少なくともリスクはそうとう高いよね」
私の話を聞いた全員が目を見開いた。
しばらく静まり返った後、クリス君が恐る恐る手を挙げて言う。
「……実は、男子寮にも貼り出されていたんだ。こちらは一箇所のみだったけど」
「じゃあ、男子寮の男子がやったんでしょ、そっちは」
「……え? 複数犯ってこと?」
「わかんないけどね。でも、内部を知ってる人が犯人か手引きしたかじゃなければリスクが高すぎるでしょ、って思うけど。……単なる学生の私を誹謗中傷するためだけに、その道のプロが貼り紙するか? ……って考えれば、しないでしょって思うじゃん? なら、うちに忍び込んで暗殺すると思うよ」
出来ないと思うけど。
うち、それなりの腕っぷし冒険者の集まるクランが住んでるんだもん。
セラフもいるので、変な奴が近づいたらすぐ分かるのさ。
実際、どろぼうもすぐ捕まるしね~。
フレイヤが拍手してくれた。
「リリス! 冴えてますわ!」
「エヘヘ、ありがとー。……そういうワケで、女子寮に貼り紙貼った犯人は女子寮の女子、男子寮に貼り紙貼った犯人は男子寮の男子の線が濃厚だよ~」
レイヴンがまたからかうような口調で尋ねる。
「で? 犯人捜しをするか?」
「しない。そのまま退学にしろって犯人が騒ぎ立てるまで待つわ」
そして退学処分を喰らって旅に出るのだ!
全員が呆れた顔をしているぞ。
「そんなに退学になりたいんだ……」
「だって、『竜の角亭』で先輩方の話を聞いた? 貴族の魔法使いなんて、こき使われて手柄も騎士団に横取りされ、なんなら魔物肉も報酬も横取りでしょ。とっとと退学になって冒険者として活躍したいわよ」
ひらひらと手を振った。
「なんなら、こう広めてよ。『リリス・ヴァリアントが退学になりたいがために仕込んだ』ってさ」
私が言ったら顔を見合わせているぞ。
レイヴンだけがうなずく。
「それくらいのこと、君の笑顔のためなら喜んで引き受けるよ」
「だから、言葉のチョイスが間違ってるって」
いちいちナンパっぽいセリフを入れてくんな!
*
レイヴンは、さっそくやったらしい。
周りの視線が非常に微妙なものになっている。
ものすごく戸惑っているというか……。
とうとう聞かれた。
「……リリス様は、退学になりたいとか……」
「自主退学は親に認められていませんので、積極的に問題行動を起こしていこうかと思っていますの。陰ながら応援してくださる方もいらっしゃるみたいですし、その流れには乗っていこうかと~」
ホホホ、と笑うと呆れられる。
そして言われた。
「絶対に退学にさせませんわ!」
「いや、本気で退学になりたいんですよ。私、冒険者に憧れてますから。魔法使いって騎士に手柄を搾取されるようですので、あまり魅力のある職業ではないですし~」
騎士クラスを敵に回す発言もする。
そうやって煽りまくったのだけど、どんどん噂が鎮火していくのよね。
そんな中、退学にすべきだと声高らかに叫んでいるのが王子と側近、そして我が姉。
誰もが何も言わないが、全員が「アイツらが貼り紙の犯人だ」って思ってるよ。
私も言わない。
でも、内心でお礼を言っとく。
ご協力ありがとうございます。




