第32話 孤高の令嬢に話しかけたのである
レイヴン・シルバーウインド嬢、どうやら何か秘密があるらしい。
探し物がどうとか言ってたもんね。
なるほど、だから隣国で冒険者を……。
いやさすがに辺境伯のご令嬢が冒険者ってのは嘘かもしれないけど、金貨は本物だったので隣国にいたのは確か。
つまり、探し物で隣国にいて、なんらかの情報を得てこの学園にあるかもしれないと編入してきたのか。
私たちは顔を見合わせた。
休み時間も放課後も図書室に向かっているということは、行き詰まっているのかも?
ならば、手伝ってあげてもいいかなとも思ったのよ。
……もちろん見つけ出した暁には謝礼をがっぽりいただく算段ですが!
ただ、確実に地雷っぽいのよね……。
興味半分で顔を突っ込んでいい感じではない。
というか、断られるかなと思って私はいったん引いたんだけど、フレイヤが尋ねてしまった。
「……あの……。もしも行き詰まっていらっしゃるようでしたら、お手伝いさせていただきますわよ?」
彼女は百パー親切心だ。
そういう子だって知ってる。
だから……。
「何が目的だ?」
と、聞き返したのにカチンときてしまった。
「そういう言い方はないでしょうが。フレイヤは親切心で言ってるだけで……」
「親切心だけでそんなことを言う貴族はいない」
「いますー! どんな殺伐な環境にいたのよ!? 高位貴族は、目的がないとなーんもしないワケ!?」
そう言うと、気のなさそうな感じで言い返された。
「少なくとも、貴族に手助けを申し出られたらその裏を疑え、という教育はされたな」
私は口を開けて呆けてしまった。
「……うわー最悪。つまり、アンタたち高位貴族って、他人が困ってるところにつけ込んむ連中ばっか、ってことじゃない」
ハァ、とレイヴン・シルバーウインド嬢はため息をつく。
「その通りだ。そしてそれは、高位貴族だけじゃない。平民もだ」
「残念でした! そんな平民、そうはいないわよ」
言い返したら、フッと鼻で笑われた。
なので、ずい、と迫った。
「いません。アンタがたまたま出会った奴がそんな奴だったって、だけ! それを、さもみんながそうみたいに決めつけてんのよ。少なくともフレイヤは違うから」
そこで、ようやく彼女は顔を上げた。
それまでずっと本を読んでいたのだ。
「自分は入れないの?」
あざけるように言ったのを意外に思った。
そういうタイプじゃないかと思ったよ。
「私は父に『利用されないよう親切を無料販売するな』って言われてるから。たまには親切の無料サービスをやるかもしれないけど、そのときは恩もセット販売するから!」
ただし、買ってはいけないとは言われていない。なので、私はたくさんの親切を買うのだ!
彼女は呆れた顔をした。
「なるほど、アンタからは親切を買わないほうがいいと分かったよ。……で、フレイヤ嬢。申し出はありがたいが、これは個人で解決しなければ意味がないのだ。気持ちだけ受け取っておこう」
と、返した。
「……そうですか。差し出がましい申し出をして申しわけありません」
「こちらこそ、余裕がなくてつい裏を疑ってしまい、申しわけなかった」
と、ひとまず和解した。
……しかし、レイヴン・シルバーウインド嬢は、しゃべり方が偉そうな感じね。
さすが高位貴族。
*
さて。そろそろ冬季休暇に入る。
私はケイラお嬢様と物理距離を離したいって思ってるのと、冒険者デビューしたいので、冬季休暇は残る予定。
冬期休暇は『感謝祭』という祭りの一週間ほど前からだ。
――この世界、クリスマスはないけれど祭りがある。
神様が冬眠に入るので、その前に神様に一年間の感謝の祈りを捧げるというのだ。
たぶんこじつけで、冬は収穫が減るのでその前から準備して最後に皆で乾杯した後冬ごもりしましょー……という感じだと思われ。
貴族の使用人も、実家に帰る人は帰っていいと言われていた。
もちろん、その際にはお土産を持たせなければならない!
実家の食い扶持が増えるからね!
お土産を期待して待ってる実家もあるでしょう。
ママンと私は当然残る組。
やることが増えるので、給料はこの時期だけ割り増しになる。
料理人のオッチャンも残る組だったけど、この時期はほぼ煮込みだったな。
人が減るので寒々しいし、実際寒いし、野菜も肉も備蓄してあるものなので味が落ちるし、煮込みが一番おいしく食べられるということでだ。
なお、多少の葉野菜は前世チートであったかい部屋で育ててみましょうよ……と説得して育てたので、色も見た目も悪いが、多少は食べられた。
恐らく今年もやっているでしょう。
――で、この感謝祭。実際は冬支度のことなので、長ーくやっている。
最終日が乾杯の日なんだけど、それまでもずーっとダラダラやっているのよ。
冬季休暇が始まるのは、正確には感謝祭最終日の一週間前なの。
なので、魔法クラスで冬期休暇に入る日に、ささやかなパーティを開こうってことになった。
感謝祭には、肉の塊(本来はまるまる一頭を村全員で分けるらしい)と、酒! ……らしいけど、私たちは裕福ではない未成年なので、適当に持ち寄って食べましょうと決まった。
「……レイヴン・シルバーウインド嬢はどうしましょう?」
フレイヤが困ったようにつぶやいた。
孤高の人レイヴン嬢はこういった催し物には参加しなさそう……か?
「……うーん。私が聞いてみるよ」
断られてもダメージのない私が聞いたほうがいいだろうな。
と、いうわけで彼女に尋ねた。
「ねーねー、レイヴン・シルバーウインド嬢。冬期休暇に入る日に、魔法クラスでささやかなパーティを催すのよ。皆で持ち寄って食べるだけなんだけど。参加します?」
「する」
即答!
即答したよ!
「……キミ、食事に対しての欲求が高すぎないやしないかい? 串焼きだって、もう少し我慢すれば両替商が開いたでしょ」
思わずツッコんだら、真顔でこちらを見た。
「私は、何よりも食べることが大好きなんだ。唯一の趣味と言ってもいいね。なので、そんなパーティがあるのなら参加するに決まっているだろ。皆に、たくさん持ち寄ってほしいと伝えておいて」
急に口調を崩したな。
私もだけど。
「……わかった、伝えておくよ」
孤高の麗人は、食いしん坊キャラなのか。
太るよ、っていいたいけど、見事なスレンダースタイルなので、太らないんだろうな……。




