第36話 祝勝会で握手を交わしたのである
ワーグをギルドに持っていったら大喜びされた。
「さすがだな! 〝破壊娘〟が〝銀月鬼〟と組めば、あっという間か!」
「は?」
いろいろ聞きとがめて、聞き直してしまった。
ギルドマスター、ヤベって顔をする。
「……まず、〝銀月鬼〟って?」
「そっちの子の二つ名だな。見た目に反して鬼のように強いからだろう。髪の色と、剣の遣い手でもあるから、それに月と掛け合わせてるんだろうよ」
ふーん……。
それは分かったけど。
「今、もう一つ言わなかった? 具体的には〝破壊娘〟って」
私がギルドマスターに迫ると、ギルドマスターは他所を見つつボソボソしゃべった。
「…………。〝破壊神〟の娘だからだろ」
「神を取って娘を残したの!?」
もっとひねろうよ!
あっ、レイヴンが、そっぽを向いて忍び笑いしているぞ。
「ちょっと! 笑うな!」
「……ゴメン。プクク……ツボった」
ツボったじゃないよ!
ワーグも、おいしくいただけるらしい。
そりゃあよかった。
報酬はきっちり折半し、私はレイヴンに告げる。
「じゃあ、これで解散ね! 私、行きつけの食事処に寄ってごはん食べていくわ」
すると、レイヴンが女性を誑かすような笑顔で私に告げる。
「つれないな。せっかくパーティを組んだんだから、親交を深めよう。よかったらその、君の行きつけの店で一緒に食事をとりながら今後の話などをしないか?」
「つまり、私の行きつけの食事処に興味がある、と」
「そう」
レイヴンは深ーくうなずいた。
私は胡乱な目つきでレイヴンを見る。
「……何? レイヴンって、人を誘うとき、いちいち口説き文句を言わないと気が済まないの?」
「そういうつもりはないよ。好意を示して懐柔しているだけだね」
「好意の示し方がおかしい」
もっと気軽に誘いなよ!
レイヴンがため息をつく。
「……私は、幼いころから辺境伯領で大人に混じって訓練していた。これでも令嬢なので荒っぽい口調は控えているが、そうなると先ほどのような話し方をしていた騎士が見本になるんだよ」
「いっそ荒っぽいほうがいいかと思うよ……」
君の参考にしている人、絶対にナンパ野郎だから!
「そういえば、リリスも荒っぽいよな」
フッとニヒルに笑って髪を払ってみせる。
「そう。所詮は庶子、令嬢教育は付け焼き刃よ……」
嘘でーす。父親のしゃべり方がうつりましたー。
「でも、意外と怒られないし引かれないよ? ちゃんと話すときは話すようにしているからさ」
「そうだな。使い分けよう」
レイヴン、納得したらしい。
私……というより当主様イチオシの店『竜の角亭』にレイヴンを連れていった。
「さすが、可憐な君がお勧めするだけある店だね」
「ソレ、ホントやめろ」
いまだにナンパ野郎の口説き文句を使ってくるなー。
レイヴンは笑うと、席に着いた。
「椅子は引かなくていいだろ?」
「うちの父みたいなことしないでよ!」
当主様は当主様のくせに、こういうウエイターがいない店だと椅子を引くのよ!
「リリスの父上とは気が合いそうだな」
私は手を横に振った。
「逆、逆。アンタみたいなナンパ野郎は目の敵にされるわよ」
私も席に着き、メニュー板を見る。
「よーし、ワーグの肉を食べてみよう。……あ、当主様のオススメは、ビッグボアのステーキだよ。ちょっともらったけど、おいしかった」
「ありがとう。それはマストだな。他には……」
レイヴンは他に三品くらい頼んでいるんですけど……。
呆れたのと心配になったのとで、レイヴンに忠告した。
「いや、ステーキからしてけっこうなボリュームだよ? 大丈夫?」
「任せておけ」
不敵に笑うレイヴン。
いや、そんなキメ顔で言われてもね……。
ま、お会計は別なので、いいや。
私はワーグのシチュー。
ホロホロと柔らかいワーグの肉がたくさん入っていて、とってもおいしい!
ワーグの肉自体の味が良いため、濃いめの味つけのシチューになって、よりうまみが増したって感じ。
レイヴンは、予告どおりに三品全部平らげたよ。
「さすが、大食いだね〜」
その細い身体のどこに入っていくんだ……。
「辺境伯領は、食べられるときに食べておいたほうがいいって考えでな。長引く戦いのときに必要なのは、スタミナだ。私は、スタミナには自信がある」
自慢げに言われた。
そんなに細いのに、体力自慢なんだ……。すごいな。
「レイヴンは、寮住まいなの?」
食後にお茶を注文し、まったりしながら尋ねた。
「あぁ。そうすれば辺境伯から金が出るからな。宿代が浮く」
辺境伯令嬢なのに、世知辛いことを言うな……。
そんなことを考えていたら、ズイッとレイヴンが顔を寄せてきた。
「今日、リリスの腕前は分かった。さらに従魔も戦えるのなら、もう少し強い魔獣でもいけるだろう?」
私もズイッと顔を寄せる。
「もちろん。今後も組んで戦うのなら、連携の練習がてらもっと強い魔獣と戦わない?」
「決まりだ」
レイヴンが手を差し出してきたので、がっしりと握り合った。
「……というわけで、一時的にパーティを組むからさ。もっと強敵にしてよ」
私がギルドマスターに交渉すると、思いっきりため息をつかれた。
「……お前らなぁ……。命知らずなのか? 死んでも知らねーぞ」
「大丈夫。なんとかなる自信がある」
瀕死だろうと、ワタクシの聖魔法一発で解決ですわよ!
即死じゃない限りはいけるいける!
諦めた様子のギルドマスターが依頼をくれた。
「……遠くてもいいんだよな?」
「セラフが運んでくれるから。持つべき者は、素晴らしい従魔ね!」
セラフが誇らしげに胸を反らす。
そしたらレイヴンが、私の手を取りキメ顔で言った。
「君と巡りあえたのは、私にとって奇跡のような産物だ」
「ナンパ野郎を褒め言葉の見本にするの、ホントやめたほうがいいよ」
ぺちん、とレイヴンの手を叩いて言い返した。




