第38話 閑話~ケイラ・ヴァリアント視点
《ケイラの冬休み》
屋敷に帰ると、お母様が出迎えてくれた。
「何事もなく過ごしたようで何よりよ」
お母様は満足そうにうなずいているのが分からない。
私の学園生活はさんざんだったのに……。
初日に王子に出会うも舌打ちされて邪険にされ、遅れて行ったことでクラスの輪に入れずなじめないまま。
魔力テストは信じられないことに『魔力がほとんどない』と診断された。
使い魔は魔法クラスでしか許可されないとのことで、動物嫌いの私はホッとした反面、聖獣はどうやっても得られないのが分かって絶望した。
一番くやしいのが、リリスだけが父の娘だと言われ続けていたこと!
私だって……いえ、私こそが父の娘なのよ!
リリスの話をしていた連中に思わず突っかかったら怪訝な顔をされ、その後曖昧な笑顔でいかにも等閑な相づちを打たれた。
父、ガレス・ヴァリアント男爵の正式な娘は私なのよ!
あの子は庶子!
そう言ってまわったのに、誰もが信じてくれない。
いえ、信じないというより、相手にされない。
あの子だけが父の娘と認められている。
なぜなの!?
……いいえ、分かっているのよ。だってあの子は私のものを奪う悪役なのだもの。
両親の前では尻尾を出さなかっただけ。
学園でとうとう本性を現して、私から『父の娘』という立場を奪ったの。
物語の流れとかなり食い違っていても、結局私は奪われる運命にあるのね……。
……せめて、私の婚約者だった人に会いたい。
優しい笑顔で私に笑いかけてほしい。
そう思って、探したの。
どうしても出会いたい。
もう一度、私の婚約者になってほしい。
もう、他はいらないから、彼だけは……。
そう願って探していたら、ようやく見つけた!
私の婚約者。
彼よ!
……だけど、嫌な予感がした。
彼はなぜか魔法クラスにいて……しかも、あの子と親しげに話していた。
…………嘘でしょ?
彼まで獲るの!?
*
全てに絶望した私が虚ろな気持ちで帰宅しというのに、満足そうにうなずいているお母様にさらに絶望した。
「……リリスは、父の娘だって言いふらしていました」
ポツリと言えば、お母様が無表情になる。
「えぇ。旦那様がそう指示しましたからね」
「……彼女だけが、父の娘だと思われています」
お母様はしばらく黙り、ため息をついた。
「……リリスは、旦那様の血を濃く受け継いでいます。貴女は私の血を受け継いでいるの。その差でしょう? ――貴女は私、コンスタンス・ヴァリアントの娘だということを誇りなさい」
「だって! 名を成しているのは父でしょう!? 誰もが父の娘だとリリスをもてはやしているわ! 私が父の娘だと言っても鼻で笑われるだけ! どうしてよ! 庶子のあの子のほうがどうして私より認められているの!?」
お母様は、底冷えするような目つきで叫んだ私を見据えた。
「つまり貴女は、父親の七光りを使ってもてはやされたいがために父親の娘だと認められたいと、そう言いたいのね」
私は絶句する。
お母様を呆然と見つめ、しばらくして首を横に振った。
「違……そうじゃ……」
「そう言っているでしょう? てっきり『父親の愛情を独り占めしたい』という幼子のような想いを抱いているのかと思いきや……虚栄心を満たすためとは、情けない」
お母様が最後、吐き捨てた。
私はビクリとしてそのままうつむくと、お母様が付け足した。
「リリスは、旦那様によく似ているのです。その振る舞いが人を惹きつけ、皆が旦那様の面影をそこに見るのでしょう。……正直私も、リリスのあの振る舞いに小さい頃の旦那様を思い出して、ため息をつきそうになります。リリスのほうがいくぶん忍耐力があるので、嫌々ながらも逃げ出さないでいますが……。リリスはそれほどに旦那様によく似ているのよ」
……父があの子と似ている?
私のものを奪う、あの子が?
私は泣きそうになりながら、それならせめて、唯一の希望を叶えてもらうべく、頼んだ。
「……そのことはもういいです。他の事ももういい。ですが一つだけ願いを叶えてください」
私はお母様に、彼の名を告げて、彼の元へ嫁ぎたいということを訴えた。
――他はもういい。
物語の強制力だから。
でも、彼だけは奪わせない……!
お母様が驚いている。
「学園? つまり、生徒ってことよね?」
「はい。魔法クラスにいます。同い年です」
私はしっかりとうなずいてお母様を見たら……呆れた顔をしている。
……どうしてそんな顔をするの?
お母様は、表情と同じく、呆れたような声で私に告げた。
「何を言ってるんです、無理に決まっているでしょう?」
「……どうしてですか!? まさか、リリスと仲がいいからですか!?」
とたんにお母様が無表情に戻り、そしてため息をついた。
「……リリスが仲がいいから、そんなことを言い出したんですね……」
「違います! そんなんじゃありません! 私は、あの人と結ばれる運命なんです!」
お母様は、厳しい顔をして私を見据えた。
「いいかげんになさい! 何度も言うけれど、リリスを目の敵にするのはおやめなさい! あの子は貴女のことをなんとも思っていませんよ。……その被害妄想があるから、婚約者の打診をせずにいたんですよ? 現実をまっすぐ見つめる目を持てば、そんなことは言わないはずです! ……もういいわ、これ以上リリスのことなど考えられないよう、冬期休暇中は厳しく指導しますからね。第一、友人になりたいのなら、そんなとんでもない手段に出ず、普通に話しかければ――」
私は最後まで聞かず、部屋に駆け込んだ。
あれもダメ、これもダメ……!
唯一の、大好きな婚約者もリリスに獲られた!
お父様はもちろんのこと、お母様も、リリスの方がかわいいんだわ!
リリスなんていなくなってしまえばいいのに……!
……追いつめられた私に、数日後、手紙が届いた……。




