第44話 新たな肉を奪われて怒り心頭に発したのである
観客席から、わぁっという歓声が上がった。
そして、拍手喝采。
皆さん魔法クラスを讃えています。
私は考え込むと、コーデリア・セイジクラウン先生に尋ねた。
「……もしかして、仕込みですか?」
コーデリア・セイジクラウン先生が心底呆れたって顔をしている。
「下手をすれば、いえ下手をしなくとも陛下の身が危なかったのですよ?」
「いえ、たぶん平気だったと思います。あの魔物、私を狙っていましたもん」
レイヴンがいるのに、不自然なくらい私だけを狙っていた。
――強さでいうと、私よりレイヴンのほうがちょっぴり上なのだ。
レイヴンのほうが戦い慣れているせいと、私はやっぱり属性魔法のせいで雑というか、油断や隙が多い。
死なない、ってことがアドバンテージであり、戦いにおいての弱さになっている。
だから、なるべく『聖防』はかけないように戦っているんだけどね。
痛い思いをしたくないのなら、油断するなと自分に戒めているわけだけど……。
なかなか直らない。
ともかく、立ち回りや戦闘センスはレイヴンが私より上手で、だからこそパーティを組んだとき、魔物は私よりレイヴンを警戒していた。
父と戦っていたときもそう。
父を警戒しつつ、弱い私を攻撃する、といった感じ。
だけど、あのケルベロスは、レイヴンを眼中においてなかった。
いや、一瞬おくんだけど、すぐ私に注意を戻してしまう。
私が突っ込まずに囮に徹していればレイヴンが倒してしまっただろうなってくらい、他を見ずに私ばかりに注意がいっていた。
なので、仕込みかなって考えたのだ。
コーデリア・セイジクラウン先生が考え込んだ。
「……誰かの仕込みかもしれません。ですが、少なくとも学園は関与していません。繰り返しますが、万が一にでも陛下の身に何かが起きるようなことを学園側が許すはずがありませんから。ましてや、学園に魔物を召喚するなどと……」
コーデリア・セイジクラウン先生が深いため息をつく。
陛下は即安全地帯へ避難したが、こちらへやってきた。学園長や周囲の貴族が引き止めていますが、聞いてません。
観客が、陛下を見て拍手や歓声をやめる。
シーンと静まり返った中、陛下が口を開いた。
「非常事態にこそ本領を発揮する其方たちに、魔法使いの真髄を見た。これからも、国のため、民のためにその道を究めていってほしい」
私たちは慌てて頭を下げ、観客は再び拍手してくれた。
陛下たちが引き上げ、よーし肉だ肉ーって思ってケルベロスを見ると……。
「え!?」
「は!?」
レイヴンも驚いている。
魔法陣が再び現れたのだ。
しかも、ケルベロスの死体の下に。
「待っ……!」
「このっ……!」
レイヴンがなんとか前足をつかみ、私は尻尾目がけてリリスロッドを投げつけ、セラフが後ろ足を引っぱった。
だが、肝心の胴体……頭はどうでもいいけど胴体が、魔法陣の中に消えていく。
「「肉~~~~!!」」
私とレイヴンの叫びが重なった。
「おのれ! どいつだ!? 苦労して倒した獲物をかっさらった奴は!?」
「……見つけしだい、殺す。絶対、殺す。許さん、地の果てまで追いつめてやる……!」
私が怒鳴り、レイヴンが呪詛を唱えているのを全員が生温かい目で見つめていた。
*
現れた学園の警備隊と王家直属の騎士団により、事情聴取が行われた。
その後、調査のためにという名目でケルベロスの部位が没収されそうになり、私は諦めモードに入ったがレイヴンがブチ切れた。
レイヴンは冒険者としての肩書きを前面に押し出して抗議した。
どんな理由であれ、冒険者が戦って得た魔物は冒険者に帰属する。それを、何もしていない者が奪うとは何事か! 冒険者ギルドを通してこの国へ抗議する! 覚悟しろ!
……って感じよ。
これが、学園の生徒ならダメだった。
学園の揉め事は学園が判断する。
生徒が倒そうがなんだろうが、学園と王家が魔物を調査するというのなら逆らえない。
なぜなら、現れた魔物は学園の付属物扱いになるからだ。
ただしその場合、学園内で魔物が現れて生徒を危険に晒したことに対しての慰謝料は発生する。
ケルベロスが学園の付属物扱いならなおさら、死に至るような魔物が学園内にいたということで、生徒や来ていた来賓全てに対して全責任を負わないといけないって話ね!
学園側はレイヴンの抗議に乗っかり、これは学園側では関与しない出来事であり、倒した魔物の部位はレイヴンに帰属する。
ゆえに、学園側も調査はするが、魔物が現れたことに対しての責任はない、って訴えた。
実際問題怪我人はないので、王家直属の騎士団は引いた。
「あ、尻尾はあげます。蛇なら、ちゃんと蛇の魔物を狩って食べればいいかなーって思ったので!」
私がハイ、って渡すと、騎士団員さんたちがなんとも言えない顔になってしまったよ。
「リリスは寛容だね」
ってレイヴンに言われた。
「前足、後ろ足、尻尾のどれかを渡さなきゃならない、ってなったらどれにする?」
「……尻尾かな。肉が一番少ないし」
「そういうこと」
テールシチューも捨てがたいかなとふと思ったけど、どのみち蛇だからね……。
「次の休み、蛇の魔物を倒しに行こうよ」
私がレイヴンを誘うと、レイヴンが笑う。
「喜んで。……蛇はどうやって調理する?」
「あ、私、たぶんおいしい調理法知ってるかも。小麦の粉と調味料を合わせたものをまぶして油で焼くんだよ。めっちゃおいしいよ」
「やっぱり返してもらおう」
レイヴンがくるっと踵を返したので、慌てて引き止めたわよ。
食い意地が張りすぎだって!




