第40話 待遇の良さに首をかしげたのである
貴族クラスの大会を、魔法クラスは観に行かない。恐らく騎士クラスも。
魔法クラスは大会の打ち合わせがあるから。騎士クラスは発表会みたいな大会を見るより練習してるでしょ。
――というわけで、大会前日の私たちは、打ち合わせの最中です。
「コーデリア・セイジクラウン先生ー。貴族クラスの見学を認めないようお願いしまーす」
私が挙手して言ったら、コーデリア・セイジクラウン先生が真剣に考え込んだ。
……え、冗談で言ったのに。
「……願望としては私も同意しますが、実際は無理でしょう。ですが、出場生徒への誹謗中傷の禁止、出場した生徒が不快に思う言動をした場合、対象者は処罰、さらに父兄への厳重注意、次回以降の大会の見学および大会の参加を禁ずる、というところで手を打ちませんか?」
あんぐり。
コーデリア・セイジクラウン先生の、私への気の遣いっぷりに呆れてしまった。
「……誹謗中傷された生徒を退学処分にする、でも構いませんよ?」
「それが無理だから妥協点を探っているのです」
私は眉根を寄せる。
「どうしてですか? たかが男爵家の、しかも庶子ですよ? 王都ローヤル学園の階級では最底辺、木っ端じゃないですか。王族で、しかも第一王子の不興をかっている私がひいきされるのはおかしいと思います」
コーデリア・セイジクラウン先生が、重いため息をついた。
「第一王子は、順調にいけば王太子ですね。――リリス・ヴァリアント、貴女は第一王子が王位を継いだ場合、この国に留まりますか?」
「いえ、その前に隣国へ行きますね。難癖つけられて処刑される未来しか視えませんし」
コーデリア・セイジクラウン先生、疲れたようにうなずく。
「……でしょうね。そして、そんな王の治める国が、繁栄するとでも思いますか?」
私は首をかしげる。
「……さぁ?」
それは知らないよ。
気に入られれば好待遇を保証されるから、おべっか使いにはいいんじゃないかしら。
それに、多かれ少なかれ、そういうのってあると思うし。
私は前世の記憶もあって、そしてここを出て冒険者として旅立ちたいので王族だろうが喧嘩を売るけどさー、普通はおとなしくしているだろうし、なら大多数の人は問題ないかと思いまする。
コーデリア・セイジクラウン先生が説明する。
「誰もが処刑されるのを恐れ王におもねり、また、王は気に入っている者のみの発言に耳を傾ける。……それは、国が荒れる原因としか考えられません。そして、現国王陛下はそのような愚王ではありません」
「はぁ」
そうなのか。
……としか言いようがない。
そして、何が言いたいのかわからない。
その顔を見たコーデリア・セイジクラウン先生がさらに説明した。
「リリス・ヴァリアント。貴女が男爵家でどのような扱いを受け、またどのように生きてきたかを私は知りません。ですが通常、爵位と責任の重さは比例します。高位貴族が低位貴族よりも待遇が良いのは、その分責務があるのです。現時点での学園での待遇は、伯爵家次男と男爵家長男と比べた場合、伯爵家次男のほうがひいきされています。ですので、男爵家長男が伯爵家次男を頼った場合、助けなくてはなりません。率先して責務を負わなくてはなりません」
それを聞いた私は思いっきりレイヴン・シルバーウイングを見た。
「……聞いた?」
「これ以降、爵位を名乗らないようにする。いいことなんて一つもないって分かったからね」
逆側に開き直ったよ。
コーデリア・セイジクラウン先生は咳払いすると、続ける。
「十五歳で成人ですが、学園にいる間はまだ成人していないと見なされ、卒業したら成人となり爵位は変わります。学園では伯爵家次男だった者が卒業して平民となり、男爵家長男は次期男爵家当主となることもありますね。爵位がひっくり返ったとき、学園で待遇の良さだけを享受してきた者を下にいた者が助けようと思いますか?」
うーん、なるほど。
「そこは理解しました。……でも、私の待遇の良さにはつながらないんですけど……」
そう言ったら、コーデリア・セイジクラウン先生が笑顔で尋ねた。
「本当に、分かりませんか?」
…………。
正確には「分かりたくない」かな!
「私、卒業したら冒険者になる予定です! なんなら退学処分にしてもらって冒険者になりたいです! 平民になる予定なので、待遇の良さは要らないと思います!」
キッパリと言い切った!
レイヴンも軽くうなずく。
「上から目線の言い方だが、リリスは才能があるよ。経験を積めばいい冒険者になる」
「ありがと。卒業して、どこかで出会って気が向いたらまたパーティを組んでね。私、世界中を旅する予定だからさ」
「こちらこそ。私もその予定だ」
あ、コーデリア・セイジクラウン先生が額に手を当てているな。
見なかったことにしようっと。




